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一話

 ヒーロー漫画が好きだった。見返りを求める事無く、他人を助け悪しきを挫く。そこには弱いも強いも関係無い。人々は皆、ヒーローがいるだけで安心して暮らしていける。人々は皆、ヒーローに勇気付けられる。私はずっと、そんなヒーローになりたかった。


「真琴、あんた今日もあんぱん食べるのー?」

そう言うのはクラスメイトの坂井徹だ。

「まだまだ当たってないヒーローいるからね。コラボ終わるまでは食べなきゃ!」

そう言いながら私はパンの袋を開ける。丁度今、私が一番好きなヒーロー漫画とこのパンがコラボをしている。このパンには必ず、シールが一枚付いていて、そのヒーロー漫画のキャラが一人だけ描かれている。パンに齧り付く前にシールを確認すると、沢山のヒーローが写っていた。パンの袋には「どのキャラが入ってるかはお楽しみ!※シール一枚につき、キャラが一人描かれています」と書かれている。今まで私が集めたシールも、描かれているのは一人だけだった。

「え?!徹見てこれ!ヒーローがいっぱいいる!」

「本当だ。これ、シークレットじゃない?」

「そうだよね!あれ、もう一枚ある。文字だ」

もう一枚のシールには「きっと君も誰かのヒーロー」と書かれていた。これはこの漫画のキャッチコピーだ。私はこの言葉に何度も励まされてきた。悩んでいる時も、手を差し伸べ、それが空回りした時も、私はこの言葉を思い浮かべ乗り切ってきた。

「真琴?どうしたのそんなアホ面して。大丈夫?」

どうやら、不意を突かれて感極まっていたらしい。

「大丈夫大丈夫」

私はそう言った後、シールを置き、指で目を拭ってからパンを齧った。


 よく、こんな夢を見る。私はヒーローの一員で、仲間と共にヴィランと対峙する。私がヴィランに攻撃を放つ。すると、それが味方に当たってしまい、その味方は怯んでいるところを人質にされ、味方は全滅する。今日も同じ夢を見た。そんな、聞き飽きたであろう話を徹にしていると、先生の声が聞こえた。

「坂井ーこれ音楽室まで運んでくれー!宮田が先行ってるから、置く場所わからなかったら宮田に教えてもらって」

「わかりました!ごめん真琴、ちょっと行ってくるね」

あの夢を見ると、いつも以上に人の役に立ちたくなる。

「私が代わりに行ってくるよ!すぐ戻ってくるから待ってて」

私は徹の返事を聞きもせず、荷物を運んだ。音楽室に行くと、クラスメイトだが、ほとんど話した事の無い宮田君がいた。ろくに話も聞かず、勢いに任せて代わったから、その先の事は考えていなかった。話した事の無いクラスメイトとの作業はとても気まずい。そう、少し後悔していると、こちらに気付いたらしい宮田君が話しかけてきた。

「あれ、英さんだ」

「あ、代わったの。こんな力仕事、女の子にはさせられないからさ」

「君も女子だろうに。丁度よかった、この机反対側持てる?デカイから床引きずっちゃいそうで」

宮田君は少しだけ笑って言った。

「良いけど、引きずっちゃダメって?」

「物は大切にしなきゃ。長く使いたいじゃん?それに、この机は僕達よりも長くこの学校にいる先輩だからね。年功序列だよ。英さんがいつも何かを手伝ってる理由も、そんな思いやりなんじゃない?」

「んー、私、ヒーローになりたいんだ。いつも何かを手伝ってるのは、人の役に立ちたいからだよ」

机を持ち上げながら私がそう言うと、意外な返答だったのか、宮田君は少しの間ぽかんとした。しまった。あの夢を見たせいで、感傷的になってしまっている。普段だったらこんな事、徹以外の人には言わないのに……そう思っていると「かっけぇ!じゃあ、机持つのを手伝ってくれてる英さんは僕のヒーローだ!」宮田君はそうに、目を輝かせながら言った。幼少期の私もきっと、同じ目をしていたのだろうか。

「良いから!早く運んじゃお」

そう言って机を動かすと、思ったよりも力が入ってしまい、宮田君のみぞおちに机をぶつけてしまった。

「大丈夫?!」

うずくまる宮田君に驚いた。そこまで強くぶつかった訳ではない。おちゃらけているのだろうか?いや、そんな性格では無いように見えた。

「ごめんごめん。大丈夫。昨日お腹ぶつけちゃって、痣があるんだ。」

「え、お腹ぶつけるって、何したの?」

「何でもないよ。それより、早く終わらせちゃおう」

宮田君は眼鏡を直す仕草をした。

「あれ、そういえば今日眼鏡かけてないね。かっこいいじゃん!イメチェン?」

「あぁ、踏んで壊れちゃってさー!おかげで黒板見えないんだよー」

そう、宮田君は口角を上げながら言った。


 その日の放課後、帰ろうとすると、何やら校庭が騒がしい。何かと思い外に出て、皆が見ている視線を辿ると、屋上に知った顔がいる。それも、柵の外に。あの笑顔はどこへ行ったのだろう。何がきっかけだったのだろう。私は走りながら考えた。徹が止めようと私の名前を叫んでいたが、私はそれを無視して走った。漫画ではこういう時、ヒーローが下で受け止め助ける。私もそれをやるしかない。私が彼の真下に行く直前に、彼は飛んだ。私もスピードを速め、前へと飛んだ。どちゃ。その音が鳴った後、一度だけ目を開けると、彼は、瞬きをせずに横たわっていた。

 あぁ、また、空回りしてしまった。小さい頃からそうだ。私が手を差し伸べようとすると、毎回、仇となってしまう。そんな時、私はいつも「きっと君も誰かのヒーロー」その言葉を思い出す。でも今は、その言葉すら私を元気付ける事はできない。私は、ヒーローにはなれなかった。目の前のヒロインすら、助ける事ができなかった。もし、人生をやり直せるのなら、一人でも多くの人を救いたい。そう願い、意識を手放した。


――


 ん、病院……?それにしては風があるし、緑の匂いもする。目を開けてみると、私は森の中にいた。ここはどこだろう。少なくとも、私の知らない場所だ。誰かに運ばれて来たのか?だとしたら誰に?もしくは、自分からここへ来たのだろうか?誰も止めなかったのだろうか?宮田君は、やっぱり死んだのだろうか。そんな事を、横になったまま木漏れ日に当たり、その、まだら模様の光の中で、しばらく考えていた。

 そうしていると「助けてっ!」と、叫び声が聞こえてきた。声変わりをしたかどうかくらいの、男の子の声だ。私はその声に向かって、一目散に走った。少し開けた場所に出ると、叫び声の主と思われる、金色の髪をした少年と、私の腰程の背丈の、緑色の肌をした生き物が三人、いや、三体いた。緑の生き物は棍棒らしき物を持っている。この子が危ない。そう感じた。

 私は近くに落ちていた、少し大きめの石を両手で持って、緑の生き物に向かって走り、勢いを付けて頭を殴った。私が一体を殴る直前に、他の二体は私に気が付いたらしい。流石にもう一度石を持ち直す余裕は無い。少し後退りして、殴った個体が持っていた棍棒を手に握る。

 私の好きなヒーロー漫画の主人公は、強い力には恵まれなかった。でも、主人公は決して倒れず、最後には必ず敵を倒す。主人公が、ファンの子に「何であなたは悪に勝てるんですか」と、そう訊かれたシーンがある。彼はこう答えた。

「僕は弱いから、何も考えずに戦うとまず勝てない。だから、敵をよく見るんだ。どんなに強い相手でも、必ず癖や隙はある。それを見抜いて、時には小賢しい手も使って、そこを突く。それでも倒せなかったら、あとは意地かな。それが、僕の戦い方だよ。」

 向かって右の個体が、右手で持った棍棒を横向きに振りかぶる。私は避けつつもう一体を見ると、その棍棒を避けようと速度を緩めていた。私はこの位置を崩さないように、二体から少し離れた。そしてもう一度、同じように振り回される棍棒を、少し後ろに跳ね、躱した。その個体は、棍棒の重さと遠心力に耐えられずに、バランスを崩した。私はそこを、思い切り殴った。最後の一体に目を向けようとすると、思っていたよりも近くに影が見えた。避けるのは間に合わない。棍棒を盾にして、左からの打撃に備える。予想通り、大胆に振りかぶってきた。予想と違ったのは、その威力だ。私の持っていた棍棒にはヒビが入り、私の左腕からは聞いた事も無い音が聞こえた。痛い。頭はそれに支配された。左腕は動かない。嫌に心臓が鳴っている。これをまともに受けたら死んでしまう。盾、盾になるものは無いか。私が盾に選んだのは、二番目に倒した個体だった。この生き物に情と言うものは無いらしく、同族を盾にされても、構わず殴り続けていた。肉が衝撃を吸収してくれている。殴られている間、私の腕から鳴った音と同じような音が聞こえていた。殴る速度は段々と遅くなっていって、数十回の後、諦めたのか、ついにそいつは逃げ出した。

 その間、襲われていた男の子はずっと腰を抜かしていたらしい。私は彼に近付き「助けに来たよ」そう言って、右手を差し伸べた。

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