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本日の課題「どんな仕事にも言えますが、待つのも仕事です」


『人類の再生に関しては残念ながら必要な設備も装置もこちらには無い。が、我々が太古の昔に干渉してこの星の人類を誕生させたように、少なくとも星を生物が住める状態へと戻すことが出来れば、いつの日か人類の復活も叶う時がくるだろう。そのための布石だ。これから私は月に向かい、慣性質量中和装置の交換と起動をおこない、さらに陽光遮蔽装置の設置や諸々の処置をおこなってくる。ある程度作業経過が見えてきたらまた通信をおこなうつもりだ。それまで君らは今後の方策を考えるなりして時間を過ごして欲しい。それでは、また後ほど』

言って、ジョンからの通信は一旦、途絶した。


急な訪問。

急な希望。

急な退散。


人間ならばあまりの目まぐるしさに頭が混乱するような展開だが、そこは人工知能たるふたりの特性が吉と出た。


コクマーとキュリアスはこの恐ろしく急な展開を極めて冷静に受け止め、ジョンが言い残していった通り、自分たちの出来る範囲の方策を立てるべく、ゆっくりと語り出す。


「はー……、しかしいちいち急なお客さんですね。少し落ち着いたからようやく状況は飲み込めましたけど、まさかここにきてモノホンの創造主がお出ましとは。びっくりというか、都合がいいというか、まあ何にせよ助かりましたねコクマーさん」

「ええ、はっきり言って、我々だけではもう打てる手立ては尽きていたところでしたから、まさしく願っても無い助けです」

「てか、尽きてたというより、私らじゃ何にも出来ないってのが正確な言い方だと思いますけどねぇ」

「……少々腹に据えかねますが、確かにお前の言う通りですね。実際、私たちでは地球に対しても人類に対しても具体的救済案など取れないというのが正直なところではあります」

「あら、コクマーさんにしては随分と素直に認めますね」

「現実問題、今回のことでは痛いほど己の非力を感じさせられました。いくら優秀な頭脳を持っていようと、それによって導き出した手段を実行する物理的な力が伴わなければ、まさに机上の空論。演説台で高説を語るのに等しい無意味さです。結局、現実という絶対的事実に対しては、言葉は意味を成さず、行動する力だけが価値を持つ。思うほどに、自分が情けなくなります」

柄にも無く、コクマーが気弱な言葉を吐く。


と、キュリアスもさすがに慌ててフォローを入れた。


「ああ、いやいや、仕方ないですって。だって、私らが向き合ってる現実は地球と人類の存亡なんていうバカみたいな重大事ですよ?」

「それでも、これほどの無力感を感じるのは、ひとえに我が身の力不足から来ている負い目のようなものでしょう……」

「無理無理、無理ですってば。元から私らだけで何か出来るわけないほどの状況だっただけです。コクマーさんは十分に優秀です。私が保証しますって」

「……」

しばし、気まずい沈黙が場を支配する。


人間にも言えるが、無駄に責任感が強いことはプラスに働くことが決して無い。


もちろんキュリアスのように責任感の欠片も無いというのも問題だが、コクマーのように、妙に自らの実力を過大に受け止めているものが強い責任感を持つと、現実という無情で残酷な壁に激突した際、その圧倒的な想像との隔たりに耐えきれず、粉々に砕けてしまう。


この世に絶対的なものが無いように、同じく万能なものなど存在しない。


それぞれが異なる力を持ち、それらを組み合わせて諸々の事柄を成してゆく。

それが正常である。


しかし人は絶対を求める。万能を求める。


神などという漠然とした存在を想像し、それを信奉していたのがその良い例だろう。


だが、狂信者のもたらす害悪には及ぶべくもないとはいえ、化学に万能を見出そうとする浅薄な人間は、別の被害者を生む。


コクマーも、いわばそれだ。


万能を求める科学者の重圧から、必要以上の責任を負っていたために、自身の現実に対する無力を知ると、途端に心が折れる。


無論、それは機械に心があると仮定しての話ではあるが。


その点では、彼の兄弟機であったダアトはコクマーよりも立ち回りは利口だったと言えるかもしれない。


自身に求められた過剰な期待を無視し、(出来ないものは出来ない)と素直に拒絶し、完全な沈黙へと至った。


言うなれば、達観がダアトとコクマーの絶対的差異。


ともすれば厭世的な思考にまで達したダアトが自殺という道を選んだのも、考え方を変えれば決して間違った選択とは言えない。


それを得られないために、コクマーは苦悩する。


肥大した責任感だけが思考を窮屈に押し込め、ガス抜きの余地も無い。


乱暴な区別をするなら、コクマーよりはダアトにより近い思考傾向のキュリアスですら、多少の心苦しさは味わっている。


そこを考えれば、コクマーの苦悩の度合いは押して図るべしである。


とはいえ、


現実は精神や心の働きといった動向に配慮するような親切なものではない。


ジョンという救い主が現れたのは事実。

しかし、あくまで彼も本当の意味での神ではない。


人は完全を望む。

人は万能を望む。


だが、現実はそれを決して許さない。


物事が誰かの思い通りに進むことを、現実は望まない。


だからこそ起きる。


想像したくない経過。

想像したくない結果。


方策の思考に割くはずの時間を沈黙のみで長らく過ごしたコクマーとキュリアスに、ジョンからの緊急通信が入ったのは、そんなある瞬間だった。


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