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66 唯一の肉親

ラルクは再び武器を構えると呪文を唱え、刺突剣に黒い(もや)をまとわせる。

そんなラルクを見て、エレナは呆れながら問いかける。


「また飛ばしてくるの? 芸がないわね」

「ふ、慌てるな。すぐに分かる」


ラルクはニヤリと笑みを浮かべると、瞬時にエレナへ肉薄し鋭い突きを繰り出す。


――キィンッ!

エレナは両手に持つ短剣で刺突剣の突きを受け止める。

だが、受け止めたエレナの短剣にラルクの刺突剣をまとっていた黒い(もや)が絡みついていく。


「……っ!」


一瞬エレナはグラつくと、刺突剣を短剣で弾きラルクと距離を取る。

そしてエレナは両手の短剣を見ながら呟く。


「なるほど……武器に負荷をかけて動きを鈍くする効果があるのね」

「その通りだ。いつまで耐えられるかなッ――!」


ラルクは休む間もなく、エレナに鋭い突きを繰り出す――が、


「……でも、一つ欠点があるわ」


――シュッ

ラルクの鋭い突きはエレナが”いた場所”を貫く。

既にエレナはラルクの攻撃をかわしており、少し距離をあけた場所で不敵な笑みを浮かべながらラルクに問いかける。


「……当たらなければ意味ないんじゃない?」


風の層をまとっているエレナにとっては造作もない動きだった。


「くっ!! 減らず口をたたくな!」


攻撃を避けられたラルクは体制を立て直し、再度鋭い突きをエレナに繰り出すがエレナは軽々と避ける。

ラルクは負けじと何度も突き攻撃を繰り返すが、エレナに当たる事は無かった。


「はぁ……はぁ……っ!」


息を切らせながらエレナを睨みつけるラルク。


「……ふふ、さっきの威勢はどうしたの?」

「はぁ……はぁ…………すばしっこいやつだな……だが、避けてばかりでは勝負はつかないぞ!」

「……ふん、私は別に勝負を付けようとしてはいないもの。……ただ、あなたを試しているだけ」

「俺を試す……? どういう意味だ!」


ラルクがエレナに問いかけると同時に、俺達がいる城壁へセバストが駆け上がってきた。


「はぁ……はぁ……ラルク様っ! もう戦いはおやめください!」


息を切らせたセバストはラルクに叫ぶ。


「セバスト……なぜ、ここに? この者達に捕まっていたのではないのか?」


ラルクがセバストに問いかけると、他の皆も城壁に到着する。

セバストは駆けあがってきたエアリア達に視線を向けながらラルクに問いかける。


「門兵の方に事情を話してこの者達と共に城内に通して貰ったのです! ……ラルク様、今戦われている方達は私を助けてくれた命の恩人なのですよ!」

「……お前達が、セバストの命の恩人……だとっ!?」


セバストの必死の問いかけにより、俺とエレナを交互に見たラルクは構えていた刺突剣をダランと下げる。


「……詳しく話してくれ、セバスト」

「はい。ラルク様が私に対してラフィーロに逃げるように命令を下した後――」


それからセバストは、俺達と出会う前からアルトエリコで出会った後、フィランドに上陸した後の事をラルクに説明をする。


「――そして、ドワーフ族の村で亜人族の方達が何者かに操られていた事実を知り、今起きようとしている戦争は何者かに仕組まれている可能性がある事がわかったのです!」

「…………なんという事だ……なら、父上の暗殺も……」

「おそらく、意図的に仕組まれたものだろうね」


俯くラルクに俺は問いかける。

ラルクは顔をあげ、俺に視線を向けて尋ねてくる。


「……そういえば、先ほどから気になっておったが……我らの精鋭魔導士達の魔法を一度にかき消しておったが、お主は何者なんだ?」

「あ……そっか。まだ名乗ってなかったな。……俺はアモンっていうんだ」

「アモン殿だな。俺はラルク・ファランザ。元々は父上が王だったが、少し前に命を落とし、今は俺がこの国の王をしている。よろしく頼む」

「あぁ、よろしく。……それで、さっきまで戦っていたのがラルクの生き別れの双子で妹のエレナだ」

「……は?」


ラルクは驚きあまり声がまともにでなかったが、そのままエレナに視線を向ける。


「……ふん、どうやらそうらしいわ。……でも、名前はエレナ・ノーランよ。こればっかりは変えられないわ」


エレナはスティングから貰った性を手放したくない様子で、少しツンとした態度で自己紹介をする。


「……そんな、そんな事が……」


ラルクは信じられないといった様子で、すぐセバストに顔を向けて確認を取る。


「セバストっ! ……ほ、本当なのか!?」

「……はい。今、目の前にいらっしゃるエレナさんはラルク様の実の妹君です」


――ガクッ

セバストの証言を聞いたラルクはその場に崩れ落ち、四つん這いになる。


「……どおりで、母上様の昔の肖像画と似ていると思ったのだ。……そんな、唯一の肉親の妹を俺は自らの手で殺めようとしていたなんて……」


ラルクは地面に涙を落としながら呟いていた。


「……ふん、安心しなさい。私はあなたに殺されるほど軟じゃないわ」

「あぁ、どんな事があってもエレナは俺が守るから安心してくれ」

「う……アモンの力がなくても大丈夫よっ! ……ほ、ほら、立ちなさいよ」


エレナはラルクに手を差し伸べる。


「……あぁ、すまない」


ラルクはエレナの手を取り、立ち上がる。

そして、俺達に深く頭を下げる。


「大変無礼な行いをしてしまい、申し訳なかった! ……この通りだ、許してほしい!」

「あ……いや、別に俺は気にしてないですよ。それに、エレナも戦いたそうにしていたので、俺はただ単に見守っていただけです」


俺に続きエレナもラルクに声を掛ける。


「そうよ。勘違いは誰にでもあるわ」


「……ありがとう、2人とも」


顔を上げたラルクに対して、エレナは微笑みを向ける。


「……ま、私はもう少し戦いたかったけどね。……それもまた今度よ」

「あぁ、またその時にお手合わせを願おう」


微笑み合う2人の笑顔はとてもよく似ており、本当に双子なんだなと身に染みてしまう。

俺はそう感じながらファランザに来た目的を思い出す。


「再開したばかりで悪いけど……ラルク、今回ファランザに来た理由は暗躍する者の対処法をそれぞれの国が持っている情報を交換をしながら話し合う為に来たんだけど、どうかな?」


ラルクは俺に視線を向け、すぐに頷く。


「あぁ、構わない。私も父上を暗殺した者に鉄槌を下したいと思っていたところだ! 大人数が話し合える大広間がある。セバスト、皆を案内してもらえるか?」

「畏まりました、ラルク様!」


セバストはひと段落ついた状況に心底安堵した表情で答える。


「それではアモンさんにエレナさん。それに皆さんも私に付いてきてくださいね」


俺も含め全員が頷き、俺達はセバストに付き従って大広間まで向かうのだった。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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