幼馴染と転校生
俺には、昔からずっと一緒にいる幼馴染がいる。
家が近くて、家族同士の付き合いもあって、小さい頃から何をするにも一緒だった。
朝は一緒に学校へ行き、帰りも一緒。
休日だって、普通に遊びに行く。
そんな俺たちの関係は高校二年生になっても変わらなかった。
「悠真、早く起きなさい」
「…ん」
俺は起き上がる。
「葵か…おはよう」
「おはよう」
俺を起こしたのは、幼馴染の小坂葵。
「さっさと布団から出て」
「お母さんが料理できたって」
「了解」
俺はベットから降りて葵と共にリビングに行く。
リビングではいつもの朝食であるご飯と味噌汁と焼き魚が用意されていた。
俺たちは並んで椅子に座る。
「葵ちゃんいつもごめんね」
お母さんが葵に申し訳なさそうに言う。
「悠真ったらいつまで経っても自分で起きれないから…」
「いいんですよお母さん」
葵が笑顔で答える。
「私は全然苦に思っていませんから」
「そうだよ母さん」
「そうじゃなきゃ何年もこんなことしないって」
「あんたが言うな」
「……はあ」
母さんがため息をつく。
「葵ちゃんが悠真の側にいてくれたら、私も安心なんだけどな…」
「え?」
「二人が結婚してくれたら、私すごく嬉しい」
母さんが何気なくそんなことを口にした。
「あ……」
葵はその言葉の返答に困っている様子だった。
俺はそんな葵を見て、口を挟む。
「母さん冗談でもそんなこと言うなって」
「俺たちはもう家族みたいなものなんだし、今更互いを異性として見れないよ」
「…………」
葵が黙る。
「……葵?」
「なんでもない」
そう言って、葵は味噌汁に視線を落とした。
「早く食べよ。学校に遅れる」
「分かってるって」
俺は気にせず朝食を食べる。
そのときの母さんは呆れているような、ドン引きしているような表情をしていた。
「どうした母さん?」
「あんたほんとに…」
「?」
「…なんでもないわ」
母さんはそれ以上何も言わなかった。
◇◇◇
「行ってきます」
朝食を終え、俺たちは学校へ向かう。
「悠真」
「ん?」
「寝癖、ちょっとはねてる」
「じっとしてて」
葵が手を伸ばし、俺の髪を整える。
「……これでよし」
「ありがと」
「ほんと、朝から手がかかるんだから」
葵は呆れたように言う。
俺たちはそのまま並んで歩き始めた。
「そういえば今日、転校生が来るんだって」
「そうらしいな」
「女の子だって」
「へえ」
「反応薄くない?」
「転校生が来るからって何かするわけでもないだろ」
「そうだけどさ」
葵は少し考えるように空を見上げる。
「どんな子なんだろうね」
「さあ」
「でもまあ、仲良くなれるといいな」
俺たちはそんな他愛のない話をしながら学校へ向かっていく。
転校生が来ても、なにも変わらない。
いつも通り葵がいて、朝が来て、飯を食べて、登校してーー。
そんな毎日が続くと、このときの俺は思っていた。
◇◇◇
「転校生を紹介するぞ」
担任の先生がそう言うと、教室が少しざわめいた。
「女子だって」
「どんな子かな」
「都会から来たらしいよ」
「可愛い子だと良いなー」
クラスメイトが小声で話す。
「入ってこい」
ガラッ
教室の扉が開く。
入ってきたのは、長い髪をした一人の女子生徒だった。
緊張しているのか、少しだけ硬い表情をしている。
「今日からこのクラスで――」
先生が紹介を始める。
俺がその様子を眺めていると、ふと転校生と目が合った。
「…………」
沈黙。
そして、彼女の目が大きく開かれる。
「……ゆうちゃん?」
彼女は俺を見て、確かにそう言った。
「…………え?」
その呼び方をする人間は、過去にも現在にも、一人しかいなかった。
俺の頭の中に、遠い昔の記憶が蘇る。
九年前、俺には毎日のように遊んでいた友達がいた。
その頃は夕方になるまで公園で遊んで、二人で泥だらけになって、母さんによく叱られていた。
そんな…昔の思い出。
「……ゆいちゃん?」
俺がそう呟く。
すると彼女の顔が、ぱっと明るくなった。
「やっぱり、ゆうちゃんだ!」
片桐結衣。
親の仕事の都合で転校していった。
俺にとって、大切な友達。
そして。
九年ぶりに、俺の前に現れた人物だった。




