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本日の課題「地球は救われましたが、さて人類はどうしたものでしょう?」


数日に渡る観測ポッドでの地表調査により、コクマーはジョンが事前に語っていた通りの行動を取ったことをよくよく思い知った。


地核を失った地球は急激にその熱を失い、一度は気化した地上の水分が大量の雨となって降り注いでいる。


まさしく地球の黎明期にあったであろう光景。


「この調子なら、それほど時間はかからずに地上へ海が誕生するでしょうね……」

観測結果を分析しつつ、コクマーがつぶやく。


「海かぁ……。まさに生命誕生のお膳立てが整ったってわけですか。ひとまず、幸先は良いみたいですねぇ」

「そう楽観もできません。あくまでも我々が目指しているのは人類の再生。環境が整い次第、施設内のバクテリアを地上へ放出すれば、生命の繁殖自体はごく短期間で達成可能でしょうが、そこから知的生命体が誕生するまでには途方も無い時間が必要になるでしょう。それこそ、再びジョンのような外的要因が地球に訪れない限り、人類の再生はまだまだ夢物語です」

「うーん、この期に及んでもまだ他力本願しか手が無いってのも、なんとも歯がゆいなぁ」

「……お前は元々から他力本願でしか考えて無かったろうが……」

柄にも無いことを言うキュリアスに、コクマーが一言付け足す。


「まあそう突っかかるような言い方しなくてもいいじゃないですかコクマーさん。私だって、私なりに地球と人類の行く末は心配してるんですから」

「お前の口から聞くと、こんなに説得力の無い言葉も無いですね」

「まぁた、いちいち噛み付くんだからもう。大人げないですよ」

相変わらずの飄々とした態度で、キュリアスはコクマーをたしなめる。


普段とどこも変わらないように見えるふたりの受け答え。


しかし、それが表面的な繕いであることを、ふたりともに理解していた。


ジョンの自己犠牲的行動によって地球は救われた。

が、そのことを素直にふたりは喜べずにいる。


もちろん自分たちに課された責任の面で考えれば、これは単純に喜ばしいことなのだが、ことはそう単純明快とはいかない。


コンピューターであるコクマーや、アンドロイドであるキュリアスでさえ、自己保存の欲求がある。


それに対し、高度生物の自己保存、生存欲求、生存本能は比べ物にならないほど強い。


ふたりもそれは知っているし、感覚的に理解しているわけではないまでも、理論上の形では頭で理解している。


それだけにジョンの行動に少なからずショックを受けたのは正直なところだ。


しかも目的の規模がコクマーやキュリアスとは全く違う。


すでに失った妻の形見を守るため。


ただそれだけのために命を投げ出した。


これが百歩譲って、妻の命を救うためとなれば、まだ素直に理解出来る衝動とも思える。


だがジョンのそれは、ふたりからすれば恐ろしく軽い動機によっておこなわれたようにすら思える。


亡くした妻の痕跡を残すため。

それが果たして命や自己存在を放棄してまで守るべきものなのだろうか。


とはいえ、高度なプログラムによって、人の感情をも深く分析できるようになっているコクマーとキュリアスは、頭のどこかではその行動の理由を理解していた。


愛情を投射する対象たるべき妻を失ったジョンは、それを単なる物体である地球へ注いだ。

そういうことだ。


対象を失ってなお、尽きぬ愛情の行きどころを求めた結果、彼は地球のために命を落とした。


そうした事実が、コクマーとキュリアスに浅からぬ傷と、影を落としたのはもしかすれば当然のことかもしれない。


ゆえにふたりは努めて普段通りの態度を取る。


理解は出来ても、素直に飲み込めない現実を無視するように。


簡単な計算だけなら、ジョンの命と地球の存亡を天秤にかければ、確実に地球が勝る。

それはよく分かる。


しかしそれは理論の話だ。


感情はそうたやすく理屈によって納得させられない。


とはいえ、ことはすでに済んだこと。


ふたりはジョンの犠牲に対して報いる意味でも、救われた地球の行く末を真剣に思案する責任感に支配されていた。


ただ、態度こそいまいち真剣さに欠けるのは確かだが……。


「ともかく、人類の再生っていうか、つまりは知的生命体の再生が私らの考えなきゃならない問題なわけですよね」

「そうです。以前の人類を再生するにも、すでに生存者がいない今、その再生は不可能。となれば、新たな高度知的生命体の誕生を促すことが、我々の今成さねばならない行動の第一でしょう」

「でも、その具体案が浮かばないんですよね?」

「その通り。先ほども話した通り、以前の人類も他者の介在で発生した存在だったことを思えば、このままただ地上の生命が進化してゆくのを見ていったとしても、それが高度な知性を獲得する保証が無い。生命誕生四十億年をまたぞろ繰り返した結果、結局知的生命体が発生しませんでしたでは困るんです」

いかにも苦々しげにコクマーが言う。


手詰まり感が苛立ちをいや増す。


コンピューターであるコクマーにとって、不確実な確率に自らが課された責任を賭けるような行為はとてもではないが承知できない。


だからといって、今の時点ではその確率に身を任せる以外に無いようにも思える。


高性能であるゆえに袋小路の思考に苦しむコクマー。


だが、


キュリアスはそんなコクマーに対し、奇妙な質問をする。


「ねえ、コクマーさん」

「……なんです?」

「ちょっと聞きますけど、確か(生命の定義)って、結局あいまいなまんまで、何がどうっていう答えは出てないんですよね」

「ええ……。確かに現在に至るまで、生命の正確な定義はなされていません。しかし、それがどうかしましたか?」

「それがどうかするから話してるんですってば」

質問の意図を理解出来ず、困惑するコクマーをよそに、キュリアスは何を思いついたものか、ただ、いたずらっぽい笑みを浮かべてコクマーを見つめていた。


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