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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
プロローグ
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プロローグ




 秋が近づき涼しくなった、甲子園球場のナイトゲーム。

 ライナー性の打球はぐんぐん伸びていき、半ば焼けっぱちになっていた応援団の待つレフトスタンドぎりぎりに飛び込んでいった。


 野球の試合的には、完全な空砲だった。

 今年もまたNPB(日本プロ野球)セリーグ最下位を独走する、東京ドルフィンズ。

 3連敗中の本日も一方的な展開で、1-6のビハインドで迎えた9回表、一死ランナー無しで放たれた、焼け石に水とも言えるソロアーチだった。


 にもかかわらず。

 完投勝利目前だった大阪レパーズの本格派右腕、藤田投手は動揺を隠し切れず、マウンドで膝をついたまま打球の行方を見続けていた。まるでサヨナラホームランを食らったかのようになかなか立ち上がれず、投手コーチが心配してやって来る有様だった。

 満員だったスタンドの観客も、三塁側のわずかなドルフィンズファンだけでなく、球場の大多数を占めていたレパーズファンまでもが総立ちになって、打者を狂喜して褒め称えた。

 右手で左胸を押さえながら、ダイヤモンドを少し速足で回っていく小柄な選手に、惜しみない拍手と声援が送られる。

 やがて球場全体に響き渡る、観客全員が放った選手コール。

「み・づ・ほ! み・づ・ほ!」


 打ったのは、プロ入り二年め、二十歳の内野手。

 試合途中からセカンドの守備につき、これがプロ入り二打席めだった。


 遠野みづほ。


 見た目は、どこにでもいる女の子。

 日本初の、女性選手によるNPB初安打、初アーチ。

 俺にとっては、家が隣同士の幼馴染であり、シニア、高校に渡って二遊間を組んだ、かけがえのない相棒。

 そして。

 今はなかなか逢えない、俺の彼女だった。


 俺は、みづほの初アーチをリアルタイムで観ることはできなかった。

 その時刻はまだ自主練習中。素振りの真っ最中だったからだ。

 シャワーを浴びて大学寮の食堂に戻ってきたら、ちょっとした騒ぎになっていた。テレビのスポーツニュースはどの局も、優勝争いも他競技も差し置いて、冒頭にみづほの初アーチを映していた。

 画像に幾度となく流れるホームランの軌道を、俺は目に焼き付ける。


「アキ」

 俺を呼ぶ声がする。四年生のショート、福留さんだった。俺はショートの控えだったが、今秋からはセカンドにまわって、公式戦にも出られるようになった。

 同じポジションの後継者ということで、トメさんには特に可愛がってもらっている。

「トメさん、ちっす」

「みづほちゃん、やったなあ」

「はい」

「……俺たち、負けらんないな」

「……はい……」


 寮のトイレに籠って、みづほにメールを送る。


------------

 from 秋山千尋

 to みづほ

 件名 ちーちゃんからのお祝い


 みづほ おめでとう!

 見事なホームランだったよ

 インコースのストレートをよくはじき返したね

------------


 返事がものの数分で還ってきた。


------------

 from みづほ

 to 秋山千尋

 件名 Re:ちーちゃんからのお祝い


 ちーちゃん ありがとう!

 どのお祝いよりも嬉しいよ(*^▽^*)

 藤田さんが二回 首を振ったので球種とコースはわかってた

 あとは軌道を読んで思い切り振るだけだったの

 少し甘く入ったのでHRになったかな♪


 ちーちゃんも秋の大会レギュラーおめでとう

 ガンバだよっ!!


 P.S. 今度逢った時 HRのご褒美にギュッてしてください


 みづほ

-------------


 そうなんだよなあ。こんな調子のメール送ってくるもんだから、トメさんに見られて、彼女だ、ていうのがバレて、先輩どころか同輩にまで、布団蒸しの刑を食らったんだよなあ……

 みづほからは、彼氏がいるって公然にしとかないと、すぐ口説こうとするヤツが何人もいる、野球に集中したいんだ、って言われた。


 それにしても、なんじゃ、こりゃ。

 投手がサインに首を振っただけで球種とコースが丸分かり?

 まあ、みづほのことだから、得ている情報はそれだけじゃないんだろうが。

 でも藤田投手のストレートって150km/hあるぞ?

 しかもえぐいスライダー回転するから、胸元えぐるコースからストライクゾーンに入ってくるという、シャレになんない軌道を通ってくる。

 分かってたからって、打てるもんじゃないだろ。


「ふう……」

 俺はトイレの便器に座ったままため息をついた。

 このメールもきっと、トメさんに見られるんだろうな。

 ぶっとい腕で、ひとしきりヘッドロックをかました後に、トメさんはこう呟くんだろう。

「アキ、勉強になるな。みづほちゃんのメールは」

 これだけの文章でも、みづほの野球に対する姿勢、考え方がびんびん伝わってくる。

 俺は……そう、俺は昔っから、みづほに野球を教わってばかりだった。


 これを書くにあたって元プロ野球選手のKさんのお話を参考にさせていただきました。

「どのような人がプロ野球選手になれると思いますか?」

 の問いにしばらく考えて、

「うーん。脚が速けりゃたくさん動けるので、なんとかなるでしょうねえ……」

 と答えたKさん、あなたもさすがの怪物さんだと思いましたw


変更:大阪スタジアム→甲子園球場。やっぱ甲子園の方がいいよね、話的にも(^^♪

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