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第16章:古代の言葉

山小屋での生活が、続いた。

セロスの体力は完全に回復し、四人は再び動き出す準備を始めた。

「帝国は——まだ、諦めていないはずだ」

ガロウが、窓の外を見ながら言った。

「俺たちを見つけるまで、探し続けるだろう」

「ずっと、ここにいるわけにはいかないわね」

イヴェインが、地図を広げた。

古い羊皮紙の地図。守護者の書庫から持ち出したものだ。

「この先——さらに北に、もう一つ遺跡がある」

彼女の指が、地図上の印を指した。

「『沈黙の塔』と呼ばれている場所」

「沈黙の塔......」

セロスが、繰り返した。

その名前に——胸のペンダントが、微かに反応した。

「そこに、何かあるのか?」

ユリウスが聞いた。

「分からない。でも——」

イヴェインは、セロスを見た。

「予言に関する、何かが眠っているかもしれない」

「予言......」

セロスは、胸に手を当てた。

ペンダントが、温かい。

『行クベキダ』

アストラルの声が——微かに、聞こえた気がした。

「......行こう」

セロスが言った。

「そこに、答えがあるかもしれない」

四人は——翌朝、出発することにした。


夜。

セロスは、一人で小屋の外に出た。

星空が、広がっている。

(沈黙の塔......)

(なぜ、ペンダントが反応したんだろう)

「眠れないの?」

声がした。

振り返ると——イヴェインが立っていた。

「......ああ」

セロスは、頷いた。

「少し、考え事を」

イヴェインは、セロスの隣に立った。

二人で——星空を見上げる。

「......セロス」

イヴェインが、口を開いた。

「アストラルと——本当に、共存できると思う?」

「分からない」

セロスは、正直に答えた。

「でも——やってみるしかない」

「もし——」

イヴェインの声が、震えた。

「もし、できなかったら......」

「......」

セロスは、答えられなかった。

もし、共存できなければ——

セロスが消えるか、アストラルが消えるか。

どちらかだ。

「私は——」

イヴェインが、セロスを見た。

金色の瞳に、涙が浮かんでいた。

「私は、あなたを失いたくない」

「イヴェイン......」

「リオスを——失った。自分の手で」

イヴェインの声が、震える。

「もう二度と——そんなこと、したくない」

セロスは——

イヴェインの手を、握った。

「大丈夫」

「どうして、そう言えるの?」

「......分からない」

セロスは、微笑んだ。

「でも——今は、イヴェインがいる。ユリウスがいる。ガロウがいる」

「みんなが——俺を支えてくれる」

セロスは、空を見上げた。

「だから——大丈夫な気がするんだ」

イヴェインは——

セロスを見つめた。

そして——

「......ありがとう」

小さく、呟いた。

「あなたが——そう言ってくれるなら」

「私も——信じる」

二人は——

そこで、静かに星を見つめた。


翌朝。

四人は、小屋を出発した。

さらに北へ。

山脈の、最深部へ。

道は——より険しくなった。

雪が、積もり始めている。

「寒いな......」

ユリウスが、息を白くした。

「もうすぐ、冬か」

「この山脈は、冬になると通れなくなる」

ガロウが言った。

「雪崩が、頻発するからだ」

「なら——急がないと」

イヴェインが、先を急ぐ。

四人は——黙々と、歩いた。

昼過ぎ——

前方に、何かが見えた。

塔。

石造りの、細長い塔。

周囲には——何もない。

ただ、雪と岩だけ。

「あれが......」

「『沈黙の塔』ね」

イヴェインが、頷いた。

四人は、塔に近づいた。

入口は——開いている。

しかし——

中は、暗闇。

「行くぞ」

ガロウが、先頭に立った。

四人は——塔の中へ。


内部は——不思議な空間だった。

螺旋階段が、上へと続いている。

壁には——無数の古代文字。

「これは......」

イヴェインが、文字を見た。

「何かの——記録?」

セロスも、文字を見た。

読めない。

でも——

何か、引っかかる。

まるで——

どこかで、見たことがあるような。

『コレハ......』

アストラルの声が、聞こえた。

『私ノ 言葉ダ』

「あなたの......言葉?」

セロスは、呟いた。

「セロス?」

イヴェインが、セロスを見た。

「アストラルが——これを、読めると」

「本当?」

イヴェインの目が、輝いた。

「なら——読んでもらえる?」

セロスは——

目を閉じた。

アストラルに、意識を集中する。

『読んでくれるか?』

セロスは、心の中で問いかけた。

『......ソウダナ』

アストラルが、答えた。

『少シ 力ヲ 貸ス』

セロスの体が——微かに、光った。

蒼い光。

そして——

セロスの目が、開いた。

しかし——

その目は、金色に輝いていた。

「セロス......?」

ユリウスが、後ずさった。

「お前......」

「大丈夫」

セロスの声——いや、少し違う。

アストラルの声が、混じっている。

「俺は、俺だ。ただ——アストラルに、力を借りてる」

セロスは、壁の文字を見た。

そして——読み始めた。

「『ここに記す——我が罪を』」

「『私は、アストラル。古代文明最後の王』」

「『深淵の獣から世界を守ろうとして——世界を滅ぼした』」

セロスの声が、震える。

アストラルの——後悔が、声に乗っている。

「『創世の炎を使った。しかし——制御できなかった』」

「『エリアナを——愛する者たちを——全てを、失った』」

「『だから——私は決めた』」

「『やり直すと』」

セロスは、階段を登り始めた。

文字を、読みながら。

三人が、後に続く。

「『自らを封印し、予言を残す』」

「『千年後——新しい器に、私は宿る』」

「『そして——今度こそ、世界を救う』」

階段を、登る。

文字が、続く。

「『しかし——私は、恐れている』」

セロスの足が、止まった。

「『恐れている......?』」

イヴェインが、呟いた。

「何を——恐れているの?」

セロスは、文字を読み続けた。

「『器となる者を——消してしまうことを』」

「『彼らには、彼らの人生がある』」

「『それを——奪う権利が、私にあるのか』」

セロスの目から——涙が、流れた。

蒼い涙。

アストラルの、涙。

「『でも——世界を救わなければ』」

「『深淵の獣が——再び、目覚める』」

「『だから——私は、器を待つ』」

「『そして——願う』」

「『どうか——許してくれと』」

文字が——そこで、途切れた。

セロスの目が——灰色に戻った。

金色の光が、消える。

「はぁ......はぁ......」

セロスは、荒い息をついた。

「大丈夫?」

イヴェインが、セロスを支えた。

「......ああ」

セロスは、頷いた。

「アストラル......」

胸のペンダントが、温かい。

『スマナイ セロス』

アストラルの声が、聞こえた。

『オマエニ 重荷ヲ 背負ワセテ』

「いや......」

セロスは、ペンダントに手を当てた。

「あなたも——苦しんでいたんだな」

『......』

「俺たちは——同じだ」

セロスは、微笑んだ。

「だから——一緒に、答えを見つけよう」

『......アリガトウ』

アストラルの声が、温かかった。

イヴェインは——

セロスを見つめていた。

「あなたたち——本当に、友達なのね」

「ああ」

セロスは、頷いた。

「不思議な友達だけど——でも、友達だ」

ユリウスが、笑った。

「お前、本当に変わったよな」

「変わった......?」

「ああ。王都にいた頃——お前、いつも下を向いてた」

ユリウスは、セロスの肩を叩いた。

「でも今は——前を見てる」

セロスは——

少し、驚いた。

(俺......変わったのか?)

自分では、気づかなかった。

でも——

確かに、何かが変わった気がする。

「行こう」

ガロウが言った。

「まだ、塔の頂上がある」

四人は——さらに、階段を登った。


頂上——

そこは、円形の部屋だった。

窓が、四方にある。

そこから見える、山脈の景色。

美しい——そして、厳しい風景。

部屋の中央に——

石の台座。

そこに——

一冊の本。

古代の、本。

「これは......」

イヴェインが、近づいた。

「予言書......?」

彼女は、本を手に取った。

開く。

古代文字で、びっしりと書かれている。

「読める?」

ユリウスが聞いた。

「......少しだけ」

イヴェインは、ゆっくりと読み始めた。

「『予言——第一の章』」

「『星が消える夜、失われし王の血を引く子が目覚める』」

「これは——知ってる予言ね」

イヴェインは、ページをめくった。

「『予言——第二の章』」

「『器となる者は、二つの道を選ぶ』」

「『王に飲まれるか——王と共に在るか』」

「!」

セロスは、息を呑んだ。

「共に在る......」

「続きがあるわ」

イヴェインは、さらに読んだ。

「『もし、共に在ることを選べば——』」

「『新しい力が、目覚める』」

「『それは、王でも器でもない』」

「『二つの魂が、一つとなった——新しい存在』」

「『その力こそが——深淵の獣を、封じる鍵』」

イヴェインは、本を閉じた。

「......これが、予言の完全版」

彼女は、セロスを見た。

「あなたとアストラルが——共存する道」

「それは——予言に、記されていた」

セロスは——

胸が熱くなった。

(共存する道......)

(それは——予言されていたんだ)

「じゃあ——」

ユリウスが言った。

「セロスは、消えないってことか?」

「そうね」

イヴェインは、頷いた。

「二つの魂が——一つの器に。でも、どちらも消えない」

「良かった......」

ユリウスは、安堵の息をついた。

ガロウも——微かに、笑った。

セロスは——

涙が、溢れた。

(俺は......生きられる)

(アストラルと共に——生きられる)

『セロス』

アストラルの声が、聞こえた。

『良カッタ』

『オマエヲ 消サズニ 済ム』

「ああ......」

セロスは、涙を拭った。

「良かった......」

四人は——

そこで、希望を見つけた。

[第16章 了]


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