クラブ選抜戦・予選リーグ2
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予選リーグ二日め。東京チームの試合は無し。
しかし完全な休みではなく、軽い練習の後に、チームのほぼ全員で試合の手伝いをした。
具体的にはボールボーイ(ガールがひとりいるが)とか、用具係とか、グラウンド整備などを手分けして行う。
北海道-近畿B戦の準備をしている最中だった。
「みっづほ、ちゃ~ん♪」
スキップでもしかねない勢いでやって来たのは、丘だ。
昨日の、武骨で男っぽい投球をしていたヤツと同一人物とは、とても思えない。
「いやー昨日はやられた、やられた。秋山とか言ったな。お前の盗塁がダメージでかかったわ」
丘が初めて俺の方を見た。
が、すぐにみづほに向かって、一方的にしゃべりまくる。
「みづほちゃん可愛い顔して、やることえぐいわー。俺のボールあそこまで飛ばせるヤツ、男でもそうおらんよ? しかも昨日の俺は絶好調やったのに。華奢な体の、どこにそんなパワーあるんかいな。二打席めなんか、投げるボールなかったで。櫻田は苦もなくひねってやったのになあ……」
「おう、言ってくれるじゃねえか」
櫻田も俺たちの輪に加わってきた。
「おー、二打席連続三振の櫻田くんやないかぁー」
「お前、なぁ……その後ホームラン打ったじゃねえかよ。それにしてもお前、遠野のこと好きだな。惚れたか?」
「ああ、惚れた。大好きや」
丘が急に真顔になった。
「ちゅうか、みづほちゃんのセカンド! 見たやろ? ごっつ美しい守備やった――今思い出してもゾクゾクするわ。あんなの見せられたら、野球やってるヤツなら誰でも惚れるやろ? 違うか?」
ああ――至言かもしれん。
俺や櫻田だけじゃない。千秋のみんなも漆畑監督も、ひとり残らず、みづほのプレーに魅せられているのだろう。
「丘ー! いつまで油売っとるかぁー!!」
ベンチの方で声がする。
「おっと、呼ばれたわ。じゃあな、櫻田、今度は甲子園で会おう。みづほちゃん、野球続けるんやろ? 応援するで。それから――秋山」
去り際に丘が、俺の肩をポン、と叩く。
「みづほちゃんをしっかり守るんやで。大切にせえよ」
「う、あっ? 何を勘違い……」
目を丸くする俺を尻目に、丘はベンチに走っていった。
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試合は近畿Bが、9-4で北海道を下した。
これで明日勝てば、東京チームの本選出場が決定する。
北海道チームの特色は、はっきり打撃のチーム。チーム数が少ないせいか、大半をベアーズの選手が占めていた。
ベアーズは全国大会の常連クラブだが、正直な話、こっちが格上だろう。
とはいえ、当然舐めてかかっていい相手ではない。
それに明日はショートで出場できる、最初で多分最後のチャンス。みづほと二遊間を組む晴れ舞台だ。
――頑張らないと。
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その日の夜、みづほからラインに連絡が入った。
>今すぐ家に来て
ん? 取りあえず返事する。
>どうした? 何かトラブった?
>明日の北海道戦打ち合わせしよ
ああ…そういうことか。昼のミーティングの復習な。
今日の解散前、北海道チームについての説明を受けた。
全国大会で対戦した英峰のメンバーから、相手の要注意選手や傾向などなど。
そんな時、今回に限らずみづほは必ずメモを取ってある。俺より遥かに記憶力がいいのにも関わらず、だ。
そのメモに、みづほ自身が実際に見た選手の特徴や癖を書き加え、独自のノートが完成する。
それを元にして対北海道戦の対策を練ろう、というみづほの提案だった。
「ちょっと行ってくる」
「遅くなって迷惑かけんじゃないよっ」
みづほの家のインターホンを押す。父親の車は、まだなかった。
「ちーちゃん? ちょっと待ってて」
扉がガチャリ、と開いて、みづほが顔を出した。
「ん……入って」
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みづほから、湯上がりの柔らかい匂いがする。
ブルーのキャミソールに、パステルカラーのミニスカート。
ずいぶん女の子らしい恰好だが、みづほは俺を自宅に招く時、だいたいそんな服を着ていた。
自宅でもおしゃれするんだね、と聞いたことがある。
「ちーちゃん一応、お客さんだから。パジャマじゃ、ちょっとね」
みづほは笑って答えていた。
「お茶淹れるね?」
「いいよ、気を遣わないで」
父親がいない時は、居間のソファに並んで座り、ふたりでデータを検討するのが常だった。
みづほがノートを広げる。
「相手はベアーズの選手がほとんど。プルヒッターが多いのは、ミーティングで言ってたわね」
「うん」
「要注意選手はクリーンアップ――この三人は間違いなく明日も先発よね」
今日先発したメンバーに対する基本的な守備位置を、ふたりで確認していく。
その……なんだ。みづほの今日の服だが、ちょっとヤバい。
ふたり並んで、ひとつのノートを覗き込んでいるから、みづほの日焼けしてない、剥き出しの白い肩が当たってくる。
それはまだ、いい。
風呂上がりのみづほは大抵ノーブラで、ユニフォーム姿では分からないが、意外に胸があることも知っている。
それもまだ、いい。
その――みづほがノートに屈み込んで書いたり説明する度、俺の視界に飛び込んでくるんだ……みづほの胸の谷間が、しかも盛大に。
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いかん。いったん意識してしまうと、どうしても目が行ってしまう……
みづほが屈むと、キャミの胸当てがちょっと浮いて、その隙間からふたつの柔らかそうな白い膨らみが、ふわっと顔を出してくる。
時にはそれが大きくはみ出して、胸のポッチが見えそうになる。
そしてその谷間から、なんとも言えぬいい匂いがしてきて……
ヤバい。おかしくなりそうだ――というより既におかしくなってる。
「……ちーちゃん? ちーちゃん!」
「ん……あっ?!」
みづほの声に、ふっと我に返る。
「何なのよ、さっきから変な生返事ばっか。ちゃんと聴いてる?」
「ん……ああ、聴いてるよ」
みづほが俺の顔を見て、眉を寄せた。
「どうしたの? ちーちゃん顔真っ赤だよ?」
あ――そりゃお前のせいだ、とは口が裂けても言えん。
心配そうなみづほの顔が近づいてくる。
「疲れちゃった? 熱、ある……?」
みづほの右手が俺の額を撫でる。
次の瞬間、ごく自然な動作で――ほんとにごく自然に――みづほがおでこをピタッとくっ付けてきた。
……女の子の感触と体温が、直に伝わってくる。
……みづほの顔が、こんな近くに……
……もう……あかん……
ヤカンのように、俺の耳から蒸気が噴き出る音が聞こえてきた。
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「ちーちゃん……大丈夫? ゴメンね、ゴメンね……」
みづほは何か誤解して、ほとんど泣きそうになっている。
多分、俺がこうなったのは自分のせいだと思っている――ある意味正解なのだが。
きっと、俺が体調悪いのに無理に誘ってとか何とか、考えているんだろう。
何とかしないと。でも真相は……絶対言えん。
「いや、知恵熱だと思うよ……体調は全然悪くない」
「――ほんと?」
「ああ、ほんと。俺さ、頭使うとすぐこんななるんだ……少し休めば元通りになるよ」
原因は違うが、少し休めば大丈夫なのは嘘じゃない。
「それなら、あたしのベッドで休も?」
みづほのベッドで! いやそれは絶対、症状が悪化するわ。
「いや、とりあえず顔洗ってくる」
俺を心配して、いろいろ世話を焼こうとしてくれるみづほを制して、俺は帰ることにした。
「もう大丈夫だよ。打ち合わせの途中で、ごめんな」
「ううん、いいの。ゆっくり休んでね……肩貸そうか? フラフラしてるよ」
いや、前屈みでまっすぐ歩けないのは、体調のせいじゃなくて男の生理現象――つか、これ以上の密着は勘弁してくれ。
「ひとりで帰れるよ、隣だし。お休み、また明日」
「また明日」
そう言いながらみづほは、玄関の外で、俺が自宅に戻るまでじっと見つめていた。
「ただいま」
「あら、お帰り」
「明日も試合だし、もう寝るわ」
「お休み」
帰るや否や、俺はベッドに潜り込み、ズボンもパンツも脱いだ。
そして、その――股間の昂ぶりを鎮めることにした。
「みづほ……ごめん」
みづほのあれやこれやを思い出しながら……
少し弄っただけで爆発寸前だったソレの事は済み、俺はティッシュのお世話になった。
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「知恵熱って、ほんとだったのね。安心した」
すっかり顔色のよくなった俺を見て、みづほはようやく微笑んだ。メモを渡される。
「難しい話は、抜き。どうせデータ足りないし。これで行きましょ」
メモには”ちーちゃんは三遊間ケア。センター方向はセカンドが捕るのでバックアップお願い”と書いてあった。
「OK」
今日は櫻田が代打に回って、四番を打っている宮永がサードに入る予定だが、ヤツは横の動きがやや鈍い。ショートはきっと、忙しくなるだろう。
こういう時、隣にみづほが居てくれるのは、本当に心強い。
「あたしたちの息がピッタリなとこ、みんなに見せたいね」
「ああ。今日もよろしくな、相棒」
スタメン発表。
俺は五番ショート、みづほは六番セカンド。
櫻田が休んだ分だけ、打順がひとつ上がった。
守備のハイライトは、初回にいきなり訪れた。2アウト走者なし。
北海道の三番打者がセンター方向に鋭い打球を打ち返す。
普通ならセンター前ヒットなのに、予め左寄りに守っていたみづほが、飛びついてキャッチ。
俺は打球を追わず、みづほの視線の先に駆けて行く。
腹ばいになったまま、みづほがグラブトス。俺はボールを受け取り、一塁へ送球。
アウト。球場全体からどよめきと拍手が起こった。
「ナイスセカンド」
「ナイスショート、ナイスカバー」
俺たちはグラブを叩き合って、ベンチに戻った。
試合は12対2、5回コールドの完勝。
みづほは2打数2安打、1四球。俺も3打数2安打、走者一掃の二塁打を放った。
東京チームはリーグ1位となり、次週の本選へ駒を進めた。
もう少し、みづほと野球ができる。
身の引き締まる思いだった。
丘大樹くんですが、昭和のにおいがする選手っぽい設定になっています。
母子家庭で金銭的に結構苦労してて、新聞配達で毎朝10㎞は走ってるとか、そんな感じ……高校編で、機会があれば再登場させたいキャラです。




