まんけんRPG短編『闇色の魔術師の追憶。』
―世界には知ってはならない事がある―
光も闇も深淵を覗き込んでは魅入られる。
魅入られれば狂うだけ。
決して戻る事はできない。
僕は人間じゃない。
魔王と人間が争う魔法世界に生をうけた。
しかし、僕は魔族でも神族でもない。
僕はあらゆる種族の雑種。
ゴルゴーンの血を埋め込まれた人間の母とドラゴンの血を埋め込まれた人間の父から生まれた。
僕は聖王都の聖マルグリス魔術学院に入学するまで
何種類もの血を受け入れた。
そんな僕は、人間として聖マルグリス魔術学院に通い、
人間の少女達と友達としてライバルとして主席を争って主席で卒業した。
その後、人間同士の争いが堪えない剣の国と銃の国の国境あたりの
小さくも大きくもない農村の守護に任ぜられた。
長い戦に疲弊しきった農村は僕を歓迎してはくれなかった。
僕は村の外れの
深い森の奥にある古びた城に住んでいた。
僕に課せられた任務。
それは村を魔獣と戦火から守る事。
僕は村人達と仲良く…人として接して
魔術師として頼られたくて
この行為が報われると信じて
1人きりの城で結界を築く詩を唱い続けて、多くの血を流した。
全ては村を守るため。
いつかこの孤独が埋まるのならば
僕の血がいくら流れようとも構わなかった。
僕が痛みを負う分だけ村人が安心できるならそれが嬉しかった。
―なのに…
彼らは城に火を放った。
『魔女がいるから俺たちは幸せになれない』
『失せろ化け物』
叩き付けられた言葉は僕を否定するものだった。
僕を殺す言葉だった。
僕が魔女だからなんだというんだ。
僕が化け物だからなんだというんだ。
僕の中で村人がかつて僕の中に血を埋め込んだ始祖と重なった―。
紅く紅く燃え上がる炎の中で幾つもの断末魔が響く。
炎が消えた後には
無数の肉片と化した村人の亡骸が散乱していた。
僕はそれを無感動に眺める。
当然の報いだと思った。
『片羽ちゃん。』
脳裏に浮かぶ白い少女の笑顔。
一緒に主席で卒業した、僕の親友…。
そして僕は僕自身を憎悪した。
僕は…僕は、あの子と同じ人間をこんなにも沢山殺してしまった。
僕は本当にただの化け物になってしまったのだ。
自分の為に魔法を使って人を殺した。
(もう、いい…)
傷つけあい殺し合う事しかできないなら
いっそ1人きりの方がいい。
僕は手懐けた魔獣達に城の周囲を監視させ城を荊で閉ざした。
あらゆる場所に村への移転魔法を設置する。
決して僕には辿り着かせない。
僕はもう村の誰も殺したくない。
これ以上傷つきたくない。
僕は静かに知識を貪る。
生贄に差し出された村の住民が城の事をやってくれる。
彼らは僕に赦しと慈悲を乞うてきた。
生きたいから、誰だってわかる、簡単な理論だ。
僕はかつての惨劇を見せて
僕を赦せるか、尋ねる。
僕の過ちを彼らは知っている。
知っていてなお逃げずにとどまっている。
「お姉さん、お姉さんってば!!
また魔法を教えてよ!!」
村の住民はまだ、僕を憎んでる。
でも、全員じゃない。
この少年のように魔法や算数、文字の読み書きを習いに来る子供がいる。
「魔法の授業が終わりましたらお茶の時間に致しましょう、姫様。
本ばかり読んでないでたまにはお庭を散歩なさったらいいんですよ、今は薔薇が綺麗に咲いているんですよ。」
この娘のように何くれとなく僕の面倒を見てくれる者もいる。
全員が村から僕への生贄として捨てられた者達。
僕は彼らに一つだけ誓約を作っている。
家族以外の村人に姿を見られてはならない、と。
僕はかつて火を放つように命じた者と交わるのを恐れているのだ。
そして、やってきてしまった。
「姫様、魔獣達が…」
「しってる。
全員隠れていて…少し手荒くなるだろうけど帰っていただくから。」
「…姫様…」
「大丈夫、僕はこれでも聖王都のなかで5指にはいる魔術師なんだもの。
それに…まともな訓練を積んでるのは1人だけだもの4人いても大した戦力ではないわ。」
かくして僕はかつての親友と相対する。
結果はあっけなかった。
かつての親友は弱くなっていた。
別人だと思いたいほどに…。
何度目か分からない相対。
大剣を持った少女はいきなり大剣を足下に投げ捨て
僕に魔王を倒す手伝いをして欲しいというのだ。
僕は鼻で笑った。
僕が魔王の手先だと思わないの、馬鹿なんじゃない?と。
少女は深い藍色の瞳で僕を真っ直ぐ見つめて笑った。
「私は片羽ちゃんが良い人だって信じてるから。」
「面白いだろ」
「…片羽ちゃん。」
その少女達を僕は面白いと思った。
ライムがいたのもあるかも知れない。
僕は惨劇の跡地、自戒の場所へ四人を連れていった。
僕はこうやって人間を殺めた、それでも良い人だと言い切れるかと四人を嘲笑う。
今にして思えば
自嘲していたのかもしれない。
赦されたかっただけかもしれない。
しかし、大剣の少女は泣きながら怒り出したのだ。
僕にではなく死者に。
誰かを殺しても幸せになんかなれやしない、苦しいだけだっ!!て。
僕は、彼らを殺してから苦しかった。
この少女はかつての僕がいえなかった事を
代わりに叫んでくれている気がした。
もう少し早く出会えたなら素直に仲間になりたいって言えたかもしれない。
僕は緩やかに歪んでいたのだろう。
静かにその場を離れて
皆が隠れる書庫へ逃げる。
「姫様!?」
「…僕は…どうしたんだろう…」
涙が止まらないのだ。
自分でも分からない涙。
悲しくも痛くもないのに涙が止まらない。
「姫様、人間は嬉しくても寂しくても泣くんです。」
1人の少女がくずおれた僕の頭を撫でて優しく微笑む。
ぎぃぃ…
暗い書庫に明かりが差し込む。
先ほどの少女がドアを開けたのだ。
「一緒に来てもらえないかな…?」
自信なさげに差し出された手。
光を背負った少女達と闇の中で座り込む僕。
「…僕は」
側で構えていた皆を見回す。
「お姉さんがやりたいようにやればいいと思う。
お姉さんが居なくったってちゃんと魔法の練習できるもん。」
「いってらっしゃいませ、姫様。
姫様が留守の間、お城の管理は任せてください。」
笑顔で頷く村人たち。
「…仕方ないからついていってあげるよ。」
口から出たのは可愛くない返事。
泣きじゃくる皆に見送られて、僕は旅だった。
それから色んな事があった。
同じいびつな空気を感じた少年に見える義賊の少女を仲間に引き込み、
かつての旧友を仲間に加えて。
無駄に強い村人も仲間に加わり
僕は再び笑う事ができた。
心の底から楽しいと思えるようになった。
僕は彼らが大好きだ。
絶対言ってやらないけど、僕と彼らを選ばなければならないなら
彼らを選べるくらい気に入っている。
「…変わったなぁ」
思わず苦笑が零れる。
「片羽ちゃん、そんな所にいたのか、探したぞ。」
「ん、お兄ちゃん?
どうしたの、勇者が何かやらかしたの?」
義賊の少女が教会の屋根に座って夜風に吹かれて居た僕の隣りに降り立つ。
「いや、何かってわけじゃないんだけど
ライムがお菓子焼いたから片羽を呼んできてって」
「帰る!すぐに帰るっ」
使い魔にのって空を宿に向けて一直線に駈ける。
「置いて行くなよ!」
少女の声が夜の闇にのまれた。
宿から響く暖かな談笑。
闇色の魔術師が欲しかったものはここに―。
―END―
本編が別サイトなのに書かれても分からないですよねw
しかも終わり方も微妙ですし。
これから終わり方の研究頑張りますのでよろしくお願いします。
…あとがきも楽しいものが沢山書けるように頑張りますっ
神様、私に文才を下さいっ!!