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本日の課題「アンドロイドは疲れるか?」

元はアメリカという国が存在したであろうその場所の、約二千メートル地下に建設された秘密施設がある。

何の目的で作られたかはもはや分からない。

当事者はとうに死んでいる。


しかし、彼らの残したものは、確実に自分へと与えられた使命を考えていた。


何をさせたくてそこまで高機能にしたのかも、今となっては謎となった超高性能自立思考型コンピューター「コクマー」。

何がしたくてわざわざその姿にしたのか、これまた闇の中となってしまった学習型高機能アンドロイド「キュリアス」。


今日も彼らは噛み合わない互いの意見をぶつけ合い、地球の神秘に思いを馳せる。


「さて、今日も学習の時間ですキュリアス。席について私の話をよくお聞きなさい」

薄暗い、巨大なドーム状の施設の中、その中心に据えられた無骨な金属の塊が、マニピュレーターに操られる外部スピーカーを通して話しかけてくる。


その時、

当のキュリアスは……、


「……めんどくさいから今日はいいです」

施設の床に、いかにもだるそうに横たわっていた。


外見は人間の若い女性をイメージして作られたらしく、姿のみで判断するなら、いかにも優秀そうなそのアンドロイドは、困ったことに性質すらもあまりに人間的すぎた。


「キュリアス……、お前はアンドロイドです。人間とは違って疲労を感じるようには出来ていません。(めんどくさい)というのは適切さに欠く表現ですよ」

「……でも実際、だるいです」

そう言って、キュリアスはごろりと床を転がると、コクマーの外部モニターをなんとも気だるそうに見つめた。


「ですからキュリアス……、お前はアンドロイドだから、(だるい)という感覚は表現の方法として……」

「だから、ほんとにかったるいんですってば!」

まるで寝起きに不機嫌な人間のように、キュリアスはコクマーを睨み付ける。


「……」

「大体、アンドロイドだからって疲労を感じないとか、なんでアンドロイドでもないコクマーさんに分かるんです。いっぺん、自分もアンドロイドやってみればいいんですよ!」

「……キュリアス、私はお前の身体的構造を完全に把握しています。ゆえにその機能や特性も一部も漏らさず認識しているのです。そこから導き出された結論として、キュリアス、お前が疲労を感じるということはありえな……」

「じゃあ、今私が感じてるこのめんどくささは何ですか、気のせいですか!」

「……いや、お前は(気のせい)とかも感じる機能は存在しない……」

「言ってること、明らかに矛盾してるってばコクマーさん!」

腹立たしげに身を起こし、コクマーと向き合う形であぐらをかいたキュリアスが怒鳴る。

施設の広さか、構造ゆえか、まるで山彦のようにキュリアスの怒声は施設内に鳴り響く。


「……あー、キュリアス。私の中にあるお前の身体構造に関するデータを再確認します。しばらく待ちなさい」

「言われなくても私は待つしかすること無いでしょうに、全く……」

「……いいから、ちょっと黙ってろキュリアス……」

「……はーい」

あぐらをかいたまま、眠たげな半眼を開けてキュリアスは周囲を見回す。

コクマーの演算処理速度は驚異的である。

(待て)とは言われたが、実際にかかる時間は周囲を軽く見渡す程度で過ぎる。


「データの再確認作業完了」


スピーカーの声に合わせ、キュリアスは再度コクマーに向き合う。


「んで、どうでした。なんか分かりました?」

「うむ、これはまだ仮説の域を出ませんが、恐らくお前の学習プログラムが当初想定していた以上に高度な成長を遂げ、果たして人間のそれにより近い思考プロセスを構築するに至ったのでないかと、現時点では結論するしかないようですね」

「……コクマーさん」

「なんです?」

「なんか、説明が長すぎて途中がよく分からなくなっちゃったから、三十文字くらいに要約してください」

「……」

キュリアスの相次ぐわがままに、コクマーの外部スピーカーが、連結されたマニピュレーターとともに小刻みに震える。


「出来ない?」

「……キュリアス、お前の持つ高度な機能を用いれば、この程度の話は簡単に理解できるはずです。それにこれでも私は十分に説明を短くまとめて……」

「優秀なのだけが売りのコクマーさんにも出来ない?」

「……」

「脳みそだけが取り柄の、頭でっかちなコクマーさんでも出来ない?」

「……」

「もの考えることしか脳が無い、っていうか、脳みそしか無いでくの坊のコクマーさんにも出来ない?」

「キュリアス、てめぇっ!」

明らかに罵声としか取れないキュリアスの物言いに、コクマーの外部スピーカーが、うなりを上げてキュリアスの頭をひっぱたいた。


「あだっ!」

「物の言い方をもっと考えろ、キュリアス。それに、お前は痛覚が無いから痛みは感じないはずだろうがっ!」

「だからアンドロイドでもないコクマーさんになんでそれが分かるんですかって言ってるでしょうが!」

「そうでなくても分かるっつってんだろ、このポンコツっ!」

「分かってないから言ってんですよこの脳みそお化けっ!」

「こんの……、てめぇぇっ!」


薄暗い施設の中、超高性能コンピューターの振り回すマニピュレーター。

それを必死にかわし続ける高機能アンドロイド。


滅びた地球は今日も変わらず。

割れた地球は今日も変わらず。


彼らの担う使命は重い。


しかし、

それが実現する望みは今のところ、(ある)と表現するのは難しい。


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