表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第5章:追われる者

翌日、ギルドに行くと——

騒ぎになっていた。

セロスが扉を開けた瞬間、酒場中の視線が彼に集中した。

「来た......」

「あいつが......」

ざわめきが、波のように広がる。

セロスは、いつものように壁際を歩こうとした。

しかし——

「おい、『影』!」

誰かが呼び止めた。

大柄な探索者だ。Bランクの証である青い徽章をつけている。

セロスは立ち止まった。

「何か......?」

「お前、本当に『忘却の遺跡』から帰ってきたのか?」

男が、詰め寄ってくる。

「はい」

「嘘だろ。お前みたいなヒヨッコが——」

「ギルドに報告済みです」

セロスは、淡々と答えた。

男は、セロスを睨んだ。

「何か......隠してるんじゃねえのか?」

「隠してません」

「じゃあ、何で生きて帰れた? 二組も死んだ遺跡だぞ?」

「......運が良かっただけです」

セロスは、男の脇をすり抜けようとした。

しかし、男が腕を掴んだ。

「待てよ。お前——」

その時。

ペンダントが、熱くなった。

突然、激しい熱。

セロスの胸が、焼けるように熱い。

「っ!」

思わず、男の腕を振り払う。

いや——

振り払おうとした。

しかし——

男が、吹き飛んだ。

まるで、見えない力で押されたかのように。

男は、テーブルに激突した。

ガシャン、と音を立てて、グラスが割れる。

酒場が、静まり返った。

「......何だ、今の?」

誰かが呟く。

セロスは、自分の手を見た。

(俺が......やった?)

でも、触れてもいない。

ただ——

ただ、振り払おうとしただけだ。

男が、立ち上がった。

顔が、真っ赤だ。怒りで、それとも酒のせいか。

「てめえ......!」

男が剣に手をかけた。

「やめなさい」

冷たい声が、響いた。

女性の声。

酒場の奥から、一人の女性が歩いてきた。

長い銀髪。

金色の瞳。

黒と銀の、洗練された探索者装備。

彼女は——美しかった。

しかし、その美しさは氷のように冷たい。

酒場中の探索者が、彼女を見て息を呑んだ。

「イヴェイン......」

男が、怯えた声で言った。

イヴェイン。

セロスも、その名前は聞いたことがある。

Aランク探索者。

「銀の魔女」と呼ばれる、凄腕の女性。

冷酷で、容赦ない。

そして——何より、強い。

イヴェインは、男を一瞥した。

「ギルド内での私闘は禁止よ。知らないの?」

「し、しかし——」

「出ていきなさい。今すぐ」

男は、歯を食いしばった。

しかし、イヴェインに逆らえる者はいない。

男は、酒場を出て行った。

イヴェインは、セロスに視線を向けた。

金色の瞳。

その瞳が、セロスを見つめる。

値踏みするような、冷たい視線。

セロスは、思わず一歩下がった。

「......あなた」

イヴェインが言った。

「面白いものを、持っているわね」

セロスの心臓が、跳ねた。

(見えている? ペンダントが?)

しかし、ペンダントはシャツの下だ。

見えるはずが——

「次の依頼、決めた?」

イヴェインが、突然話題を変えた。

「......いえ」

「そう。なら——」

イヴェインは、微かに笑った。

冷たい笑み。

「私と組まない? 悪い取引じゃないわ」

セロスは、驚いて彼女を見た。

(何を......言ってる?)

Aランク探索者が、Dランクの自分と組む?

そんなこと——

ありえない。

「な、なぜ......?」

「理由を聞くの?」

イヴェインは、首を傾げた。

「別に。あなたが気になっただけよ」

「気に......なる?」

「ええ。『忘却の遺跡』から生きて帰った、Dランクの少年。興味深いじゃない」

セロスは、何と答えていいか分からなかった。

イヴェインは、彼の返事を待たず、受付に向かった。

職員に何か言い、依頼書を受け取る。

そして、振り返る。

「三日後。北門で朝七時。遅れないで」

「し、しかし——」

「拒否する理由はないでしょう? それとも——」

イヴェインの目が、細くなる。

「——死にたい?」

その言葉に、セロスは息を呑んだ。

イヴェインは、セロスを見抜いている。

彼が——

彼が、どこか死に場所を探していることを。

「......分かりました」

セロスは、頷いた。

イヴェインは、満足そうに微笑んだ。

「良い返事。じゃあ、三日後に」

彼女は、酒場を出て行った。

残されたセロスは、呆然と立っていた。

(何が......起きた?)

周囲の探索者たちが、ざわめいている。

「『影』が、イヴェインと組む?」

「嘘だろ......」

「あいつ、何者なんだ?」

セロスは、急いでギルドを出た。


宿に戻る途中、セロスは考えていた。

(イヴェイン......)

(なぜ、俺と?)

理由が分からない。

Aランクの探索者が、Dランクと組むメリットなんて、ない。

それとも——

(ペンダントに、気づいている?)

可能性はある。

あの金色の目は、何かを見抜いていた。

(どうする?)

(逃げるべきか?)

しかし——

逃げて、どこへ行く?

それに——

(あの女性は......強い)

本能的に、セロスは理解していた。

イヴェインは、自分とは格が違う。

逃げても、捕まる。

ならば——

ならば、従うしかない。

セロスは、宿の部屋に戻った。

窓の外を見る。

夕日が、沈んでいく。

三日後——

セロスの運命が、また変わる。

それが良い方向なのか、悪い方向なのか——

まだ、分からない。


その夜、またセロスは夢を見た。

玉座の男。

しかし今回は、男は座っていなかった。

窓の外を見ている。

背中を向けたまま、言う。

『お前を......見ている者がいる』

セロスは、聞く。

「誰が?」

『守護者』

「守護者?」

『封印を守る者たち』

男が、振り返る。

金色の瞳が、セロスを見つめる。

『気をつけろ。彼らは——』

『——お前を殺すかもしれない』

「なぜ?」

『お前が、私の力を持っているから』

「あなたは......誰なんだ?」

セロスは、叫んだ。

男は、悲しげに微笑んだ。

『忘れられた者だ』

『そして——』

『——お前の、もう一つの運命だ』


セロスは、汗まみれで目を覚ました。

窓の外は、まだ暗い。

しかし——

セロスは、もう眠れなかった。

胸のペンダントが、強く脈打っている。

まるで、警告するかのように。

(イヴェイン......)

(お前は、守護者なのか?)

(俺を、殺すために近づいてきたのか?)

答えは、まだ分からない。

しかし——

三日後、真実が明らかになるだろう。

セロスは、覚悟を決めた。

逃げない。

向き合う。

それが——

それが、自分の価値を証明する、唯一の道だから。


[第5章 了]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ