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NV ヴェリタスの最終定理 完結篇  作者: リウ/Wan Liyue
●第16章:NV ニーア・ヴェリタス

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真理3:予言をする極道!

アキラの、静かで、しかし確固たる意志を秘めた声が、ヴェリタス探偵事務所の埃っぽい空気を震わせた。


「はあ?破滅を止めに来たですって?」


ニーアは黄金色の極太の尻尾をバチバチと怒りで逆立てながら、鋭い視線でアキラを睨みつけた。


「あんたみたいな指名手配犯が、探偵である私にいったい……何の用よ!大体、なんで私の名前を知っているのよ!」


ニーアがトレンチコートのポケットに手を入れると同時に、ソファに座っていたアスナも音もなく立ち上がった。アスナの手には、半分かじりかけの粉砂糖がたっぷりとまぶされたドーナツが握られている。


「……この男は、危険。私のデータによると、彼は裏社会で暗躍する反社会勢力の中心人物。……懸賞金は、ドーナツが一生食べられるほどの額」


アスナは平坦な声でそう告げると、ドーナツを一口かじり、サクッという小気味よい音を立てた。


「一生分のドーナツ!?それは魅力的ね!ここで私がこいつを捕まえれば、ヴェリタス探偵事務所は、新王都で一番のお金持ちになれるじゃない!」


ニーアが好戦的な笑みを浮かべたその時、事務所の急な階段を下からドタドタと駆け上がってくる重い足音が響いた。


「ニーア君!昨日の市場での騒動の始末書はどうなっているんだ!」


勢いよく木製のドアを開け放ち、室内に転がり込んできたのは、王都中央警察署の警部であるビリー・ヴァンクロフトだった。分厚い胸板を持つ狼獣人の彼は、警察官の制服の上に使い込まれたコートを羽織っている。彼の手には、香ばしい匂いを放つ大きな紙袋が握られていた。


「ちょっと!ビリー警部!ノックくらいしなさいよ!今、私がこの指名手配犯を捕まえて一番の手柄を立てるところだったんだから!」


ニーアが抗議の声を上げるが、ビリーの視線はすでにニーアを通り越し、室内に立つ純白のライダースーツの男に釘付けになっていた。


「な、な、なぜ貴様がここにいる!アキラ・トバリ!」


ビリーは驚愕に目を見開き、手に持っていた紙袋を落としそうになったが、狼獣人としての優れた反射神経でギリギリのところで袋を掴み直した。袋の中から、串に刺さった分厚い肉の塊が顔を覗かせる。ビリーは肉の串を一本口にくわえ、油を滴らせながら腰のホルスターから大型の警察用魔導拳銃を引き抜いた。


「まさかこんな所で指名手配犯に遭遇するとはな!おとなしく両手を上げたまえ!抵抗するなら容赦はせんぞ!」


銃口を真っ直ぐに眉間に向けられても、アキラは表情一つ変えなかった。彼は懐から銀色の包み紙を取り出し、優雅な動作でそれを開いた。中から現れたのは、高純度のタンパク質が凝縮された携帯用の栄養食だった。アキラはそれを一口かじり、ゆっくりと咀嚼してから口を開いた。


「やあ、ビリー警部。相変わらず警察犬としての忠誠心は素晴らしいね。だが、銃を下ろした方がいい。君のその玩具では、僕の魔力の壁を貫くことはできない」


「黙れ!俺は新王都の平和を守る警察官だ!貴様のような社会のダニを野放しにはしておけん!」


ビリーが吠え、撃鉄を起こす。しかしアキラは冷ややかな目でビリーを見つめ返した。


「平和、か。……君が守ろうとしている平和は、すでに根底から腐り落ちようとしていることに、まだ、気づかないのかい」


「何を訳の分からんことを!」


「先ほどのラジオ放送。聞いていたね。国家総動員法が施行された。君たちは、あれを経済の安定と喜んでいたが……真実は全く違う」


アキラの言葉に、ニーアが眉をひそめた。


「どういうことよ!国が物資を管理して経済を回すための法律でしょ!これで社会にお金が回って、経済が豊かになるはずじゃない!」


「君のその無邪気さは嫌いじゃないが、事実は残酷だ。国家によるリソースの再分配。聞こえはいい。だが、その対象から意図的に外される者がいる。それが誰か、君たちにはわかるかい」


アキラは栄養食を飲み込み、ビリーの胸元を指差した。


「我々、『番号持ち』だ」


「な、なんだと……!」


ビリーが絶句する。ビリー自身もまた、体内に強大な魔力を宿す番号持ちでありながら、魔力を持たない新魔道士の組織である警察に所属している特異な存在だった。アキラは淡々とした口調で説明を続けた。


「番号持ちは体内に強大な魔力を宿している。だが、その魔力を安全に制御するためには、特定の魔石や魔道具による定期的な調整が不可欠だ。国家総動員法は、すべての魔石と魔道具の流通を国家の完全な管理下に置く。つまり、政府の意に沿わない番号持ち、あるいは危険分子と見なされた者たちには、明日から一切の魔石が供給されなくなるということだ」


「そんな……じゃあ、魔石をもらえなくなった番号持ちはどうなるのよ!」


ニーアが叫ぶと、アキラは静かに首を振った。


「自滅する。……あるいは、生き延びるために暴徒と化し、新魔道士たちに討伐される運命だ。新魔道士たちは、自らの手を汚すことなく、合法的に我々番号持ちを根絶やしにする気だ」


アキラの言葉が重く室内に響き渡る。


「番号持ちと新魔道士の対立は、もう、後戻りできないところまで来ている。いずれ間違いなく、血で血を洗う凄惨な内戦へと発展するだろう。新魔道士たちは、自分たちが絶対的な正義であり多数派だと信じているが、追い詰められた番号持ちの狂気を……甘く見ている。この新王都は、間違いなく破滅の道をたどっているんだ」


アキラはニーアに向き直り、その赤い瞳で彼女を真っ直ぐに見つめた。


「だからこそ。僕は君の力を求めている。ニーア・ヴェリタス。新魔道士でありながら、どの組織にも属さず、独自の信念と圧倒的な力を持つ君ならば、この破滅への歯車を止めることができるかもしれない。僕と、共闘してくれ」


アキラの真剣な提案に対し、ニーアはふんっと鼻を鳴らし、腕を組んだ。


「お断りよ!私がなんであんたみたいな裏社会の人間と協力しなきゃいけないの!才能のある者が迫害されてるのは、それは間違ってると思うけど、だからって戦争を止めるなんて大それたこと、この私ができるわけないでしょ!他人の争いに巻き込まれるのは御免だわ!」


ニーアは、アキラの提案を突き放した。


「その通りだ、ニーア君!そいつの甘言に乗ってはならん!国家総動員法は正当な法律だ!陰謀論はやめるんだ!」


ビリーが再び銃を構え直し、怒号を上げる。


「ビリー警部。いずれ君自身も、その法律によって首を絞められることになる。君のそのどっちつかずの振る舞いには、心底呆れるよ。自分の同胞が見殺しにされるのを見て見ぬふりをすることが正義だとでもいうのかい」


アキラの容赦ない嘲笑に、ビリーの顔が怒りで真っ赤に染まった。


「き、貴様ァァァッ!俺をコケにしやがって!絶対に許さんぞ!」


アスナはソファに座ったまま、ドーナツを咀嚼しながら三人の激しいやり取りを静かに聞いていた。番号持ち。新魔道士。魔力の暴走。迫害。アキラの言葉が彼女の頭の中でデータとして処理されていく。


その時、ふとアスナの胸の奥に小さな疑問が浮かび上がった。

私は、竜人だ。

竜人とは、この世界に存在するあらゆる種族の中で、最も強大な魔力を持つとされる絶対的な存在のはずだ。それなのに、なぜ自分には魔力がないのだろうか。

記憶がないから、自分が過去にどのような生活を送っていたのかはわからない。

私は、本当に竜人なのだろうか。

それとも、私の体には何か重大な欠陥が。

いや。

アスナは小さく首を振り、無意味な思考を強制的に打ち切った。過去の記憶がない自分にとって、今さら魔力の有無など些細な問題だ。それよりも重要なのは、手元に残された最後のドーナツをどのタイミングで食べるかということだ。アスナは思考の海から浮上し、再び目の前の光景に赤い瞳を向けた。


「もう逃がさんぞ、アキラ・トバリ!ここで俺が貴様を逮捕して、警察の威信を示してやる!」


ビリーは銃を構えたまま、猛然とアキラに向かって飛びかかった。狼獣人特有の凄まじい脚力が床を蹴り、一瞬にしてアキラの間合いへと踏み込む。ビリーの空いた左手が、アキラの胸ぐらを掴もうと鋭く伸びた。

しかし、アキラは全く力みのない自然体のまま、ビリーの突進をまるで風のようにするりとかわした。ビリーの手は空を切り、勢い余ったビリーは探偵事務所のデスクに盛大に突っ込んだ。未決済の請求書の山が吹雪のように舞い散る。


「な!?」


ビリーが慌てて振り返ると、アキラはすでに開け放たれたドアの前に立っていた。


「君たちの返答は保留としておこう。だが、時間はもう残されていない。君が正しい選択をすることを祈っているよ、ニーア・ヴェリタス」


アキラはそう言い残すと、純白のコートの裾を翻し、足音一つ立てずに階段を下りて暗闇の中へと姿を消していった。


「待て!逃げるな!」


ビリーが慌てて追いかけようとしたが、階段の下にはすでに誰の気配もなかった。ビリーは悔しそうに壁を殴りつけ、深くため息をついた。


「くそっ!またしても逃げられたか……!あの男、魔力増幅装置もなしにあれほどの動きを……これが番号持ちの本来の力だというのか……」


ビリーはデスクから這い上がり、床に落ちていた紙袋から肉の串を取り出して、苛立ちをぶつけるように豪快にかぶりついた。肉汁が口の中に広がり、彼の怒りを少しだけ鎮めてくれる。


「ほんっと、嵐みたいな男だったわね。勝手なことばかり言って去っていくなんて、絶対に許せないわ!次に会ったら、私のこの尻尾で思い切りビンタしてやるんだから!」


ニーアが黄金の尻尾を振り回しながら憤慨していると、ビリーは肉を飲み込み、真剣な表情でニーアに向き直った。


「ニーア君。俺は警察の人間として、あの男の言葉をすべて信じるわけにはいかん。だが、国家総動員法の施行と同時に、歯車通りにたむろしている番号持ちたちが妙な動きを見せているという報告が上がっているのも事実だ。アキラ・トバリもあの辺りを縄張りにしている。何か、大きな事件の予兆かもしれない」


ビリーは懐から分厚い封筒を取り出し、ニーアのデスクに叩きつけた。


「俺からの正式な依頼だ。歯車通りの番号持ちたちの動向を探ってくれ。警察が動けば刺激が強すぎる。報酬は弾むぞ」


「報酬を弾む!?それを早く言いなさいよ!この新王都で一番の探偵である私に任せておけば、どんな事件も一発で解決してあげるわ!」


ニーアは封筒を素早くひったくり、満面の笑みを浮かべた。そして、やる気に満ちた表情でソファのアスナを振り返った。


「聞いたでしょ、アスナ!久しぶりの大きな依頼よ!歯車通りに行って、怪しい連中を片っ端から締め上げてやるわよ!準備しなさい!」


ニーアが意気揚々と声をかけたが、アスナの反応は鈍かった。

アスナは窓の外のどんよりとした新王都の空を見つめたまま、手元の空になったドーナツの箱をぼんやりと指でなぞっていた。彼女の視線は遠く、全く別の世界をさまよっているようだった。

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