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72 グラインボルトに向けて

ディアマトの部屋に入った俺は、ベットの近くまで歩み寄りディアマトをベットに寝かせようとする。

だが――


「……おい」


――ディアマトは俺の服を力強く掴んだまま放そうとしなかった。

声を掛けるが寝息を立てているだけでディアマトの反応はない。


「(……どうしよう)」


起こすわけにもいかず、とは言っても手から服をはがそうとしても強く握っているため上手く剥がすことができない。


「(このままじゃ部屋に帰れないな)」


少し考えた結果、仕方ないので俺もディアマトのベットで寝る事にした。

そう決めた俺は、ディアマトのベットに入り目を瞑る。


「…………」


すぐ近くでディアマトの寝息が聞こえてくる中、当然ながら俺はなかなか寝付けないでいた。

俺は目を開け、寝息を立てているディアマトの顔を見る。


「……よく寝てるな」


確か前にディアマトが、今着ている服はドラゴンの皮膚から出来ているって言っていたな。

……そう考えると、今のディアマトは服を着ているように見えるが、実際のところは全裸と同じなのか。


「……いやいや、変な事考えていないで寝るか」


俺は顔を左右に振って雑念を振り払い、明日に備えて寝る事にした。






――コンコンッ

朝、扉のノック音で目が覚める。

天井を眺めながら返事を返そうとすると、扉の向こうからキャスティの声が聞こえる。


「ディアマトさ~ん! アンディさんが武器防具の強化が終わったから大広間に集まるようにって言ってるにゃ! 早く起きるにゃ~」


……ディアマト? ふと、俺は隣に顔を向けるとディアマトは寝そべりながらバッチリ目を開けてこちらを見つめている事に気付く。


「……っ!」

「やっと起きたようじゃの、主様」


俺は瞬時に昨夜ディアマトの部屋で寝ていた事を思い出す。


「(……起きてたなら早く起こしてくれればよかったのに!)」

「(そうじゃの……すまなかった。主様の寝顔を見ていたら起こすのが勿体なくての、ずっと見ていたかったのじゃ……)」


ディアマトが上目遣いで恥ずかしい事を呟く中、扉の方からキャスティの声が聞こえる。


「もう……まだ寝てるのにゃ? 仕方ないにゃ! 私が直接起こしてあげるにゃ!」

「(……ヤバいっ!)」


俺は急いでベットの下にあったスペースに滑り込むように隠れた。


――バァンッ!

俺が隠れると同時に扉は勢いよく開かれる。


「あ~っ! ディアマトさん! もう、起きてるなら返事するにゃ!」

「……す、すまないの」

「皆大広間で待っているからすぐ行くにゃ! あと、マイトさんがアモンさんの事探していたけど、ディアマトさんは知らないにゃ?」

「さ、さぁの……知らぬぞ?」

「そっか。それじゃ一緒にいくにゃ!」

「わ、わかったから、そう引っ張るでない!」


ベットの上にいたディアマトはキャスティによって瞬く間に部屋の外へと連れ出されていった。

……シーンと静まり返る部屋の中、俺は1人ベット下からのしのしと出る。


「……俺は一体何をしているんだか」


俺は1人空しく呟きながら、大広間へと向かった。




大広間に到着すると、俺以外の人が既に集まっていた。


「おはようございます」


俺が挨拶を言うと、マイトが尋ねてくる。


「アモン様! お部屋にいらっしゃいませんでしたので探しておりましたが……どちらにいらっしゃったのですか?」

「あ~……えっとごめん、ちょっと朝の散歩をしていたんだよ」


俺は咄嗟に思いついた事をマイトに伝える。


「……そうでしたか。何事もなくてよかったです」

「さ、アモン殿。少しお待たせしたが、無事に武器防具の強化が終わったのだ」

「そうみたいですね」


俺はエアリア達の方に近づきながら答える。


「さ、アモンさん。座ってください」

「ありがとう、エアリア」


エアリアが空いた席に誘導してくれたので俺も席に座る。

すると、アンディ王が皆を見渡してから話始める。


「これで皆が揃ったようじゃな。……では、皆の武器防具を持ってくるのだ!」


アンディ王が声を上げると、大広間の外から俺達が預けていた武器防具が乗った大きな台を押した2人のメイトが入ってくる。

机の近くまで鮮やかに装飾された大きな台を移動させると、2人のメイドはそれぞれの武器防具を持ち主に前の机に置いていく。


「ありがとう」

「いえ」


俺の防具を置いてくれたメイドにお礼を伝えると、防具に視線を送る。


「……へぇ、見た目は変わってないですが、確かに強度は上がっているようですね」


俺は防具を叩くなど試しながらアンディ王に視線を向ける。


「お気に召したようでなによりだ。見た目は変わっておらぬが、あらゆる攻撃を貫通することはないだろう。……して、もう出発するのか?」


俺は皆を見回した後、再びアンディ王に視線を戻す。


「はい。この装備品に着替えた後、すぐに向かおうと思います」

「そうか。我らが出来るのはこれぐらいじゃが……我ら三国の行く末はお主達に託す。どうか、吉報を待っておるぞ!!」

「わかりました! 少しの間ですがゆっくりできましたし、そのうえ装備品の強化までしてくださり本当にありがとうございました!」


俺はアンディ王にお礼を伝える。

すると、アンディ王の傍で控えていたホビトが一歩前に出る。


「……それでは皆様。ご用意した装備品に着替える更衣室へ案内致します。どうぞ、こちらへ」

「お願いします」


それから俺達はメイド長のホビトから更衣室へと案内される。

更衣室に到着すると男女と別れているようで、俺とマイトとラルク、それにボレサスとテキサリッドは男子用の更衣室へと入る。




俺は強化された防具に着替えた後、マイトに尋ねる。


「……マイトの装備品も見た目は変わりないね」

「はい。ラインセルの技術力には驚きですね。見た目は変わらないのに強度をこれほどまでに高められるなんて……」


マイトは着替えた執事服とアダマンタイトに刀身が変わったダガーを見て呟く。


「でも、よろしかったのですか? アモン様は防具のみ強化されたようですが、今回を気に何か武器を新しく用意されればよかったと思うのですが」

「あぁ……俺は武器の扱いが苦手なんだよ。相手を傷つけちゃうからね。その代わり、空気操作があるから大丈夫さ」


俺は胸元で握り拳を作って呟く。


「……そうでしたか、アモン様らしいですね」


俺に微笑みを浮かべるマイトを横目にラルク達にも視線を向ける。


「皆もいい感じだね」

「私の装備品は元々が強固な武装であったが、これでより強化されたのだな」


ラルクは刺突剣を眺めながら呟く。


「……でも、亜人族である私の武器防具まで強化して頂ける国王の寛大な対応に驚きました」

「アンディ様は聡明な方ですからな。……だからこそラインセルの国王なのだ」


テキサリッドは笑みを浮かべボレサスに答える。


「だね。俺も話してみて伝わってきたよ」


俺はそう言いながらマイトに視線を戻す。


「……それじゃ、行こうかマイト」

「畏まりました、アモン様」


他の皆にも顔を向ける。


「了解した、アモン殿」

「はい。アモン殿!」

「行きましょう!」


俺は頷き、更衣室を出るとエアリア達も更衣室から出てきたところだった。


「お、丁度良かったみたいだな」

「アモンさん! ふふ、そうみたいですね!」


エアリアは俺を見るとニコっと微笑む。

俺はエアリアの服に視線を向ける。


「……あ、服に空いていた穴が(ふさい)いでいるね」

「あ、はい! 強化と合わせて修復してくれたみたいです! ……ちょっともったいない気もしますが」

「もったいない?」

「……あの服の穴はマリッサさんやアモンさんが私を助けてくれた証でもありましたから」

「そっか。……でも、もう前みたいにエアリアを危険な状態にしないように俺が守るから安心してくれ!」

「……はいっ! ですが、もうあの時みたいに魔法が使えない私ではありません! 私も魔法でアモンさん達を守ってみせますからね!」

「うん! 頼りにしているよ、エアリア!」


俺はエアリアに微笑みかけながらエレナに視線を向ける。


「……それにしても、エレナの防具って(おお)っている部分が少ないからあまり強化の恩恵がないかもな」

「ふん、別にいいわ。敵の攻撃に当たらなければいいだけでしょ? 避けた後、この強化された短剣でグサッとすれば終わりよ」


エレナはアダマンタイトに刀身が変わった両手に持つ短剣をチラつかせながら話す。


「……ま、その通りなんだけど、切れ味が格段に上がっているみたいだから……ほどほどに頼むよ?」

「それは相手次第よ」


俺は苦笑を浮かべながらキャスティに視線を送る。


「……うん。キャスティも見た目は変わらないな。あと、武器の切れ味が上がっているみたいだから、その大剣の扱いには気を付けてよ?」

「任せるにゃ! この大剣とは付き合いが長いにゃ! もう私の一部にゃ!!」


キャスティは大剣を抱きしめながら話す。

俺はそんなキャスティを横目で微笑ましく眺めつつ、目を輝かせながら自身の武器防具を見るマリッサに顔を向ける。


「……マリッサの武器防具は元々がしっかりしているから大丈夫だと思うけど、今回の強化で性能があがったから安心だな」

「そうね! ウエスタンでエアリアを守る為に魔物と対峙した時も、この武器防具に助けられたもの! 今回の強化で防具がどれぐらいの強度になったのか、この剣のどんな切れ味になったのか早く試したいわ!」


マリッサは剣の鞘を握りしめながら意気込むが、マイトはそんなマリッサに注意点を伝える。


「……申し訳ありません、マリッサ様。マリッサ様が戦闘する場面はどうしても戦わなくてはいけないような状況でのみお願い致します。出来る限り私たちにお任せくださいませ」

「い~やっ! 嫌よ、マイト! 私もすぐ戦うわ!!」


全力でマイトに抵抗するマリッサに笑みが零れる。


「ははっ! マリッサは頼もしいな。もうお姫様っていうより騎士って感じだな。でも、本当に無理は禁物だよ? 危険だと感じたらすぐに俺やマイトに頼るように!」

「ふん! わかったわよ、アモン!」


俺は最後にディアマトにグラインボルトへの移動をお願いすることにした。


「それじゃ、グラインボルトまでお願いできるかな、ディアマト」

「任せるのじゃ、主様!」

「……よし! それじゃ皆、すぐにグラインボルトに向かうぞ!」

「「「「「おぉ!!」」」」」


皆は大声で返事を返し、俺達はグラインボルトへ向けてディアマトが飛び立てる街の外へと向かうのだった。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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