第15章:感情の芽生え
数日後。
セロスの体力は、ほぼ回復した。
四人は——小屋を拠点に、しばらく過ごすことにした。
帝国の追跡は——一時的に、収まったようだ。
おそらく——兵士が全滅したことで、帝国も慎重になっているのだろう。
「今のうちに、力をつけるぞ」
ユリウスが言った。
「次に帝国が来た時——また、戦える準備を」
四人は——訓練を始めた。
朝。
セロスは、ユリウスと剣の稽古をした。
「もっと、腰を落とせ!」
ユリウスの指導は、厳しかった。
「お前の構え、まだ甘い!」
セロスは——必死で、ユリウスの攻撃を受け止めた。
速い。
ユリウスの剣は——本当に速い。
「くっ......」
セロスの剣が、弾かれた。
「ほら。まただ」
ユリウスは、溜息をついた。
「お前——力に頼りすぎだ」
「力......?」
「ペンダントの力。それがあるから、基礎がおろそかになってる」
ユリウスは、セロスの剣を指した。
「もっと、自分の力で戦えるようになれ」
セロスは——
ユリウスの言葉に、はっとした。
確かに——
最近、ペンダントの力に頼っていた。
自分の力で——戦っていない。
「......分かった」
セロスは、剣を構え直した。
「もう一度」
「良い目だ」
ユリウスは、笑った。
「行くぞ!」
二人は——再び、剣を交えた。
昼。
イヴェインは、セロスに古代語を教えた。
「これは——『光』を意味する文字」
イヴェインが、紙に文字を書く。
「そして、これが『闇』」
セロスは——文字を見つめた。
複雑な形。
「......難しい」
「慣れよ。古代遺跡を探索するなら、読めた方が良い」
イヴェインは、別の文字を書いた。
「これは......『記憶』」
「記憶......」
セロスは、その文字を、指でなぞった。
「イヴェイン」
「何?」
「あなたは——なぜ、ここまで俺を?」
セロスは、イヴェインを見た。
「俺を、助けてくれる理由は......」
イヴェインは——
しばらく、黙っていた。
そして——
「......あなたを、失いたくないから」
小さく、答えた。
「失いたくない......?」
「ええ」
イヴェインは、窓の外を見た。
「リオスを——失った」
「......」
「彼を、殺した」
イヴェインの声が、震える。
「使命のために」
「でも——後悔してる」
彼女は、セロスを見た。
金色の瞳に——涙。
「もう二度と——大切な人を、失いたくない」
「俺は......大切な......?」
「ええ」
イヴェインは、頷いた。
「あなたは——私にとって、大切な人」
彼女は、微笑んだ。
涙を流しながら。
「だから——守りたい」
セロスは——
胸が、締め付けられた。
「......ありがとう」
セロスは、イヴェインの手を握った。
「俺も——イヴェインを、大切に思ってる」
イヴェインは——
また、泣いた。
でも——
今度は、嬉しそうに。
夕方。
ガロウは、セロスに狩りを教えた。
森の中。
獲物の痕跡を、追う。
「ここに——鹿の足跡」
ガロウが、地面を指した。
「新しい。まだ、近くにいる」
セロスも、足跡を見た。
確かに——新しい。
「音を立てるな。風上から、近づく」
二人は——静かに、獲物に近づいた。
やがて——
鹿が、見えた。
草を食べている。
「お前が、やれ」
ガロウが、セロスに弓を渡した。
セロスは——弓を構えた。
狙いを、定める。
心臓を——
息を、止める。
そして——
矢を、放った。
矢は——
見事に、鹿の心臓を射抜いた。
鹿が、倒れる。
「......やった」
セロスは、呟いた。
「良い腕だ」
ガロウが、セロスの肩を叩いた。
「初めてにしては、上出来だ」
二人は——鹿を、小屋に運んだ。
夜。
四人は——鹿肉の夕食を囲んだ。
「美味い!」
ユリウスが、声を上げた。
「セロスが獲った鹿、最高だな!」
「まぐれだよ」
セロスは、照れくさそうに言った。
「まぐれでも、結果は結果だ」
ガロウが、言った。
「誇れ」
セロスは——
微笑んだ。
誇る。
自分の成果を。
それは——
セロスにとって、初めての経験だった。
「なあ、お前ら」
ユリウスが、言った。
「俺たち——良いチームだよな」
「ああ」
ガロウが、頷いた。
「良いチームだ」
イヴェインも、微笑んでいた。
「本当にね」
セロスは——
四人を見た。
仲間たち。
家族のような——存在。
(俺は......幸せだ)
セロスは、心から思った。
(こんなに......温かい気持ちは、初めてだ)
その夜——
セロスは、イヴェインと二人で、星空を見ていた。
小屋の外。
満天の星。
「綺麗ね......」
イヴェインが、呟いた。
「ああ」
セロスも、空を見上げた。
「......セロス」
「何?」
「あなた——これから、どうしたい?」
イヴェインが聞いた。
「どうしたい......?」
「ええ。予言の子として——どう、生きたい?」
セロスは——
考えた。
予言の子。
世界を救う、存在。
でも——
「俺は......」
セロスは、言った。
「予言の子じゃなくて——セロスとして、生きたい」
「セロスとして......」
「ああ。誰かの期待じゃなくて——自分の意志で」
セロスは、イヴェインを見た。
「俺は——俺の人生を、生きたい」
イヴェインは——
微笑んだ。
温かい、本当の笑顔。
「......素敵な答えね」
彼女は、セロスの手を握った。
「なら——私も、あなたを支える」
「セロスとして、生きるあなたを」
セロスは——
イヴェインの手を、握り返した。
二人は——
そこで、絆を深めた。
守護者と、予言の子。
敵であるはずの、二人。
しかし——
今は、家族だった。
[第15章 了]




