74 封じられた魔法
俺達がビーストヘルズ城に入りこむと、吹き抜けの広間となっており壁には黒を基調とした模様が散りばめられていた。
広場の奥には大きな階段があり、上がった先にある通路から誰か歩いてくる。
「……驚いたよ。誰かと思ったらまたお前達と会うとはね」
通路の奥からは黒のローブにフードを深くかぶった男が俺達を迎えてきた。
その男の声は聞き覚えのある声で、間違いなくエクリエル王国で会った組織・カオスゲートの1人だった。
「やはり……サミル、お前だったか」
俺は姿を現したサミルに視線を向ける。
「ん? 俺っちの名をなぜ……あぁ、マイト……お前の入れ知恵か。……困るなぁ、組織の情報を漏らして貰っちゃ」
サミルはマイトに軽い感じで問いかける。
「……私はもう組織の人間ではありません。なので、情報を守る義理などありません」
「そうかい」
すると、サミルは深くかぶっていたフードを脱ぎ去る。
黒く短い髪に長いエルフ耳が露になる。
「……まぁいい。どうだそこの黒い兄ちゃん。俺と取引をしないか?」
サミルはマイトから俺に視線を向ける。
「……取引?」
「あぁ。このグラインボルトから手を引いてくれないか? その代わり、俺っちはお前達に手を下さないからさ」
「断るっ!」
俺は一瞬の迷いもなくサミルに答える。
「はぁ……強情だねぇ。……見たところ、亜人族やドワーフ族も連れているようだが、そもそも何故フィランドに関係のないお前達が三国の争いに首を突っ込んでいるんだ?」
「俺達は離島に向かう為に、フィランド三国の協力が必要なんだ」
「離島……? あぁ、イングラシルの事か…………なるほどな。……だからボスはフィラント大陸の件を俺に任せたのか」
サミルは1人で何かに納得したようだ。
「わかったよ。完全に理解した」
「何がだ!」
俺は1人納得しているサミルに問いかける。
「……お前達をイングラシルに向かわせるわけにはいかないって事さ」
サミルはそう言うと、エアリアに手を差し向ける。
「……さて、交渉決裂だ。まずは厄介な魔導士を封じさせてもらうぜ」
すると、エアリアは急に首を押さえ始めた。
「……~~っ!」
「な、なんだ!」
すると、エアリアの首元にはクッキリと大きな手の後が浮かび上がる。
「……っ! アブソリュート・シールド!」
俺は瞬時にエアリアを空気の壁で隔離する。
すぐにエアリアは解放されるが咳き込みながら膝をつく。
「あれ? 干渉できなくなった……首をへし折ろうと思ったんだけどな」
「……っ!」
とんでもない事をしようとしていたサミルに俺は睨みつける。
睨みつけたサミルは俺達を見下ろし不敵に笑う。
「おいおい……そんなに睨まないでくれよ。もし死んでも俺っちが上手く扱ってやるからさ。……まぁ、仕留め損ねたが、どっちみちそこのお嬢ちゃんの喉を潰させてもらったよ」
「……喉を潰した……だと!?」
「あぁそうさ。……あと、お前達の逃げ場も封じさせてもらうぜ」
――バダァァァァーンッ!
サミルは城門に手を向けると重たい城門は固く閉ざされた。
「な、なんだと! 大勢の兵士達でやっと開ける事が出来る城門を閉めるなんて……」
ボレサスは閉まった城門を見て呟く。
「……コホッ……コホッ!」
俺はすぐさま城門から咳き込むエアリアに意識を移し、駆け寄って腰を下ろす。
「エアリア……大丈夫か!」
顔を上げたエアリアは笑みを浮かべ声を発しようとしたが声は出ず、次第に表情は曇りはじめ喉を押さえながら顔を小さく左右に振る。
「……まさか、喋られないのか?」
不安そうな表情でエアリアは頷く。
俺はスッと立ち上がり、サミルに再度鋭い視線を送る。
「エアリアをこんな目にあわせるなんて……許さないぞサミル!」
「やだなぁ……そんなに怒るなよ。不安要素は排除するのは当然だろ? 俺っちのスキルに対処できるのは勇者一行にいるクロエかそこのお嬢ちゃんぐらいだからな」
俺は以前にサミルが操っていたアンデッドをエアリアが魔法で対処していた事を思い出す。
そんな事を思い出していると――
「……よくも、エアリアさんを……っ! 許さないにゃっ!」
――俺の怒りに同調するようにキャスティは瞬時に体に風の層をまといサミルに切りかかる。
「ま、待て、キャスティ!」
俺が制止するがキャスティは止まらない。
すさまじい速度でキャスティはサミルに大剣で斬りかかる。
「はは、元気だねぇ」
サミルはそう呟くとキャスティに手を向ける。
――ピタッ!
キャスティは宙で何者かに捕まれたように留まる。
「な、何にゃ!?」
サミルは不敵な笑みを浮かべ、そのまま何者かに掴まれたキャスティの頭側を壁に勢いよく接近させる。
……このままだと、キャスティの頭が壁に衝突してしまう――
「……間に合え!」
――ふわっ……パシィィンッ!
寸前のところで俺はキャスティが衝突する壁に空気の層を構築し、キャスティの頭が壁に激突する衝撃を緩和させた。
「うぅ……痛いにゃ……」
衝撃を緩和させたが、それでも相当のダメージをキャスティは受けていた。
……でも、キャスティを死なせずに済んだようだ。
「よ、よかった……」
俺が安堵する中、ラルクが一歩前に出る。
「おい! やはり、貴様が我が父上を殺めたというのか!?」
「……ん? まさかお前、ラビスタットの国王ブルクリッドの息子か?」
「そうだとも!」
「……はは、そうだったか。それは災難だったな。……悪いが、俺っちは殺しちゃいないぜ。殺したのは亜人族の兵士さ」
「な、なんだと!」
「……サミル、あなたのスキルでそう仕向けたのではないですか?」
サミルがラルクに白を切っていたがマイトがズバッと斬り捨てる。
「はぁ……機密情報を知っている者がいるとやり辛いねぇ。……あぁ、そうだとも。俺が操作した亜人族の兵士に殺させたのさ」
「ぐっ!! やはり……貴様がっ!!」
「待ちなさいラルク!!! 相手の力量が分からないわ。無暗に近づかないで!!」
今にも襲い掛かろうとするラルクをエレナが静止させる。
「……だがっ!!」
「……私が参りましょう」
すると、マイトも瞬時にサミルの背後に回り込みアダマンタイトダガーで一閃する。
――シュッ!
マイトがサミルの胴体を上下に分断するが、斬りこまれたサミルの体は次第に輪郭がぼやけて消滅していく。
「……なるほど、既に実体ではないのですね」
すると、大広間にサミルの声が鳴り響く。
「あーっはははっ!! 残念だったねマイト? マイトがいる時点でもう対策はさせて貰っていたよ。……そうだな、いろいろこの城には細工はさせて貰っているし、俺っちを倒したかったら最上階で待ってるからさ、せいぜい登ってきなよ。……登って来られるもんならね?」
サミルの不気味な笑い声が鳴り終わると、大広間は静まり返る。
「……う、動けなかった」
「……私もだ」
ボレサスとテキサリッドは過ぎ去った脅威に怯えきっている様子だった。
俺はそんな2人を横目にキャスティが倒れている場所へと駆け寄る。
「……大丈夫か、キャスティ」
「アモンさん、ごめんにゃ……エアリアさんに酷い事するから頭に血が上っちゃったにゃ」
俺は腰を落としてキャスティを抱きかかえる。
「……当然の感情さ。でも、キャスティも危なかったよ……今度から相手の力量が分からない時は無暗に斬りかかったりするんじゃないぞ?」
「わかったにゃ、アモンさん」
「よし、良い子だ」
俺は俯くキャスティの頭を撫でつつ、傷ついた箇所の治療を行う事にした。
治療が終わった後、キャスティは体を動かし問題ない事を確認する。
「さすがアモンさんにゃ! ありがとうにゃ!」
「うん、これで傷ついた部位は回復できたはず。後は……」
俺はマリッサ達に囲まれたエアリアに視線を向け、すぐに駆け寄る。
「エアリア、まだ話せないか?」
俺は座り込むエアリアに視線を向けると無言で頷く。
「……ねぇ、どうするのよ、アモン。これじゃエアリアは魔法を使えないわよ」
「……治療できるか試してみよう」
俺はエアリアの喉が治療できるか試したが、……損傷などはなかった。
「……傷ついていない……だと?」
すると、マイトが話し出す。
「おそらく、サミルの攻撃で精神的なダメージを与えられたのでしょう。……話せるようになるまで待つしかないですね」
エアリアは喉に手を添えて申し訳なさそうに俺達を見上げていた。
「……気にしないでくれエアリア。大丈夫さ! 話せるようになるまで俺が守るから」
俺はエアリアに微笑みかけると、不安そうにしているエアリアも笑顔を無理やり作る。
エアリアに手を貸して立たせた後、サミルがいた階段の方に視線を向ける。
「それじゃ皆……サミルの待つ最上階まで向かうぞ!」
皆の掛け声を聞きながら、俺は階段へと走り出すのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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