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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天使特区

挫折と栄光

続きを書いてしまいました。

『さて、お祈りは済ませましたか? トイレは? 死ぬ覚悟はよろしいですか? 特に私を無能とわらった連中は、念入りに、十全に、懇切丁寧に殺して差し上げませんとねェ!』

 天使・・降臨とりついたのは電子部品工場の期間工、真鍋達宙だった。大学で宇宙工学を学んだが就職で挫折し工業団地で働いていた。そういう人間の惨めな境遇や鬱屈した怨恨は天使・・の大好物なのだ。

 恍惚の表情で光の剣を振るう真鍋に追われ、逃げる従業員たちが悲鳴をあげながら工場を飛び出してくる。

「待ってくれ! 君を社員にする話はちゃんと上、ぐえっ」『汝、嘘をつくことなかれ』

 係長の岡本が蝦蟇のように頭を潰され光となって消滅した。

「ご、誤解だって! 財布ならトイレで拾っただ」『汝、盗みをすることなかれ』

 手癖の悪い同じラインの木島が首を刎ねられる。

「やめろ! 私が何をしたと言」『汝、安息日を聖とし穏やかに過ごすべし』

 毎日2時間の残業や休日出勤を強いるライン長の越地が腹を裂かれ苦悶の表情を浮かべた。


 工場の駐車場はまさに阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「おーおー、活きがいい天使マトだねェ、ド派手にやってくれるねェ!」

「ちょっと朱良さん、そういうのはマズいんじゃ……」

 今回の【特区】に派兵された【天滅(SIGNAL)】の山鹿朱良がケラケラと嗤う。それを気弱そうにたしなめているのが響藍之介だ。二人は制服バトルスーツのほかに安全第一の黄色いヘルメットをかぶっている。理由は「気合いが入るから」と朱良は言う。

「おいオマエ! 天使えらくなったからイジメの仕返しってのもダセエなァ。アタシらが相手してやっからこっち来いよ」

 山鹿朱良が軍用スコップを担いで挑発するように手招きする。それを見て真鍋がやれやれというふうに首を振る。 

『私の邪魔をする気ですか? 見るからに頭が悪そうなくせに、わざわざ死に急がなくてもいいでしょう』

「くすぶってる学歴厨こじらせが言うかよ。おう藍之介、とっととやっちまおうぜ!」

「は、はい!」

 言われて藍之介がリボルバー式のグレネードランチャーを構える。先んじて山鹿朱良がスコップを振りかぶって突っ込んでいく!

「おらぁ!」

 打ち下ろしのスコップを真鍋が剣で受け止めた。しかし朱良は真鍋の反撃を受ける前に離脱。追撃しようとする真鍋だが、その出鼻を挫くようにグレネードのゲル弾が膝に命中する。その弾は当たると瞬間的に固まった。

『これは……剪断増粘現象ダイラタンシーか?』

「おーよく知ってんな。さすがは宇宙工学専攻」

『しかしこれでは私を止めることはできませんよ? 無駄な努力です』

 真鍋の言うように、ゲル弾は硬化したままを保てず地面に落ちる。

「足止めなのは先刻承知だ。お前にトドメを刺すのはこのアタシだよ!」

 そう言うと山鹿朱良は再び真鍋に突進した。


 それぞれの攻撃力はそれほど高くはない。すぐにけりがつくと思っていた真鍋だったが、朱良と藍之介の遠近からの連携攻撃に苛立ちを募らせていく。

 しかし真鍋はチャンスを覗っていた。それは藍之介の銃が残弾一発になるタイミングだ。そこを狙って真鍋は朱良に剣を投げる奇襲・・に出た。

「なっ!」「朱良さん!」

 藍之介は残っていた一発をその剣を逸らすために使ってしまった。

『かかりましたね。再装填には時間がかかる。これで1対1の戦いに集中できます』

 真鍋は生成した2本目の(・・・・)光の剣を手に朱良に迫る!

「テメェ、卑怯だぞ!」

『剣が1本だと誰が決めたのですか? 隠すからとっておき(・・・・・)なのですよ』

 勝利を確信した真鍋だったが、しかし首に衝撃を受けて横に吹っ飛ぶ。

『こ、これは……何故貴様が!』

 立ち上がれないままの真鍋の視線の先には、撃った単発のグレネードを排莢する藍之介がいた。真鍋が食らったのは暴動鎮圧用の十字ゴム弾、それでも当たり所が悪ければ骨折は必至だ。

「欺し合いはこっちの勝ちですね。あなたはどうして銃が一丁だと思ったのですか?」

『くっ、しかしこんなもの超回復で』

 悔しさを滲ませながら真鍋が身をよじらせる。

「おっと、それを許すワケねーだろ。起きろ、【悪抹(AKUMA)】」

 山鹿朱良のかけ声でスコップは三つ爪のアームグラップルに変形ギミックした。

アディオス(くたばんな)。向こうでとやらにヨロシク言っとけ」

 レバーを引くとグラップルが真鍋の頭を掴んで握り潰した。


 工場の自販機でコーヒーを買って飲む山鹿朱良と響藍之介。

「さーて、【天滅バイト】も終えたし、とっとと大学がっこう帰って素材研究しごとの続きといくか」

「はい、お疲れさまでした」

「しかし藍之介のゲル弾(そいつ)スゲーよな、今度宇宙服にも採用されんだろ?」

「みたいです。それもこれも先生のアイデアがあってこそで」

「先生はやめろって言ったろうが。名前で呼べよ、若・社・長」 

「は、はい……朱良さん」

「さんもいらねーって……まあいいか。もうすぐ苗字なまえも変わるんだしな。頼りにしてるんだぜ、ダンナ様」

 グローブを外した二人の左手にはプラチナの揃いの指輪があった。


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