第12章:仲間との出会い①(ガロウ)
洞窟での生活が、始まった。
三人は——それぞれの役割を見つけた。
イヴェインは、周囲の警戒と狩り。
ユリウスは、食事の準備と薪集め。
セロスは——水汲みと、洞窟の整備。
シンプルな生活。
でも——
セロスは、充実していた。
初めて——
初めて、誰かと一緒に生活している。
「セロス、水汲み終わったか?」
ユリウスが、洞窟の入口から顔を出した。
「ああ、今戻る」
セロスは、水筒を持って洞窟に入った。
「ありがとな。じゃあ、飯の準備するか」
ユリウスは、鍋を火にかけ始めた。
昨日イヴェインが獲ってきた兎の肉と、野草のスープ。
質素だが——温かい食事。
「ただいま」
イヴェインが、戻ってきた。
手には、いくつかの果実。
「見つけたわ。山の斜面に、野生の果樹があった」
「おお! デザートだな!」
ユリウスが、喜んだ。
三人は、食事を囲んだ。
「......美味しい」
セロスが、呟いた。
「だろ? 俺の料理の腕、なかなかだろ」
ユリウスが、胸を張った。
イヴェインが、小さく笑った。
「自画自賛ね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
こんな——
こんな日常が——
セロスには、嬉しかった。
一週間が過ぎた。
ある日——
セロスは、一人で山を散策していた。
洞窟の周辺を、探索する。
安全な場所を、確認するために。
岩山を登る。
景色が、広がる。
遠くに——王都が見える。
小さく。
(もう......戻れない)
セロスは、思った。
(あそこは......俺の居場所じゃなかった)
でも——
(今は......居場所がある)
洞窟に。
仲間と共に。
その時——
何かの気配。
セロスは、振り返った。
茂みが、揺れている。
誰か——
いや、何かがいる。
セロスは、剣に手をかけた。
「誰だ!」
茂みから——
飛び出してきたのは——
獣人だった。
狼の頭を持つ、二足歩行の獣人。
大柄で、筋肉質。
服は——ボロボロだ。
傷だらけ。
「......」
獣人は、セロスを見た。
警戒の目。
「俺は——」
セロスが言いかけた時——
獣人が、倒れた。
「!」
セロスは、駆け寄った。
「大丈夫か!」
獣人は——意識を失っている。
傷が、ひどい。
矢傷。
背中に、三本も刺さっている。
(これは......帝国の矢......)
セロスは、見覚えがあった。
帝国の軍隊が使う、特殊な矢だ。
(追われているのか......)
セロスは——決断した。
「......仕方ない」
セロスは、獣人を背負った。
重い。
でも——
放っておけなかった。
洞窟へ——急いで戻った。
「イヴェイン! ユリウス!」
セロスの声に、二人が飛び出してきた。
「何事——」
イヴェインが、獣人を見て目を見開いた。
「これは......獣人!」
「怪我をしてる。助けないと!」
セロスは、獣人を洞窟に運び込んだ。
イヴェインとユリウスが、すぐに手当てを始めた。
矢を抜く。
傷を洗う。
薬草を塗る。
包帯を巻く。
「......これで、大丈夫」
イヴェインが、額の汗を拭った。
「後は、本人の体力次第ね」
「助かるか?」
「獣人の回復力は、人間より高い。多分——大丈夫」
セロスは——安堵した。
獣人は——一晩、眠り続けた。
翌朝。
獣人が、目を覚ました。
「......ここは」
低い、野太い声。
「洞窟だ」
セロスが答えた。
「俺たちの、隠れ家」
獣人は——セロスを見た。
琥珀色の目。
「お前が......助けたのか」
「ああ」
「......なぜだ」
「放っておけなかった」
セロスは、シンプルに答えた。
獣人は——しばらく、セロスを見つめていた。
そして——
「......ガロウだ」
「え?」
「俺の名前。ガロウ」
獣人——ガロウが、言った。
「お前は?」
「セロス」
「セロスか。......恩に着る」
ガロウは、体を起こそうとした。
しかし——
「痛っ......」
傷が、痛むようだ。
「無理するな。まだ、傷が治ってない」
セロスが、ガロウを止めた。
「......世話になる」
ガロウは、再び横になった。
その日から——
ガロウは、洞窟で過ごすことになった。
数日後。
ガロウの傷は、急速に回復した。
獣人の回復力は、本当に凄い。
「もう、大丈夫そうだな」
ユリウスが、ガロウの背中を見て言った。
「ああ。もう動ける」
ガロウは、立ち上がった。
「世話になった。そろそろ、行く」
「行く? どこへ?」
セロスが聞いた。
「......分からん」
ガロウは、窓の外を見た。
「ただ——帝国から、逃げる」
「帝国......ガロウも、追われているのか」
「ああ」
ガロウは、苦い顔をした。
「俺の部族は——帝国に滅ぼされた」
「!」
「帝国は、獣人を奴隷にしようとしている。俺たちは、抵抗した。そして——負けた」
ガロウの拳が、握られた。
「俺だけが——生き残った」
静寂。
セロスは——ガロウの痛みが、分かる気がした。
(一人だけ......生き残る)
(その、苦しみ)
「......なら」
セロスが、口を開いた。
「俺たちと、一緒に来ないか」
「え?」
ガロウが、驚いた顔をした。
「俺たちも——追われている。帝国に」
セロスは、ペンダントを見せた。
「これを、狙われている」
ガロウは——ペンダントを見た。
そして——
「......蒼い涙」
呟いた。
「知ってるのか?」
「伝説でな。部族の長老が、語っていた」
ガロウは、セロスを見た。
「お前が——予言の子か」
「......ああ」
「なるほど。だから、帝国が」
ガロウは、腕を組んだ。
「しかし——俺がいると、お前たちに迷惑がかかる」
「気にするな」
ユリウスが、言った。
「俺たちは、どうせ迷惑だらけだ」
イヴェインも、頷いた。
「一人増えても、変わらないわ」
ガロウは——
三人を見た。
そして——
「......分かった」
低く、言った。
「世話になる。しばらく、一緒に行かせてもらう」
セロスは——
微笑んだ。
「よろしく、ガロウ」
「ああ」
ガロウも——
微かに、笑った。
こうして——
四人の、パーティが生まれた。
その夜。
四人は、焚き火を囲んだ。
「なあ、ガロウ」
ユリウスが聞いた。
「獣人って、どんな暮らししてるんだ?」
「......森での生活だ」
ガロウが答えた。
「狩りをして、木の実を集めて。シンプルな暮らし」
「帝国は、なぜ獣人を?」
「労働力としてだ」
ガロウの声が、暗くなった。
「獣人は、人間より力が強い。だから——奴隷に、最適だと」
「ひどい......」
セロスが、呟いた。
「ああ。ひどい」
ガロウは、空を見上げた。
「でも——世界は、そういうものだ」
「そういうもの......?」
「強い者が、弱い者を支配する。それが、世界の掟」
ガロウは、セロスを見た。
「お前も——そうだろ? 予言の子として、期待された。でも、失望された」
セロスは——
何も言えなかった。
「俺たちは——世界に、弄ばれている」
ガロウの声が、冷たい。
「運命とか、予言とか——そんなものに」
「でも......」
セロスが、口を開いた。
「でも——諦めたくない」
「諦めない?」
「ああ。運命に、弄ばれるだけじゃ——嫌だ」
セロスは、拳を握った。
「自分で——自分の道を、決めたい」
ガロウは——
セロスを見つめた。
そして——
「......面白い奴だな」
低く、笑った。
「予言の子のくせに、運命に逆らう」
「おかしいか?」
「いや」
ガロウは、首を振った。
「......良いと思う」
彼は、焚き火を見た。
「俺も——運命なんて、クソくらえだと思ってる」
ユリウスが、声を上げて笑った。
「お前ら、気が合うな!」
イヴェインも——微笑んでいた。
「個性的なパーティになったわね」
セロスは——
温かい気持ちになった。
(これが......仲間)
(これが......家族のようなもの)
初めて——
セロスは、本当の居場所を見つけた気がした。
[第12章 了]




