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本日の課題「創造主イコール神という考え方からすれば、これもまた神の形です」


人間の感覚からすれば途方も無く長い静寂が支配していたE11ブロックに、突然音が響く。

キュリアスは急なことに一瞬狼狽したが、それが何を意味しているのか知るコクマーは、落ち着いてその対応と説明を始めた。


「慌てるんじゃありませんキュリアス。これは単なる通信信号確認音です。どこかは分かりませんが、どうやらこの施設以外の場所から何らかのコンタクトを求めているようですね」

「え、じゃあ、もしかして生存者が実はいたとか?」

「それはまずありえません。観測ポッドの情報に誤りがあった可能性は情報精度から計算して約八千万分の一。奇跡でも起きなければこれは覆りません」

「……でも、それだとコンタクトしてくる相手がいないことになるし、普通に矛盾してませんか?」

「そこです。観測ポッドによればすでにこの施設以外の場所には人間はおろか、我々のような人工知性体すら存在していないはず。となると、お前の言う通りこのコンタクトの相手が誰なのか全く見当がつきません」

「相手が分からないって……」

「焦るんじゃありません。今、信号の発信位置を特定中です。場所が分かれば……」

と、コクマーが言い差したところでまたも室内に音が響いた。


いや、それは音ではなく声。


久しく聞いていなかった他者の声。

それが大きく室内を満たす。


『応答せよ。応答せよ。生存者がいるならこの通信に応答を乞う』

どこかぎこちない発音の英語で、声はそう呼びかけてきた。

対してコクマーは、


「通信は受け取りました。私はコクマー。アメリカ合衆国アラスカ州エルメンドルフ空軍基地内特殊地下施設にてそちらの通信を受信しています」

流れるように答える。


『よかった……。衛星軌道からの地表スキャンではもう人類の生存は絶望的と思えたが、地下施設でまだ生き延びている人間がいてくれたか……』

明らかに安堵を含む声を漏らす通信相手に対し、しかしコクマーは酷な現実を隠さず話す。


「残念ですが、私は生存者ではありません。私は人間によって作られた自立思考型コンピューター。こちらの調査でも、地球上の人類は完全に死滅したという結論になっています」

『∂§∝⊆……』

急に相手方が地球上のあらゆる言語・発音とは異なる声を上げ、コクマーは一瞬身混乱したが、すぐにそれが落胆を意味するものだろうと推測し、言葉を続けた。


「そちらが誰なのかは分かりませんが、現在地球上にはこちらの調査結果からも、人類を始めとして一切の生物は存在しません。人工知性体に限っても、私と学習型アンドロイドであるキュリアスの二体のみがここにいるだけで、あとは全滅というのがこちらの結論でした。しかし貴方が何者なのかによっては、この解答は訂正が必要になります。一体、貴方は何者です?」

『……ああ、すまない。つい狼狽してしまって……。君の質問については細かく答えなければならないな。こちらの見る限り、地球が破断した際に大きく変化した重力圏のせいで、この星の人工衛星類はすべて衛星軌道を離れ、遠く四散しているようだし、そうなると君らが私がどこからこの通信を送っているかすら特定できないだろうしな』

「それは貴方が先ほど話した内容に偽りが無ければ、現在の地球衛星軌道上からだと推測しますが、いかがですか?」

『さすがだね、実に優秀だ。この星の人間も、君ほどに優れた人工知能を開発できるほどの科学力をついに獲得していたというのは喜ばしいが、それも今となっては空しさをいや増すだけというのは皮肉だな……。ともかく、君の推測は正解だ。』

そこまで言うと通信相手は一拍置き、自らの素性を語り出した。


『私は君ら言うところの系外惑星GJ667Ccからやってきた。この星……地球への干渉はすでにはるか昔の時点で打ち切られたが、今回の事態を受け、私が独断でこちらへ駆けつけた次第だ』

「GJ667Cc……」

コクマーが相手の応答に対して明らかな驚きを含む声を漏らすのを聞き、ついにキュリアスは長らく保っていた沈黙を破って質問する。


「……ちょっと、コクマーさん。なんですか、全然話が見えてきませんけど。それにその……GJ667Ccってなんです。どこの家電製品の型番ですか」

「キュリアス……、GJ667Ccは地球から約二十二光年離れたさそり座方面にある三重連星のひとつです。GJ667Cのハビタブルゾーン(生命居住可能領域)に存在することから生命の存在が予測されていましたが、まさか知的生命体が存在していたとはさすがに驚きですね」

「って……、それって、つまりこの通信の相手って……」

「以前、私の同型機だったダアトが語っていた言い方を使うなら、はるか昔に地球の進化に干渉し、人類を生み出した張本人。(神のモデル)ということです」

「えええええっっ!」

今度は隠すことの無い驚きの声をキュリアスが上げる。


『どうやら細かな説明は不要だったようだね。そう、私は600万年前にこの星へ訪れ、進化に干渉した者たちのひとりだ』

「600万年前の干渉者のひとり……?」

続いて、通信相手の発言にコクマーが静かな驚きを声に出した。


『君の疑問は容易に察せるよ。600万年前に生きていたものが、何故いまだに存在しているか。それは我々が獲得したある技術によるものだ。劣化した体組織をクローン培養した組織と置き換え続けることにより、我々は事故以外の理由では死ぬということが無くなった。ゆえに600万年という年月も生き続けてこられた』


説明自体は容易に理解出来る。

しかし、納得できるかについてはまた違う。


600万年。


果たして一個の生物。特に高度な知性を持った生物が、それほどの年月を生き延びられるものなのか。


物理的には、先ほどの説明で可能だろう。

だが、精神はどうだろうか。


気の遠くなるほどの年月を、人の精神は耐えられるものなのか。


とはいえそれは主題ではない。


問題は彼が何ゆえに今さらこの地球へと舞い戻ってきたのか。


疑問は尽きず、会話は続く。


割れた地球の上と下。


顔も合わせず、会話は続く。


人を作った異星人。

人に作られた人工知性体。


中間に位置する人類が滅びた星。


創造主の創造主と、被造物の被造物は果たしてどこへと向かうのだろうか。


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