事故と自己紹介、更に事件
ドローンは非力なり。
西も決まって、動き出してしまってから気づいた。
......充電どうすんだ。
箱横の説明書によれば、充電はUSB、つまり、USBとUSBのプラグが必要。
でもそんなの持ってないし。
じゃあどうするか。
見つけるしかない。
さて。
自分では充電の残量はわからない。
だから地面に近いところを飛行して、突然切れたときに壊れないようにする。
あと、車と同じ気持ちでやる。
あ、高校生だから車の免許は持ってるよ?
交通標識は遵守。
壊れて別のものに生まれ変わる保証はない。
......あれ?
目に付いたのは新聞紙。
おとといの夕刊。
そのタイトルは、
高知県香南市で事故。
男子高校生意識不明。
え。近づいて詳しく読む。
なまえは......天城詩音......。
自分だ......。
自分はこうして転生して意識もあるのに意識不明......。
他にはなにかないか、と読み進めると、自分の入院している病院の名前がわかった。
野中中央病院。事故があったところの近くの割と大きい病院。
入院してるんだろうか。
妹は元気だろうか。
心配がふつふつと湧いてくる。
もう死んだんだという実感が湧く。
死んだわけではないのだが。
もう戻れないかもしれない。
妹......音羽の顔は見れるんだろうか。
さて、そんなことに悲しんでいても進まない。
前に進もう。
今は......どこだここ。
府中?八王子?八王子だなこりゃ。
八王子。来たことない。いや、人生の大半を高知県内で過ごしてきたから当たり前なのだが。
どのへんからスタートしたんだかわからん。
土地勘はなくていい。あったところでなんにもならん。
中国地方に入ったらいるけど、瀬戸大橋は何度も渡ったから問題ない。
よし、と思っていると、眠くなる。
......眠く?
まさか!
充電か!
USBはみつけた。
ちょうどいいところにガソリンスタンドが。
申し訳ないが盗電させていただく。
USBはあるのだが、どうやってつけよう。
近くにあるのは、台。
多分、車を洗うときに使うやつ。
思いつきでしかないが、作戦はこうだ。
アームをつかってUSBを台に固定する。
反対側をコンセントに。
ここまではできるとして、台に固定したUSBに突進する。
成功したら僥倖だ。
なんどかトライする。
そう簡単には行かないことはわかっていた。
眠気が増す。
何回目かの挑戦。
ささった!刺さったよ!やったあ!
充電ができるようになっただけなのにこんなに嬉しいとは。
なんか、腹が満たされていく。腹ないのに。
そのまま、妹のこととか、自分のこととか、想像する。
ここで想像してもなんにも、そう、なんにもならないのだ。
......うずうずするとはこういうことか。
そのまま何分経っただろうか。
日が暮れ始めた。
夕日......綺麗......。
さて、充電は満タンになっただろうし、出発する。
すでに真夜中。
でもよく考えたら、日中なのに、しかも街中でドローンが飛んでて何もおこらないわけがない。
......進むなら充電マックスかつ夜中のいまだ。
高度を上げる。
最大戦速!と心の中で唱えつつ、加速する。
はやい!
前から思っていたけど、はやいわ。
しかもこの時間ならバレない!
おっしゃあ!
そうやって時間が過ぎていく。
若干明るくなる。
高度を落とし、ガソリンスタンドで前と同じ方法で充電する。
一時間ほど休憩して、進む。
そして気づく。
火が燻っていること。
部屋の中には誰もいないようだ。
近くに人はいない。
時間的に早朝。
気づかなくても無理はない。
さて。このまま放置は良くない。
自分にできること......
近くにあるもの。
公衆電話!
イエス、ノーだけでどうにかしてみせる。
自分で言ったことを録音できることも使う。
公衆電話ボックスに近づく。
開かない!
重い。
どうする?この間にも燃焼は続く。
......アームで地面に固定する。機体を壁に沿わせる。アームで押しながら全力で前に行く。
これなら!
......開かない!
くそ!
命がけでやるしかない。
助走をつける。アームをうまくクッションにして押す。
ゆっくりと、少し空いた隙間にアームを突っ込む。
アームをてこにして、開ける。
開いた!!
周りを確認して、受話器を取る。
緊急通報ボタンを押す。
119を押す。
事前にここがどこか、それを伝える方法は考えた。
あとは実行のみ。
ドローンは非力ですね。
名前書き忘れなかった。
自分偉い。