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使われなかったランドセル

掲載日:2022/12/09

リハビリです。

 久し振りに戻って来た街。

 アメリカに出向が決まり、家を飛び出したのが8年前だから、それ以来になる。


 気づけば私も36歳、あのまま日本に留まる選択をしていたなら、きっと良き妻、良き母親を続けていただろう。


「...何を考えているんだか」


 未練がましい事。

 私が選んだ人生、この選択に絶対後悔しないと誓った。

 それなのに、ここ数年思い出すのは日本に残して来た旦那と、当時三歳だった娘の面影。

 親兄弟、家族や友人の反対を押し切ってまで、夢を叶えた事は後悔して無い筈なのに...


「さて...行こうか」


 覚悟を決め、目的のホテルへと向かう。

 そこには私の親友、阿久津小百合が待っている。

 彼女は最後まで私のアメリカ行きに反対していた。


『家族は掛け替えの無い宝物よ?』


 そう言う小百合に、


『それならアンタにあげる』

 煩わしくなり、吐き捨てた。

 まさか二年後、本当に元旦那と結婚してしまうなんて。


「久し振りね」


「本当に」


 約束の時間ちょうどに小百合は現れた、手には大きなバッグを抱えている、仕事の資料かもしれない。

 相変わらず綺麗な小百合、私と同い歳の筈だが、とてもそう見えない、子供を三人も産んだ筈なのに。


「急に何の用かしら?」


 運ばれて来たコーヒーを一口飲み、少し煩わしそうに聞く小百合。

 本当は私と会いたくなかったのだろうが、必死で伝を頼り呼び出したのだ。


「龍斗さんと美里(みさと)の事なんだけど...」


「捨てたんでしょ?今更何を聞くつもり?」


「...う」


 元旦那と娘の事を聞こうにも、冷淡な小百合の返答に言葉が続かない。

 小百合の言ってる事は間違ってないが、私にだって言い分はある。


「仕方なかったのよ、そうしないと幸せになれなかった」


「幸せ?

 家族を捨ててまで縋り付く価値があった?」


「それは...」


 小百合は昔から仕事に忙しい私に代わり、娘の世話をしてくれていた。


「何が夢の為よ、アメリカに着くなり一緒に行った男と再婚した癖に」


「ち...違う」


 再婚なんかしてない、その人は単なるパートナー、すぐ別れたんだ。


「何を言っても無駄、言い訳にもならない」


「...そんな」


 項垂れると小百合は鞄から荷物を取り出した。


「なんでこれを?」


 新品のランドセル、五年前私が娘の入学祝いに贈った...


「家族にお祝いを贈れるのは家族だけの特権、貴女にその資格は無い」


「なんですって?」


「その意味を噛み締めなさい」


 出ていく小百合。

 全く使われた様子のないランドセルに涙が止まらなかった。

補足

女、五十嵐紀美。

外資系に勤めていた9年前、ヘッドハンティングされて来た男に惹かれ、家族を捨てアメリカに戻る男と同行する。

不倫を疑われたが判明せず、財産分与のみで離婚成立。

子供の養育費を一括で支払い、親権を放棄し面会も断り、晴れて自由に!


渡米後、僅か一年で男に捨てられ、頼りの仕事も任されず敢えなく帰国。

元の職場で閑職に回され、五年前に自主退社。

現在は派遣で食い繋いでいる。


小百合、山内(旧姓阿久津)小百合。

女の幼馴染みで元親友。

元々は保母だったが、身体を壊し退職。

療養が終わり、仕事を探している時に紀美から娘の育児を頼まれる。


で、紀美が出ていき、そのまま妻と母の座に。

旦那に元々好意があったのか謎。

現在、家族仲が良いのは近所でも有名。

『幸せ!』が口癖。


旦那 山内龍斗。

嫁(紀美)に逃げられ途方に暮れる間もなく、育児に追われる。

助けてくれた小百合と再婚。

もやっとするが、幸せ者。

因みに見栄えと稼ぎは良い。


娘 山内美里。

本来なら母に捨てられ、継母と暮らす展開は苦痛の王道。

しかし、元々産みの母である紀美の記憶が殆ど無い、寧ろ小百合を本当の母と慕っている。

因みに再婚後、子供を作るように言った張本人。

弟妹達の仲も良く、日本一のお姉ちゃん目指し日々奮闘中。

紀美については、

『そんな人知らない、別に会いたくも無い』

本当にそう思っている。


紀美の両親

娘の不始末に絶縁したが、心労で一時老け込む。

更にランドセルを一方的に送り付けられた可哀想な人。

処分を考えたが、音信不通の娘に若干の哀れみを感じ、保管していた。

現在は孫が頻繁に訪ねて来るので、すっかり傷が癒えた。

血の繋がりが無い孫まで可愛がる、激孫ラブ爺婆。


小百合から、ランドセルをとの連絡に、喜んで差し出した。

因みに紀美の安否は確認しなかった。


アメリカへ同行した男。

ヘッドハンティングで紀美の会社にやって来た男。

一方的に紀美から惚れられ、アメリカまで付いて来られた。


直ぐにまた他社からヘッドハンティングされる。

で、紀美はポイ。

悪い奴だが、紀美が離婚するまで迂遠に口説いたが、決してセックスはしなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] バリキャリとしてバリバリやる為ならまだ分からんでもないが結局男に金魚のフンみたいにくっついていくんじゃあねぇ
[良い点] さらっと読める文字数なのに、奥が深くて面白い。どうやったらこんな深い展開を次々と考えられるのか。 [一言] 次回作も楽しみにしています!
[良い点] 見知らぬ生母からのランドセル。ジジババ保管で正解ですね。 美里ちゃんにとっては、正にいい迷惑な重荷ですね。 「何故にパパ、ママにオネダリして買って貰ったのじゃなくて、貰い物を背負わなきゃい…
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