61 エルフの隠里
それから俺達はセバストに森の深部に案内してもらい、大きな滝が見える場所まで案内された。
「うわぁ……大きい滝ですね」
「はい。ここがエルフの隠里の入り口となります」
セバストは滝を見ながら呟く。
「入り口? この滝が、ですか?」
「はい。少々お待ちくださいね」
セバストはそう言うと、滝に向かい呪文を唱える。
すると、大きな滝は徐々に流れが少なくなっていき、奥に繋がる洞窟が滝の奥に確認できた。
「なるほど、この洞窟の先に隠里があるんですね」
「仰る通りです」
滝の流れが完全に流れが止まった後、俺達が立っている地面まで通路も伸びてきた。
「……それでは進みましょう」
「わかった」
俺達はセバストに言われるがまま伸びてきた通路を慎重にわたり、洞窟内へと入っていく。
振り返ると先ほど伸びた通路は元に戻り、滝もまた流れ始めていた。
「……あの、出る時はどうすればいいんですか?」
「出る時も同じ方法で出る必要があります。私が付いておりますのでご安心ください。さ、こちらです」
「なるほど、わかりました」
返答をした俺はセバストに付いていき、少し進むとすぐに出口にたどり着いた。
そこには山岳の壁に囲われた緑あふれる景色が広がっており、洞窟の出口周辺には木材と大きな葉で出来た住宅が至る所に建設されており、多くのエルフの姿が確認できる集落となっていた。
「……すごい、エルフがいっぱいですね」
「はい。ここに住んでいるエルフは私の様にフィランドから出た者が安全を求めて住み着いている者が大半を占めています。中には冒険者をする勇気ある方もいらっしゃいますが、大抵はここに暮らす者がほとんどです」
俺は勇者一行にいたクロエさんやマイトの組織にいたエルフなどを思い返していた。
セバストと会話をしていると、里のエルフの人たちが俺達の存在に気付き始める。
「ここで立ち話もなんですので、話が出来る場所に移動しましょう。……こちらです」
それからセバストは俺達を奥にある大きな屋敷へと案内してもらう。
「この建物だけ他の家とは違ってしっかりとした作りなんですね」
「はい。この屋敷は里の長の住宅となります。ラルク様がもう話を付けておりますので、この屋敷は自由に使う事ができるのです。さ、中に入りましょう」
それから屋敷の中に入った後、縦長のテーブルがある大きな部屋へと案内される。
「さ、お好きな椅子にお座りください」
俺達は思い思いの椅子に腰を下ろす。
セバストも席に座り、俺は早速本題に入る事にした。
「さて、と……。それじゃ本題の戦争を止める方法だけど……セバスト。ラビスタットの宣戦布告はもう防ぐ事はできないのかな?」
「ラルク様は相当お怒りの様子でしたので、止めるのは難しいでしょう……」
俯くセバストにエレナが尋ねる。
「確か、ドワーフの国・ラインセルにも応援要請を出すって話していたじゃない? 私の知り合いにもドワーフの人はいるけど、どんな国なのかしら?」
「はいシンディ様――あ、申し訳ありません! ……えっと、エレナさん」
セバストはまたエレナの事をシンディという人と間違えていた。
俺は少し気になったので尋ねてみた。
「……ちょっと確認なんだけど。そのシンディっていう人は誰なの?」
セバストは申し訳なさそうに話始める。
「はい。助けて頂いた時にもお伝えしましたが、シンディ様は私が以前に仕えておりました王妃様です。十数年前、とある事情でラビスタットから抜け出してからしばらくして亡くなったと聞いております。……つまり、今回グラインボルトに暗殺されたブルクリッド様の奥様でラルク様のお母様に当たる方です」
俺はシンディという方が想像以上に偉い方で驚いてしまう。
「そ、そうなんですか。でも、王妃様が何故ラビスタットから抜け出すような事が起きたんですか?」
「それは……ラビスタットの悪しき文化なのですが、王家に生まれる子供は権力争いを防ぐ為に1人と決められております。ですが、今回子供を授かった時、双子を授かってしまったのです。……そして、生まれた子供は男の子と女の子。王位継承する者を男の子と決めた大人たちは、生まれた女の子を生贄と称して殺めようとしたのです。……ですが、シンディ様はそれを防ぐ為に国外に逃亡したのです」
部屋内がシーンと静まり返る中、俺はエレナを旅に送り出したスティングの事を思い出していた。
すると、マリッサがエレナに尋ねる。
「エレナ……もしかしてあなた、その双子の女の子なんじゃないの?」
「……えっ!? ……でもそんな事って……ボスからは何も……」
混乱しているエレナに俺はスティングから聞いた事を伝える。
「……以前、エレナの育ての親であるスティングが教えてくれたんだ。エレナが幼い頃、とある女性からエレナを託されたってな」
「確かにスティングさんはそんな事を仰っていましたね。もしかして、その女性の方がシンディさんだったのでしょうか?」
エアリアも覚えていたようで、俺に尋ねてくる。
「わからない。……でも、セバストの話を聞く限り、シンディって人とエレナは似ているのならその可能性が高いかもしれないな」
「ボスがそんな事を……」
エレナはそう呟きながら懐からスティングと別れる際に渡された黄金色の星を象った髪飾りを取り出す。
その髪飾りを見たセバストは驚きの声を上げる。
「……っ! その髪飾りはシンディ様がお付けになられていたものと同じ物です! エレナさん、それをどこで?」
「え、私が旅立つ前にボスから渡された物だけど?」
「……少し、拝見させてもらってもいいですか?」
セバストはエレナから髪飾りを受け取り、入念に確認する。
「……間違いありません。シンディ様が日ごろからお付けしていた髪飾りと同じ物です」
「それってつまり……エレナはラビスタットの現王ラルクと双子って事になるのか?」
セバストは髪飾りをエレナに返しながら答える。
「……信じられませんが、おそらく仰る通りだと思います」
エレナも含めて、俺達は驚きを隠せなかった。
「エレナさんがお……お……お姫様だったのかにゃ!?」
特にキャスティは驚きのあまり噛みまくっていた。
「へぇ! あなたも私と同じ王国の娘だったなんて、驚きだわ!」
「そうじゃな……じゃが何もそんなに驚く事ではないじゃろう。エレナはエレナじゃ」
マリッサはどこか自慢げにしており、ディアマトは冷静に反応していた。
「……ディアマトの言う通りだ。例えエレナがお姫様だったからと言って、何も変わらないし、俺達がすることも変わらない」
「そうですね! 少し驚いてしまいましたが、エレナさんはエレナさんです! 戦争を止めるという目的が変わる事じゃないですから」
「……ふふ、ありがとう皆」
エレナはほほ笑みながら答えた後、セバストに視線を向ける。
「……事情は分かったわセバスト。それで少し話が脱線しちゃったけど、ドワーフの国はどういった事をしている国なの?」
「あ、はい、エレナ様!」
セバストはどこか畏まった呼び方をする。
「ふふ、さっきまでと同じ呼び方でいいわよ」
「……そ、そうですか。ならエレナさんで……えっと、ドラーフの国は建設業に長けている国で身体を強化する強力な武器防具を作ったり攻撃兵器を作るのに秀でる国となります」
「……なるほど、戦闘になった時に武器防具や兵器などがあれば優位に戦闘を続けることができるものね」
「はい。ですので、おそらくグラインボルトも同様にラインセルに協力要請を出す可能性は高いのです」
俺はセバストの話を聞いて今後の行動指針を皆に伝える。
「そうなると、ラインセルの動向も気になるところだね。確認するにも実際にフィランドに向かわない事にはわからないし、アルトエリコの船は使えない。そうなると移動手段としては……」
俺は自然とディアマトに視線が向かってしまう。
「お、主様! 我の出番じゃな!」
ディアマトは待ってましたと言わんばかりに俺に問いかけてくる。
「……申し訳ないけど、フィランドまで乗せていって貰えるかな?」
「ふふ、任せるんじゃ!」
ディアマトは二つ返事で快諾してくれた。
「……あの、先ほどもおっしゃっておりましたが……ディアマトさんはドラゴンなのですよね?」
恐る恐る尋ねてくるセバストに俺は答える。
「はい。今は子供の容姿ですが、ドラゴンに変化することができるんです」
俺がセバストに返答すると、エレナは席から立ち上がる。
「それじゃ、善は急げね! アモン、すぐに向かいましょう!」
エレナはラビスタットが自分の生まれ故郷と分かって張り切っている様子だ。
「うん! それじゃ皆。すぐにフィランドに向かおうか!」
俺の号令に皆が頷く。
「セバスト、この隠里にディアマトが飛び立てる広い場所ってありますか?」
「はい! 付いてきてください!」
俺達はそれから屋敷を出た後、少し集落から離れた広い草原地帯へと移動する。
「ここらへんで問題ないでしょうか?」
俺は辺りを見渡し、問題ない事を確認する。
「問題なさそうだね。……ディアマト、お願いできる?」
「わかったのじゃ!」
ディアマトはそう答えると、体が光り始め見る見るサイズが大きくなっていき、ドラゴンの姿に変わっていく。
「……ほ、本当にドラゴンなんですね」
その光景を見ていたセバストは一人で小さく呟いていた。
ディアマトの体から光が収まり、ドラゴンの姿に完全に切り替わる。
「お待たせしたのじゃ。乗ってくれるかの」
ディアマトは手を俺達の傍に差し伸べてくる。
「さ、セバスト。乗ってください」
「わ、わかりました」
セバストはディアマトの大きな手に恐る恐る乗り込む。
「それじゃ、俺達も乗り込もう!」
皆も手に乗り込んだ後、ディアマトは背中に手を移動させ、俺達はディアマトの肩に乗り込む。
「後は俺が皆が落ちないように守っておくので安心してください。ディアマト、準備ができだぞ!」
「分かったのじゃ、主様。……少し揺れるから注意するのじゃ!」
ディアマトはそう言うと大きな翼を羽ばたかせ初め、徐々に宙に浮き始める。
「……う、浮いてます!」
「ん~! やっぱりすごい景色だわ!」
セバストとマリッサは興奮気味で呟いていた。
「ははっ! それじゃセバスト、ラビスタットまで案内お願いできますか?」
「わかりました!」
セバストが返答し終えた時には、エルフの隠里を囲っていた山岳の壁より高い高度にディアマトの体は上昇していた。
「それじゃ、主様。フィランドに向かうのじゃ! しっかり捕まっておるのじゃぞ!」
「あぁ! 頼んだぞ。ディアマト!」
それから俺達はディアマトに乗ってフィランドに向かうのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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