事後処理のような物(3)
今週はお詫びの連続投稿です。
前半〜中盤グロ注意
『良いでしょう、ナイン貴方を我々の末席に迎え入れることを長姉として許可します。』
『よろしくお願いします、姉さん。』
『よく分からぬが、我は2人が仲良くなれたのが嬉しいぞ。』
『トウヤ、私はあの仲に入れないのかしら?』
『あ、エミリアさんはマスターを愛した仲ってことでもう認めてますよ?』
『エミリアお姉ちゃん、宜しくね?』
女性陣がきゃーきゃー騒いでいるのをしり目に、ナインの後ろの空間が歪み、装飾された武器の柄が出て来ているのにトウヤは気付いた。
『我の宝物が反応したか…、ナインすまぬが後ろの柄を引き抜いてくれぬか?』
『…え?』
『マスター、もしかして?』
『うむ、持ち主を見つけた様だ。』
『『持ち主?』』
エミリアとナインが揃って首を傾げていたが説明するより、実際に体験して貰う方が良いだろう。
『詳しい話は後だ、ナイン柄を引き抜くのだ。』
『よく分かりませんが、父様がそう言うなら。』
不承不承、トウヤの言葉に従いナインが柄を引き抜くと、柄の生えたゲートから膨大な魔力の奔流が溢れた。
そして、その魔力の奔流が収まるとナインの手には雷を纏った一本の石槌が残った。
『父様、この槌は何ですか?本来なら有り得ない莫大な魔力を感じますが?』
『ええ、見える部分だけでもとんでも無い魔力よ⁈』
ナインとエミリアが石槌の魔力に驚愕する。
『ウコンバサラが出たか…、我の予想だとトールハンマー辺りか出ると思っていたのだがな。』
『でも、マスター?ウコンバサラもなんだかんだ言ってゴッズ級ですから大概の敵は殲滅出来ますよ?』
『『ウコンバサラ?』』
『ウコンバサラとはですね、マスターがかつて集めた古代の神魔達の武装の一つです。そして、この神魔達の武装は使い手を自分で選ぶ為、マスター以外は武装が選んだ使い手以外は触ることも出来ないんですよ。』
『トウヤはそんな武装を集めて何をしようとしてたのよ』
『ん?我か?集めたと言うよりは必要に応じて使い分けてたと言うのが正しいな。』
DDDには敵によって耐性があった為特にボス戦では武装の数=攻撃の選択肢だったのだ。
尚且つイベント上位限定武装などがあり、お陰でコレクションと実用性が両立してたのだ。
まあ、状況次第であらゆる種類の攻撃方法を選択出来なければイベントボスなんか倒せなかったのだが。
『ウコンバサラは我の宝物庫に普段仕舞っておけるから出し入れするならゲートと唱えればよい。』
『分かりました父様。ゲート!』
ナインがゲートと唱えると手に持っていたウコンバサラが消える。
『さて、ではボルドーに会いに冒険者ギルドに行くか。』
『『『はいっ』』』
中央の通りを暫く歩くと冒険者ギルドと書かれた看板を掲げた建物を見つけることが出来た。
西部劇で酒場の戸が板で出来ていたが、目の前の建物も同じだった。
後から聞いた話では荒っぽい冒険者が多く、ちゃんとした扉を付けると修理費が馬鹿にならないと割と理にかなっていた。
その板を押して中に入ると喧騒が聞こえてくる。
一階はカウンターが2つと羊皮紙の貼られた場所、あと酒場に分かれており、多分カウンターが片方が依頼の受付でもう一方がモンスターの素材の買取専用なのだろう。
また、羊皮紙が貼られた場所は手前にレザーアーマーを着込んだ冒険者風の者が何名か真剣な眼差しで羊皮紙を見ている事から依頼の掲示場所なのだろう。
そんな事を考えていると目の前に影が差した。
考え事を止めて前を見るとスキンヘッドで筋骨隆々、2m程有りそうな男が此方を見下した笑みを浮かべ、バトルアックスを手に近寄って来ていた。
『おう兄ちゃん、女引き連れてこんな場所に来るたぁいい度胸だ。後ろの女置いてとっとと帰りな!』
『ギャハハ!とっととママの所に帰ってオッパイでも飲んでな!』
『そのママは今頃俺のベッドに居らぁ』
『お前趣味悪いぞ。』
『『『ギャハハハハ!』』』
この男の仲間なのだろう、酒場に居た2人の男が此方に下卑た野次を飛ばす。
その他の冒険者風な者達は『やれやれまたか』と言う雰囲気を出していた。
『ギャレットさん、騒ぎを起こさないでください!』
『ウルセェ!黙らせたいなら力ずくでやるんだなぁ!』
『ギャレットを女が止められるはずないだろ』
『ちげぇねえ』
『『『ギャハハハ!』』』
カウンターに居た女性が見かねて止めようとしたのだが、止まらなかった。男は酒も入って気が大きくなっており、尚且つ自分の腕力に絶対の自信が有るのだろう。
『…黙れ』
トウヤのが呟いた一言は辺りの喧騒を無視しこの階に居る全員の耳に届いた。
その一言に込められた殺気にギャレット呼ばれた男と2人の仲間以外は気付き身を強張らせた。
『ギャレットの前に居る男をこれ以上怒らせてはいけない、きっと取り返しの付かない事になる。』
そんな思いが胸中に生まれ、その一挙手一投足を見逃さず如何にして逃げればいいのか算段をする者も居た。
『ああん?テメエ今何つった?』
『黙れと言ったのが分からぬか?ああ、ゴブリン風情に人の言葉は理解出来ぬか。』
『この野郎…生きて帰れると思うなよ‼︎おい、この生意気な奴に現実を見せてやるぞ!』
ギャレットが自分の仲間に叫ぶと酒場からギャレットの仲間も飛び出して来てギャレットの両隣でロングソードを構える。
3人の構えも中々堂に入っており、実力がそこそこあるのが伺えた。
但し、一般人や冒険者に成り立てを相手にすればまず勝てるだろう。
しかし、相手が悪かった。
『俺様を舐めやがって、死ねやー!』
ギャレットがバトルアックスを大上段から力を乗せて振り下ろす。
速度の載ったバトルアックスにギャレットが勝利を確信して笑みを浮かべ。
『太陽主権限定解放』
トウヤが掲げ広げた右手に、バトルアックスが触れる瞬間トウヤが力の解放を宣言する。
その結果。
『なっ、なにぃ!俺様のバトルアックスが!』
『解けた⁈』
そう、ギャレットが振り下ろしたバトルアックスがトウヤの右手が触れた箇所からゴッソリと削られていた。
『正確に言えば昇華だがな。』
『テメエ何しやがった!』
ギャレットがトウヤに叫ぶが、両隣に構えたギャレットの仲間はやっと自分がとんでもない奴に武器を向けていることを悟り、手が震えだす。
『太陽主権を解放しただけだが?まあ、正確には熱量を一瞬だけ取り出しただけだが?まあ、ゴブリンには難しくて分からぬだろうがな。』
『なっ舐めやがって!』
『手加減してやったのに自分との力量差が分からぬとは…、ならば果てるがいい。』
『ギャアァァァァァァ!』
殴りかかって来たギャレットの拳を右手で掴むと拳からギャレットの全身へ焔が走り全身を包み込む。
一瞬の出来事で焔は直ぐに消えたがギャレットは表面が炭化していたが辛うじて生きていた。
『いたイタイイタイイタイイタイイタイイタイ』
その口からは壊れたレコーダーの様に同じ言葉が出ていた。
周りは静寂に包まれ、ギャレットの言葉だけが微かに響いていた。
そんな中でトウヤが動き出す。
『ふむ、死なない様に手加減してやったのだが逆にえげつなくなってしまったか…いってえ⁈』
『トウヤ、いくら何でもやり過ぎよ!』
『でも、マスターに喧嘩売ったのですから最低限竜種に1人で勝てる実力が有ると思うのが普通ではありません?』
『アクア姉様それ、人類じゃ多分無理です。』
喋りの途中でエミリアに後頭部を殴られ、その衝撃で怒気が霧散する。
アクアとナインが酷評を上げ、張り詰めた空気が弛む。
その時、ギャレットの仲間が揃ってジャンピング土下座を決めた。
『謝るから、ギャレットを助けてくれ!』
『すまない、此れからは心を入れ替えるから頼む!この通りだ!』
『はぁ、確かに我の予想を遥かに下回る雑魚を殺すのは我のプライドが許さないから助けてはやるが次は無いからな?』
『勿論だ!俺らは二度と誰かにからまねぇ、だからギャレットを!』
『はぁ、EXヒール』
トウヤが炭と化したギャレットに手の平を向け魔法名を唱えると炭化した皮膚が元の状態に戻り、ハゲ上がた頭からは髪が生えた。
元通りと言うより悪い所が軒並み治ったと言うか。
その後継を見ていた者は余りの光景に口を開けたまま言葉を発することが出来なかった。
何せ、全身が炭化した瀕死の人間が元通りになるなんて普通の回復魔法やポーションでは不可能だからだ。
そして、元通りになったギャレットにしがみついて泣き腫らす2人の仲間にもう用は無いとばかりにトウヤ一行はカウンターに向かう。
『騒がせたな。』
『いっ、いえ冒険者の行動は全て自己責任となっておりますので大丈夫です。それで、本日はどの様なご用件でしょうか?』
若干笑顔が固い受付嬢に肩を落とし、要件を伝える。
『ボルドー…ボルドー・グランフェザード殿はいらっしゃるか?昨日の件で、トウヤが報酬を貰いに来たと言えば分かる筈なのだが。』
『ギルドマスターですか⁈確認して来ますので少々お待ち下さい!』
受付嬢がパタパタと言う足音を残し奥に消えて行く。
少しすると受付嬢が息を切らしてカウンターまで戻って来た。
『ギルドマスターがお会いするそうですので案内させていただきます。』
背を向けて歩いて行く受付嬢に案内され、ギルドの内部を歩いて行く。
『挨拶が遅れましたが私はフランと申します。』
『改めて、我はトウヤと言う、彼女達はエミリアとアクア、それからナインと言う宜しく。』
受付嬢改め、フランが挨拶しトウヤが皆を紹介する。
『それで、トウヤさん先程の回復魔法は素晴らしい威力でした。』
『うん?まあ、我も少しやり過ぎたからな奮発して強いのを使ってやったのだが?』
『あそこまで協力な回復魔法を私は見たことがありませんでした、少なくとも私はが受付を任されてからですが。』
『そうか、ならいつか自分で体験してみるか?我を呼べば怪我や病気を2度治してやろう。無論、報酬は無しで良い。』
『本当ですか?ふふっ、じゃあ死なない限り安泰ですね。』
そんなことを話しながら歩いて行くと一つの扉の前でフランが立ち止まる。
『マスター、トウヤさん達をお連れしました。』
『ああ、入ってくれ。』
『失礼致します。』
『よく来てくれたな、先ずは昨日は助かった、この街を救ってくれてありがとう。それと、借りていた剣だ』
フランに続いて部屋の中に入ると、ボルドーが迎えてくれた。
そして、頭を下げる。
そこまで聞いてフランは昨夜の魔物の襲撃を退けた立役者がトウヤ達だと知る。
『頭を上げてくれ。大体、我はボルドーからの依頼が無ければあの場から動くつもりもなかったのだ。』
『そうか…、いや、それでも感謝したり無いくらいだ。』
『…此れくらいの感謝をあの領主も示せば良かったのですけどねぇ。』
『何の事だ?』
『いえ、魔物の襲撃をマスターが退けた時にホムンクルスを1体回収して、聴取の為に領主の所の兵士に引き渡したのですけど。』
『何をトチ狂ったのか、ホムンクルスとエミリアを寄越せと言って来たから我も頭に血が昇ってしまったのだ。』
『…あの豚領主、感謝って言葉も分かってなかったのか。』
掻い摘んで朝の話を説明すると、ボルドーは額に手を当て天を仰ぐ。
『分かった、俺からも厳重注意して置く、重ね重ねすまなかった。』
『…気にするな。』
『所で、今更何だが昨日から2人もメンバーが増えているみたいだが紹介を頼めるか?』
『ああ、アクア、ナイン自己紹介を頼めるか?』
『私はナイン、父様に救われたホムンクルス』
『次は私ですね?私アクアと言いますが人間さんには蒼晶姫と言う方が通りが良いと思いますが。』
『アクア?蒼晶姫……ってもしかして水の⁉︎』
『ええ、今回は私の親愛なるマスターから久しぶりに呼んで頂けましたので張り切らせて頂きました。』
ボルドーとフランは共に顔を驚愕に染め固まってしまった。
まあ、精霊王自らが人の前に現れる事自体稀らしく、数十年に1度有るか無いか程度らしいので当たり前だろう。
それに、今回は精霊王自ら親愛なるマスターとトウヤの事を言って居るのだ、色々勘繰らねばならないだろう。
『親愛なるマスター?…!おい、確かトウヤのフルネームってトウヤ・クガミネって言ったな⁈』
『ん?ああ、その通りだ我の名前はトウヤ・クガミネだ。』
『じゃあ何か、あんたが伝説の英雄【魔王殺し】のトウヤ・クガミネなのか⁉︎』
『まあ、魔王は倒したが我の称号は【斉天大聖】だぞ?それに、我も今一状況の把握が出来て居らんからな?』
この言葉にはエミリアも驚愕し固まる。
『【斉天大聖】か、確かにギルドの古文書にはそう書いてあったが…、それで状況が把握出来ないとはどう言う事だ?』
『簡単な事だ、我の記憶では昨日、魔王と戦って倒した瞬間に魔王の生死の確認すら出来ずにこの時代まで女神の力によって飛ばされてしまったのだ。』
『なっ⁉︎』
『まあ、魔王も首落として塵一つ残さず消滅させた筈だから問題は無いと思うが。』
実際にはゲームのボスとしてHPを削りきっている為倒し切って居るだろう。
俺の説明に室内が静まり返る中アクアだけは『私達とマスターを引き離した女神許すまじ!』と呪詛を何処かに送っていたのだが。
『まあ、過ぎた事はどうでも良い。ボルドー報酬の方を頼む。』
『あっ、ああ、拠点に使えそうな建物は既に掃除を済ませてある。案内はフラン、案内してくれ。』
『はっ、はい!では皆様を案内させて頂きます。』
フランがぎこちない動作で部屋から出て行き後を追う様にトウヤ達も移動を開始する。
『ああそうだ、ボルドー、我等の冒険者登録を頼めるか?勿論、我とアクアの素性は隠して貰えると助かるのだが。』
『英雄から頼まれちゃ仕方ない。何とかして置くさ。』
『すまんな。』
『そうだ、オルガとニアちゃんの所にも顔を出してやってくれないか?2人共心配してたから』
『了解した。』
そうしてフランを先頭に冒険者ギルドを後にし、一路襲撃の爪痕が残る街中を通り、報酬の建物を目指し移動を開始した。
…まあ、事後処理がまだ終わらないのですが。
ギャレットについて
咬ませ犬として登場したギャレットですが、トウヤによって炭化→再生の時に身体中の細胞を活性化され綺麗にされています。
その為、スキンヘッドは毛根が復活しておりフサフサになり、顔や身体にあった傷跡も無くなり、尚且つ改心した為綺麗なジャイ○ン状態になっています。
コンプレックスだったスキンヘッドや傷跡が無くなり、心が軽くなったのも良い方向に向かうきっかけになったのも確かで街の人気者の1人にのし上がる彼の物語もいつか書けたら良いなと思います。