プロローグ
完結作品を目指して練習中
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人は死の間際に人生の走馬燈を見るというのを聞いたことがある。
曰く、周囲の時間の流れがスーパースロー映像のようにゆっくりとなり、自分が生まれてから今までの人生の記憶を早送りで見ているようになるという。
そんな死ぬ人間が見る情景を、生者が知ることは出来ないのだから宗教上の創作だろうと信じてはいなかったが、実際に体験中の現在では「言われていた通りだ」と納得できた。
そう、実際に体験中なのだ……。
迫りくるトラックの前に、ヘッドスライディングを決めるかのように俺は飛び出しており、伸ばされた腕の先にはトラックの進路外へと突き飛ばされている幼稚園児の男の子。
フィクションで多用される子供を助けようと車の前に飛び出す登場人物、それを現在進行形で俺は実施していた。
事故の瞬間へ立ち会うのは、生まれて初めてではあるが、自分がこうまで積極的に動くタイプの人間だったとは、つい最近に経験した「告白→玉砕→泣きながら逃走」という回想が脳内を巡る中で思う。
直後、体全体が鈍い音共に砕かれる感触を覚え、本能からか痛覚が脳を直撃する前に思考と視界がブラックアウトした。
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とある森の中に作られた獣道を歩く人影が一つあった。
周囲の木々から背丈はそれなりに高そうな人影は、深緑の布で作られたポケットなどを複数ある服―――建設作業員が着るような服―――を身に纏い、腰には小袋が複数ぶら下がっているポートを装着し、大きな篭を背負っていて、これから森で野草などを採取するかのように見える。
それが証明するかのように、既に篭の中にはキノコや野草がいくつか入っており、採取を始めてからそれなりの時間が経過していることを物語っていた。
「……ん?」
採取に精を出していた人影は、何か気になることでもあったかのような声を上げたかと思うと、作業の手を止めて、何故か腰に下げている鉈状ナイフに手をかけると油断なく周囲へと視線を巡らせ始めた。
しかし、周囲の景色はそんな人影の警戒をあざ分からうかのように、サワサワとよそ風によって擦れ合う草木の音だけしか聞こえない……虫や動物などの生き物の音が、消えていた。
その変化に長居は危険と感じたのか、人影は作業を中断したまま数歩ほど後ずさりをした後に、まるで何かに対して驚かせないようにユックリとした足取りで、しかし可能な限り速足でという器用な動きで森からの撤退を開始する。
だが、それもすぐに無意味となった。
「ぐっ……!?」
人影の真上にある木々から、ガサガサ、バキバキという静寂をぶち壊すかのような音がしたかと思うと、何かが降ってきたのだ。
そのまま衝突するかと思われた瞬間、人影が開いている掌を頭上へと掲げると周囲にシャボン玉のような膜が現れ、落ちてきた何かがそれに接触すると、その部分が静電気のように青白い稲妻線を出しながら何かを弾き飛ばす。
弾き飛ばされた何かは、人影から10メートルほど離れた草むらへ弧を描くようにして落下した。
「……?」
おそらく自身への襲撃か何かと思っていたのか、人影は何かが落ちた草むらへと視線を向けたものの、その場所から一向に何かが動く気配がしない。
チラリと視線を頭上へと向ければ、枝が折られ、千切られた葉がヒラヒラと人影の周囲へとゆっくりと落ちている最中である。
人影の目には、落ちてきたモノが小さかった事、全体的に肌色だった事、そして人の形をしていた事を捉えていたからこそ、自分を狙った襲撃か何かかと思って警戒をしているのだが、相手の次の手が一向にやってこない。
痺れを切らしたのか、人影はナイフを構えつつ空いている手で腰に下げた小袋の一つからビー玉のようなものを取り出すと自身の前方へと指先で弾き飛ばす。
先ほどの何かが描いた弧をなぞるようにして草むらへと向かっていった玉は、ちょうど落下してきた何かの上あたりでパリンとガラスが割れるような音ともに砕け散って、破片を周囲へ飛散したかと思うと、一辺が4メートルほどある白い光の線と、先ほどと同じシャボン玉の膜のような面で出来たキューブが突如として表れて草むらを囲った。
とはいえ、森の中でそんな広範囲な空間などあるわけもなく草木が一緒に巻き込まれたのだが、それらは鋭利な刃物で切り取られたかのように一瞬にしてキューブの内外で分けられてしまい、いくつかの木々は支えを失って周囲の枝を巻き込みつつ大きな音を立てて倒れていく。
そして、キューブ内に閉じ込められた草木はというと、綿が一瞬で燃え尽きるかのように消え去っていった。
「…………っ!?」
残ったものとはいえば、人影の頭上から落下してきた何かだけ……。
襲撃者の身元を確認するつもりだったのだろう行動は、キチンと成果を上げて草木が完全に排除された中には一人の人間が横たわっていた。
もっと正確に言えば、横たわっているのは10歳ほどの裸の少女であり、病的なまでの白い肌と長くサラサラとした銀髪という異様な姿をしている。
「…………何という事だ」
横渡る少女から何かを察したのか、ナイフを握っていない手で拳を作り額をを抑えつつ空を見上げた人影は、若者以上の活力に満ちた瞳を閉じて、威厳に満ちた中に疲れに似たモノを混ぜた声を空へと放った。