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プロローグ
ずっと嫌な空気は続いていた。
『日本列島が沈む』『日本は滅亡する』というようなことは律果が生まれる前から何度も言われてきたことだが、それは何の根拠もなくて噂レベルのものだったから笑って済ませられていた。しかし、今度のは本当だった。水面が高くなるだけではなく、本当に、着々と島は沈んできていた。
テレビをつければそのニュースばかりで、政治家も専門家も不安げな面持ちで討論していて、それが国民にも広まって。家でも学校でも、なんだかピリピリした空気が続いていた。
外交官を父に持つクラスメイトは、逃げるかのように海外に引っ越して行った。四国に住むネット友達は、泣きながらテレビ電話をしてきた。
そろそろ何かしなければ、と誰もが焦っていた。心の底で、大変なんじゃないかと気づいていた。
そんな空気だったから─
どんなに歳月が流れようと、人間としての本質は変わらない。DNAとして受け継がれている。
歴史は過ちを繰り返す。