表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
10/297

クラブ選抜戦・予選リーグ2


 予選リーグ二日め。東京チームの試合は無し。

 しかし完全な休みではなく、軽い練習の後に、チームのほぼ全員で試合の手伝いをした。

 具体的にはボールボーイ(ガールがひとりいるが)とか、用具係とか、グラウンド整備などを手分けして行う。


 北海道-近畿B戦の準備をしている最中だった。

「みっづほ、ちゃ~ん♪」

 スキップでもしかねない勢いでやって来たのは、丘だ。

 昨日の、武骨で男っぽい投球をしていたヤツと同一人物とは、とても思えない。

「いやー昨日はやられた、やられた。秋山とか言ったな。お前の盗塁がダメージでかかったわ」

 丘が初めて俺の方を見た。

 が、すぐにみづほに向かって、一方的にしゃべりまくる。

「みづほちゃん可愛い顔して、やることえぐいわー。俺のボールあそこまで飛ばせるヤツ、男でもそうおらんよ? しかも昨日の俺は絶好調やったのに。華奢な体の、どこにそんなパワーあるんかいな。二打席めなんか、投げるボールなかったで。櫻田は苦もなくひねってやったのになあ……」


「おう、言ってくれるじゃねえか」

 櫻田も俺たちの輪に加わってきた。

「おー、二打席連続三振の櫻田くんやないかぁー」

「お前、なぁ……その後ホームラン打ったじゃねえかよ。それにしてもお前、遠野のこと好きだな。惚れたか?」

「ああ、惚れた。大好きや」

 丘が急に真顔になった。

「ちゅうか、みづほちゃんのセカンド! 見たやろ? ごっつ美しい守備やった――今思い出してもゾクゾクするわ。あんなの見せられたら、野球やってるヤツなら誰でも惚れるやろ? 違うか?」


 ああ――至言かもしれん。

 俺や櫻田だけじゃない。千秋のみんなも漆畑監督も、ひとり残らず、みづほのプレーに魅せられているのだろう。

「丘ー! いつまで油売っとるかぁー!!」

 ベンチの方で声がする。

「おっと、呼ばれたわ。じゃあな、櫻田、今度は甲子園で会おう。みづほちゃん、野球続けるんやろ? 応援するで。それから――秋山」

 去り際に丘が、俺の肩をポン、と叩く。

「みづほちゃんをしっかり守るんやで。大切にせえよ」

「う、あっ? 何を勘違い……」

 目を丸くする俺を尻目に、丘はベンチに走っていった。


 試合は近畿Bが、9-4で北海道を下した。

 これで明日勝てば、東京チームの本選出場が決定する。

 北海道チームの特色は、はっきり打撃のチーム。チーム数が少ないせいか、大半をベアーズの選手が占めていた。

 ベアーズは全国大会の常連クラブだが、正直な話、こっちが格上だろう。


 とはいえ、当然舐めてかかっていい相手ではない。

 それに明日はショートで出場できる、最初で多分最後のチャンス。みづほと二遊間を組む晴れ舞台だ。

 ――頑張らないと。




 その日の夜、みづほからラインに連絡が入った。

  >今すぐ家に来て

 ん? 取りあえず返事する。

  >どうした? 何かトラブった?

  >明日の北海道戦打ち合わせしよ

 ああ…そういうことか。昼のミーティングの復習な。


 今日の解散前、北海道チームについての説明を受けた。

 全国大会で対戦した英峰のメンバーから、相手の要注意選手や傾向などなど。


 そんな時、今回に限らずみづほは必ずメモを取ってある。俺より遥かに記憶力がいいのにも関わらず、だ。

 そのメモに、みづほ自身が実際に見た選手の特徴や癖を書き加え、独自のノートが完成する。

 それを元にして対北海道戦の対策を練ろう、というみづほの提案だった。


「ちょっと行ってくる」

「遅くなって迷惑かけんじゃないよっ」

 みづほの家のインターホンを押す。父親の車は、まだなかった。

「ちーちゃん? ちょっと待ってて」

 扉がガチャリ、と開いて、みづほが顔を出した。

「ん……入って」


 みづほから、湯上がりの柔らかい匂いがする。

 ブルーのキャミソールに、パステルカラーのミニスカート。

 ずいぶん女の子らしい恰好だが、みづほは俺を自宅に招く時、だいたいそんな服を着ていた。

 自宅でもおしゃれするんだね、と聞いたことがある。

「ちーちゃん一応、お客さんだから。パジャマじゃ、ちょっとね」

 みづほは笑って答えていた。


「お茶淹れるね?」

「いいよ、気を遣わないで」

 父親がいない時は、居間のソファに並んで座り、ふたりでデータを検討するのが常だった。

 みづほがノートを広げる。

「相手はベアーズの選手がほとんど。プルヒッターが多いのは、ミーティングで言ってたわね」

「うん」

「要注意選手はクリーンアップ――この三人は間違いなく明日も先発よね」

 今日先発したメンバーに対する基本的な守備位置を、ふたりで確認していく。


 その……なんだ。みづほの今日の服だが、ちょっとヤバい。

 ふたり並んで、ひとつのノートを覗き込んでいるから、みづほの日焼けしてない、剥き出しの白い肩が当たってくる。


 それはまだ、いい。


 風呂上がりのみづほは大抵ノーブラで、ユニフォーム姿では分からないが、意外に胸があることも知っている。


 それもまだ、いい。


 その――みづほがノートに屈み込んで書いたり説明する度、俺の視界に飛び込んでくるんだ……みづほの胸の谷間が、しかも盛大に。


 いかん。いったん意識してしまうと、どうしても目が行ってしまう……

 みづほが屈むと、キャミの胸当てがちょっと浮いて、その隙間からふたつの柔らかそうな白い膨らみが、ふわっと顔を出してくる。

 時にはそれが大きくはみ出して、胸のポッチが見えそうになる。

 そしてその谷間から、なんとも言えぬいい匂いがしてきて……

 ヤバい。おかしくなりそうだ――というより既におかしくなってる。


「……ちーちゃん? ちーちゃん!」

「ん……あっ?!」

 みづほの声に、ふっと我に返る。

「何なのよ、さっきから変な生返事ばっか。ちゃんと聴いてる?」

「ん……ああ、聴いてるよ」

 みづほが俺の顔を見て、眉を寄せた。

「どうしたの? ちーちゃん顔真っ赤だよ?」


 あ――そりゃお前のせいだ、とは口が裂けても言えん。

 心配そうなみづほの顔が近づいてくる。

「疲れちゃった? 熱、ある……?」

 みづほの右手が俺の額を撫でる。

 次の瞬間、ごく自然な動作で――ほんとにごく自然に――みづほがおでこをピタッとくっ付けてきた。


 ……女の子の感触と体温が、直に伝わってくる。

 ……みづほの顔が、こんな近くに……

 ……もう……あかん……

 ヤカンのように、俺の耳から蒸気が噴き出る音が聞こえてきた。


「ちーちゃん……大丈夫? ゴメンね、ゴメンね……」

 みづほは何か誤解して、ほとんど泣きそうになっている。

 多分、俺がこうなったのは自分のせいだと思っている――ある意味正解なのだが。

 きっと、俺が体調悪いのに無理に誘ってとか何とか、考えているんだろう。

 何とかしないと。でも真相は……絶対言えん。


「いや、知恵熱だと思うよ……体調は全然悪くない」

「――ほんと?」

「ああ、ほんと。俺さ、頭使うとすぐこんななるんだ……少し休めば元通りになるよ」

 原因は違うが、少し休めば大丈夫なのは嘘じゃない。

「それなら、あたしのベッドで休も?」

 みづほのベッドで! いやそれは絶対、症状が悪化するわ。

「いや、とりあえず顔洗ってくる」


 俺を心配して、いろいろ世話を焼こうとしてくれるみづほを制して、俺は帰ることにした。

「もう大丈夫だよ。打ち合わせの途中で、ごめんな」

「ううん、いいの。ゆっくり休んでね……肩貸そうか? フラフラしてるよ」

 いや、前屈みでまっすぐ歩けないのは、体調のせいじゃなくて男の生理現象――つか、これ以上の密着は勘弁してくれ。

「ひとりで帰れるよ、隣だし。お休み、また明日」

「また明日」

 そう言いながらみづほは、玄関の外で、俺が自宅に戻るまでじっと見つめていた。


「ただいま」

「あら、お帰り」

「明日も試合だし、もう寝るわ」

「お休み」

 帰るや否や、俺はベッドに潜り込み、ズボンもパンツも脱いだ。

 そして、その――股間の昂ぶりを鎮めることにした。

「みづほ……ごめん」

 みづほのあれやこれやを思い出しながら……

 少し弄っただけで爆発寸前だったソレの事は済み、俺はティッシュのお世話になった。




「知恵熱って、ほんとだったのね。安心した」

 すっかり顔色のよくなった俺を見て、みづほはようやく微笑んだ。メモを渡される。

「難しい話は、抜き。どうせデータ足りないし。これで行きましょ」

 メモには”ちーちゃんは三遊間ケア。センター方向はセカンドが捕るのでバックアップお願い”と書いてあった。

「OK」

 今日は櫻田が代打に回って、四番を打っている宮永がサードに入る予定だが、ヤツは横の動きがやや鈍い。ショートはきっと、忙しくなるだろう。

 こういう時、隣にみづほが居てくれるのは、本当に心強い。

「あたしたちの息がピッタリなとこ、みんなに見せたいね」

「ああ。今日もよろしくな、相棒」


 スタメン発表。

 俺は五番ショート、みづほは六番セカンド。

 櫻田が休んだ分だけ、打順がひとつ上がった。


 守備のハイライトは、初回にいきなり訪れた。2アウト走者なし。

 北海道の三番打者がセンター方向に鋭い打球を打ち返す。

 普通ならセンター前ヒットなのに、予め左寄りに守っていたみづほが、飛びついてキャッチ。

 俺は打球を追わず、みづほの視線の先に駆けて行く。

 腹ばいになったまま、みづほがグラブトス。俺はボールを受け取り、一塁へ送球。

 アウト。球場全体からどよめきと拍手が起こった。

「ナイスセカンド」

「ナイスショート、ナイスカバー」

 俺たちはグラブを叩き合って、ベンチに戻った。


 試合は12対2、5回コールドの完勝。

 みづほは2打数2安打、1四球。俺も3打数2安打、走者一掃の二塁打を放った。

 東京チームはリーグ1位となり、次週の本選へ駒を進めた。


 もう少し、みづほと野球ができる。

 身の引き締まる思いだった。


 丘大樹くんですが、昭和のにおいがする選手っぽい設定になっています。

 母子家庭で金銭的に結構苦労してて、新聞配達で毎朝10㎞は走ってるとか、そんな感じ……高校編で、機会があれば再登場させたいキャラです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ