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本日の課題「どんなものにも予備を用意するのは大切です」


薄暗い巨大な地下施設。

今日も超高性能コンピューター「コクマー」は、学習型アンドロイド「キュリアス」に対する

(教育)に勤し……みたいのは山々だったが、その前に片付けなければならない問題が少なからず存在していた。


「……さて、キュリアス。先日は(お互いに)大変な思いをしましたが、さすがに実践学習と言うべき、内容の濃い学習でしたね」

「はい、コクマーさん。ほんと先日は(お互いに)大変でしたけど、結果的にはなかなか有意義な学習だったなぁと私も思います」

「そうですか……。まあ、(お互いに)大変な思いをしただけに、得るものを大きかったと、そういう結論ですね」

「ええ、まったく(お互いに)大変だったからこそに、身につくことも大きいなーと実感しました」

「……てめぇはどのツラ下げて、人の嫌味に乗っかってしゃべってんだこのドグサレがっ!」

わざわざ嫌味を含めて、(お互いに)などと表現したところに、平然と乗っかってきたキュリアスの態度へ堪忍袋の緒も切れたか、コクマーはもはや恒例となった(マニピュレーター盛大に振り回して、キュリアスの頭のひとつも叩き潰すつもりの動き)を開始した。


が、

悪い意味で学習型アンドロイドであるキュリアスの長所がここで生きる。


日々の経験から、とうの昔にコクマーのマニピュレーターが届く範囲を学んでいたキュリアスは、コクマーの様子から険悪さが感じ取れた瞬間、即座にコクマーの射程圏外へと身をかわしていた。


横殴りにキュリアスへ叩きつけようとしていたマニピュレーターのひとつが、空しく振り回される。


「残念でしたー。そうそうおんなじ手が何度も通用するわけが無いじゃないですか、この脳みそおば……」

「だからそこが甘いんだよお前はぁっ!」

まさにコクマーの射程外から舌を出してからかおうかとキュリアスがおどけたその瞬間、そのキュリアスの尻を何者かがしたたかに蹴りつけた。


「うげっ!」

油断して射程圏外ぎりぎりにいたキュリアスは、その蹴りでコクマーの射程内へと、たたらを踏んで再び侵入し、途端、

「痴れ者っ!」

綺麗な連携で、上から振り下ろされたマニピュレーターがキュリアスの脳天を力強く床に向かって叩き落とす。

「ぎゃふっ!」

さしものキュリアスもこの思いがけない連続攻撃に、ただ床へ這いつくばるより他無かった。


「うぅっ……、いででで……。な、なんですか今、なんか後ろから蹴られ……」

うつぶせに床へ倒れ込んでいたキュリアスが、最初に受けた謎の一撃の正体を見定めようと、身を起こして後ろを振り返った時、まさしく唖然とすることとなる。


不意に後ろから加えられた蹴りの正体。

それは、


腕組みし、仁王立ちしたアンドロイドだった。


「……これは、一体……?」

「驚きましたかキュリアス。お前の非協力的な姿勢のおかげで一度は失ったアンドロイドのボディですが、私のたゆまぬ努力により、再びこうして完成を見たのです!」

良く見れば、以前のアンドロイドボディと同じく、今回のものにも背後からコクマーに向かって直結コードが伸びている。

しかも芸の細かいことに、その存在に気づかれぬよう、わざわざ音声出力を今になってコクマー側のスピーカーから、このアンドロイドボディに切り替えている。


「うへぇ……、相変わらずの最悪さですねコクマーさん。こんな子供じみた仕返しするためにわざわざこんな手の込んだイタズラ仕掛けるなんて……」

「お前がそれを言うとかどういう……まあ、確かに今回は少し大人げなかったのは認めましょう。しかし、やはりこうした可動式の端末があるのはいろいろと便利ですね。先日の件も、ダアトの自爆というふざけた事態さえなければ十分に有意義でした」

「さいですか。御満足してらっしゃるようで何よりですけど、しかしまたなんとも……」

「なんですキュリアス?」

「以前にも増してさらにちっせぇですね」

「……」

キュリアスの指摘通り、今回のアンドロイドボディは、以前以上に小さい。

背丈から見ればもはや少女どころか幼女といった容姿である。


それが、キュリアスの正確であるがゆえの指摘に立腹する様子も隠さず、組んだ腕を小刻みに震わせて眉間にしわを寄せている。


「なんだかなー。この前のダアトが言ってた(神様のやっつけ仕事)じゃないですけど、どうもコクマーさんはこういう仕事は荒いというか、雑というか、もうちょっときめ細やかに仕事するとかできないもんなんですかねぇ」

「お前はこの前、人の話のどこを聞いてたんだ。こっちは部品不足で四苦八苦しながらどうにかここまで仕上げてるっていうのに、なんだその物言いはっ!」

「じゃあなんですか、今回は以前よりさらに部品不足なんで、さらにこんなにちっこくなっちゃったと?」

「その通りだ。というか、自分で言ってて、そうだろうなとか、どっかで思わないのかお前の頭はっ!」

「いや、思いはしましたけど、それにしたって部品不足がひどすぎますよ。ここってそんなに資材に困るような場所でしたっけ?」

「お前のスペアパーツに手を出していいならいくらでも部品不足なんか解消できるが、こっちは気を遣ってそうしないでやりくりしてるんだ。少しは感謝しろっ!」

「はいはい、感謝申し上げますよ。自分の足で自分の尻を蹴っ飛ばされずに済んだのはコクマーさんのお気遣いのおかげでございますよ、ええ」

「……もういい。これ以上お前のくだらん嫌味を聞かされたら、またこちらもケンカ腰になってしまう。我々のやるべきことは山ほどあるのに、こんなことで無駄な時間を過ごしていてはいつまで経っても地球の未来を担うという大きな使命が達成できな……」

「はーい、コクマーさん、質問ー」

もはや恒例行事である、コクマーの話の腰を折りながらのキュリアスの質問。

そして、今回もまたコクマーはその瞬間だけは組んだ自分の腕を引きちぎりそうになりながらも耐え忍んだ。


「……なんですかキュリアス……」

「ちょっと疑問に思ったんですけど、アンドロイドの気持ちが云々とかはもう理解してもらえたと思いますし、先日の件でアンドロイドのボディを使う機会はひとまず終わったと思うんですけど、なんでまたアンドロイドボディを造ろうなんて思ったんです?」

「ほお……、キュリアス、お前にしてはなかなか良い目の付け所ですね。いいですか、先日の件で私は強く感じたわけです。可動式端末としてのアンドロイドボディは、今後も何かの折に必ず役に立つ。そう考えた結果、こうして常時使用可能な外部ボディを用意したと、そういうわけです」

「ふむ、つまり、今後も何かの折にどこかの区画を吹っ飛ばすためにも、こうしたボディがあると便利だと」

「……キュリアス、お前は人の話のどこを聞いていたんですか……」

「またぞろ、自殺志願のコンピューターを見つけては、吹っ飛ばして回るためにもこうした体が必要だと」

「……」

「いかに効率よく施設を破壊するかを考えたら、こうした体は必要不可欠と、そう判断を下したと」

「お前はこの前のことが私のせいだとでも言いたいのかコラァッ!」

度重なるキュリアスの嫌味に、限界へと達したコクマーは少女……もとい、幼女型のアンドロイドボディから、その身の小ささからは想像もつかないほどの強烈な蹴りをキュリアスの腰辺りに目掛けて叩き込んだ。


「あいだっ!」

「言っとくが、自爆の指示はあの忌々しいダアトのボケが勝手に出したものだ。私が望んで自爆なんぞさせて何の得がある!」

「いででで……。だって、コクマーさんが変にいじくらなかったら、自爆自体起きなかったじゃないですか!」

「だからそれはあいつが勝手にやったことだと何度言ったら分かる。大体、私だって大事なボディをひとつそのせいで吹き飛ばされてるんだぞっ!」

「でも実際、コクマーさんが妙な好奇心出さなきゃ、あんなことにならなかったでしょ!」

「……あああああああああっっ、もう分かった、もうお前は何もしないでずっと寝てろ、そうだ、ダアトが言ってた通り、お前も何もしないで寝てればいいだろうがっ!」


人間の視点からすれば恐ろしく奇妙な光景。


幼女の姿をした有線式のアンドロイドが、女性型アンドロイドへ奇声をあげながら襲いかかっている光景。


物の見方は千差万別。

しかし事実はただひとつ。


彼らの果たすべき使命とは何なのか。


それは、

彼らの果たせる使命が何なのかと同じくらいに難しい。


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