本日の課題「急なことにも即時対応できるようにしておくのは大切なことです」
地球はいまだ割れている。
東西に綺麗な半月ふたつ。
地球の中心核から放出される熱は時間とともに上がり続けている。
これは燃え盛るマグマによって地球の大気がほとんど二酸化炭素に変換されたことによる温室効果が大きな理由である。
地核から発する熱は逃げ場を失い、今も刻一刻、地上の温度を上げ続けている。
もはや生態系云々を話せるような状態ではない。
そしてそれがさらに進行している。
並みの人間ならばまず間違い無く絶望するだろう。
だからこそかもしれない。
コクマーが続けていた観測ポッドによる調査の結果は人類の完全な死滅。
無論、生き残っていた人類は当初、いたはずだ。
しかしそれがいない。
理屈は簡単。
生き延びはしたが、残された人類は耐えられなかったのだろう。
この絶望的な状況に。
そして、恐らくは様々な要因で命を絶っていった。
自らの手でかもしれないし、他の人間の手によるかもしれない。
だが、どちらにしても結果は同じことである。
人類は滅亡した。
真実はそれだけ。
それに対してさて、彼らはどういった対処が可能なのだろうか。
現実的にものを考えるなら、彼らに出来る事などはたかが知れている。
さらにその事実は、彼ら自身もよく把握している。
ゆえに会話は自ずと無機的になってゆく。
袋小路の議論。
空しい言葉のやり取りだけがその場に残る。
「地球自体の問題が万一解決出来たとしても、すでに立ててあったその後の方策はもはや無意味となりました。他施設にあるヒトゲノムのデータベースと生存者の体細胞を基にし、個体差を意図的に加えた人間を直接培養して人類を再生する。最悪でも生存者がひとりいればどうにかなる算段でしたが、どうやらそれすら不可能になったようですね」
「で、でも、ヒトゲノムのデータくらい、コクマーさんだって持ってるんじゃないの?」
「もちろん持っています。しかし、データだけでは人間は作れません。データとは、いわばソフト。体というハードを作る設備と材料が存在しない以上、それは単なる情報の塊でしか有り得ないんです」
「設備と材料……?」
「設備については他施設にいくつか候補となるものはありましたが、肝心の材料が無い。生存者の体細胞。これが無ければどうしようもありません。これ無しでは、卵無しで目玉焼きを作るのと一緒。どう考えたとしても不可能なんです」
「……」
救いようの無い現実を突き付けられ、さすがのキュリアスも言葉を無くす。
自然と言えば自然な反応である。
元々、人間の感性や感情すら模倣して作られた高精度のアンドロイド。
しかし皮肉にも今の事態に限っては、それらはいたずらに苦しみを生むだけのシステムでしかない。
人間に近しいゆえに苦しむ。
無論、製作者がそんなことを意図して作ったとは思わない。
が、実際には想定外の形で人らしさが苦痛を生んでいる。
滅びた存在に対して言うのは酷ではあるが、人間というのはどこまでも業の深い生き物だ。
知らず知らずに人間以外の存在にすら苦難を与える。
人間同士でも傷つけあうような生物なのだから、考えればそれも当然なのかもしれないが、それにしても人というのはあまりに世界を傷つけすぎた。
しかもさほど意識せずに。
そうした原罪に対する罰だという受け取り方は少々、宗教じみていて論理的見解とは言えないが、この地球を襲った未曾有の窮地は、どこかそうした不可思議でもって包み込まなければ、とてもまともに受け止められる災厄ではない。
とはいえそうだと仮定するなら、もうそうした罪に対する罰は終わったはずである。
人類はひとり残らず死滅した。
もはや罪をあがなうべき存在はいない。
ならば罪も自然消滅する。
だが、それで地球が元に戻るのかと言えば、そう話は単純では無い。
壊れたものは簡単には直らない。
場合によっては、一から作り直すほうが楽であることが多い。
それほどに、何かを直すというのは困難な作業だ。
そしてふたつの人工知能が苦悩する。
地球を直す方途も無い。
人類を復活させる方途も無い。
絵に描いたような手詰まり。
お手本のような絶望。
無為に過ぎゆく時間だけを感じながら、コクマーとキュリアスはただ沈黙する。
すでに議論は尽くした。
結果はすでに出ていると言っていい。
救いの無い静寂が時とともに流れてゆく。
しかし、
事態は突然に急転する。
そう、終わりがあれば始まりがある。
始まりから終わりへとたどり着けば、その終わりはまた新たな始まりとなる。
さて、その新たな始まり。
それは遠く、宇宙からやってきた。
地球の存亡、人類の存亡。
その絶望的問題を解決する救世主は、ある意味で真の神なるもの。
訪れを知らせる変化は、今まさに起きようとしていた。




