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本日の課題「調べ物は慎重におこなうべし」


「なんやかんやで辿り着きましたねキュリアス。D52ブロック……」

「……ですね。恐ろしく早く着きましたね……」

こうした結果を生み出した要因は、鬼の形相でキュリアスを追ったコクマーと、そうした状況でも直感的に(ひとまず目的地にさえ着けば落ち着くかも……)というキュリアスの胸算用があったのは当事者たちのみが知る事実である。


「どうでもいいですが、キュリアス。お前はなんでそんな苦しそうにしてるんです。アンドロイドのお前が疲労を感じるわけが無し、一体何事です?」

「コクマーさん……、精神的疲労というものを甘く見ちゃいけませんよ。これは肉体的疲労なんか目じゃないくらいにくたびれるもんなんですから……」

「……言わんとしていることは分からなくはありませんが、それとてアンドロイドのお前には……いや、精神的疲労ならば、高度に成長したお前の意識・精神構造によって疲労に近しい感覚を得ることは可能かもしれませんね」

「……わーい……、コクマーさんがやっと人の話をまともに聞いてくれたー……」

明らかに侮蔑や揶揄の類を含むキュリアスの返事を聞きつつも、コクマーの関心はすでにそこには無かった。


ある意味でキュリアスの命拾いとも言える状況であったが、実際にはそれを喜べるほどキュリアスの新たに置かれた状況はありがたいものとは言い難い。


それは、コクマーが関心を持ったものによって引き起こされた。


他のあらゆる警戒区域、使用制限区域、進入禁止区域。

それらの中で唯一、コクマーをもってしてもついこの間まで破ることが出来なかったD52ブロックのセキュリティロック。


とはいえ一度解いてしまえば内部への侵入はなんともあっさりしたものだったが、問題なのはその内部にあったものである。


「……あれ?」

興味深く(それ)を見続けるコクマーに対し、ようやく気が落ち着いたところで視線をそちらに移したキュリアスが発した言葉が、そのすべてを物語っていた。


「これって……、コクマーさんじゃないですか……?」

「やはり、そう見えますか?」

揃って(それ)に目を向けつつ、キュリアスの疑問にコクマーは言葉を返す。


D52ブロック。

室内の構造自体はコクマー本体が設置されたE11ブロックに比べると二回りほど小さい。


その中に設置されている。


コンピューターに「狭苦しい」という感覚が無いのは理解したうえでも、かなり余裕無く埋め込まれるように、コクマー本体にそっくりな無骨極まる金属の塊が鎮座している。


「どういうことでしょ。もしかして、コクマーさんて双子だったとか?」

「バカなことを……。ただまあ、機械類は同系統のものを複数生産することがありますから、生物的な意味合い以外での比喩的意味合いでなら、双子の存在もありえることは確かですね」

「でも、見たところ動いてはいないみたい。電源切れか故障かな?」

「その辺りを探るのが我々の仕事です。キュリアス、私と同型という仮定で起動操作をおこなってみなさ……」

「無理です」

「……」

「無茶言うにもほどありますよコクマーさん。私、コクマーさんが停止してる状態なんて見たことないし、そこから起動させる方法なんて知りませんてば」

「ふむ……、確かにその点は私の判断が間違っていました。では、私自らでこれを起動させてみましょう。キュリアス、後学のためによく見ていなさい。私が停止した際の起動手順としても覚えておく価値はありますからね」

「……それって、つまり、もしコクマーさんが停止した時には、私が再起動することが前提ってことですか?」

「ええ……まあ、そんなことはほぼありえないでしょうが、状況としてそうした事態が発生した場合、それがもっとも理に適っているでしょうね」

「コクマーさんが止まる時かー……。なんか、ゾクゾクしますね」

「……キュリアス。そのゾクゾクは正の感情からですか、負の感情からですか……」

「そこはコクマーさんのご想像にお任せします♪」

「……」


にやついたキュリアスの表情から、答えを読み取ったコクマーは、憮然とした表情を一瞬浮かべたが、今は行う作業のの優先順位を考え、ひとまず自分本体とそっくりの停止したコンピューターへ向かった。


「主電源も予備電源もすべて繋がってます。問題はどうも以前に強制停止させたことからの不具合でしょう。しかも……、ひどいですね。システム回りがほとんど全壊してます。これを復旧するのはちょっと難しいかも……」

言いかけて、ふと背後のキュリアスを見る。


すでに口は(いつもえらそうなこと言ってるくせして、結局はできないことのほうが多いじゃないですか)と言いたくてうずうずしているのが見ただけで分かる。


「……あー、システムの復旧自体はなんとかできるでしょうが、実際問題、これを直接動かしても得られることは限られているでしょう。私と同型機とするなら、スペックもさほど変わらないはず。今後、何か高速で処理せねばならない情報が出てきた時にはこれと並列処理で作業を行うことなどの有用性もあるでしょうが、現時点ではとりあえず内部のデータを参照するだけでことは足りるでしょう」

突っ込みどころを巧みにかわされ、キュリアスが背後で小さく舌打ちをする。


「さて、ではデータを読み出しますよ。キュリアス、お前もちゃんと見ておきなさい」

言って、コクマーは目前のコンピューターへの操作を開始した。


その様子をキュリアスは退屈そうに眺めている。


が、


好奇心の味方は時として思わぬところから現れる。


低く、響くような動作音を起こして動き出したコンピューターを目の前に、キュリアスとコクマーの長い聞き役の時間が始まろうとしていた。


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