60 セバストの知識
セバストを馬車の御者席に乗せてアルトエリコを出たのはいいものの、肝心のエルフの隠里の場所が分からず俺は隣のセバストに尋ねる。
「……えっと、エルフの隠里ってどこにあるんだっけ?」
「はい、少し先にある森の中に私たちの里があります」
「確か……アルトエリコに着く前に通ってきた森があったな……了解! キャスティ、いつもの頼む!」
「わかったにゃ!」
馬に風の層をまとい終わった後、不思議そうに眺めていたセバストが俺に尋ねてくる。
「……あの、今何をしたのですか?」
「え? ……あぁ、キャスティは無詠唱で魔法を使えるんだよ。それでこの馬に風魔法で風の層をまとわせて貰ったんだ」
「なんと! 便利なスキルをお持ちな方もいらっしゃるんですね!」
セバストはキャスティを振り返りながら呟く。
「ふふん! でも、私が得意なのは近接戦闘で、魔法はあくまで攻撃補助程度にゃ!」
キャスティは得意げにセバストに話す。
「頼もしいですね。それと……風の層をまとわせているのは?」
「これは風魔法で空気抵抗を無くすことで、移動速度を格段に上げる事ができるんだ」
「……なるほど、風魔法の応用技でしたか」
「うん。だから少し速度が出るから、しっかりと捕まっていてくださいね!」
「わかりました」
俺は馬に繋がった手綱を勢いよく引き、馬車を森の方へと進めさせた。
しばらく進んでいると、俺達は空を飛ぶ魔物と四足歩行の狂暴な魔物の集団に出くわしてしまう。
「「ピシャァァァァっ!」」
上空を舞う魔物、四足歩行の魔物のいずれも俺達を威嚇してくる。
「アモンさん、囲まれてしまいましたよ!?」
セバストが慌てながら尋ねてくるが、俺は平常心で答える。
「だね。……これじゃ通れそうもないな」
俺が対処しようとすると、エレナが声を掛けてくる。
「アモン。空を飛ぶ魔物だったら、私に任せて頂戴」
「お、エレナ。頼めるか?」
「えぇ」
エレナは小さく呟くと馬車から飛び出て歩きながら呪文を唱え始める。
瞬く間にエレナの周りに黒い魔法陣が展開し――
『グラビティダウン』
――ドスン!
魔法名を唱えると、空に飛ぶ魔物は地面に勢いよく叩きつけられ、四足歩行の魔物も同様に地面に頭を勢いよく打ち付けられていた。
「……それじゃ、動けないようにさせてもらうわよッ!」
――バシュッ! ズシャッ! グシャッ!
その後、すぐにエレナは短剣を取り出し飛行していた魔物は羽を、四足歩行の魔物には足に深手を負わせて戻ってくる。
「……さ、殺さない程度に痛めつけてきたわ。先を行きましょう、アモン」
先ほどの魔物達は行動不能状態でその場で息を潜めていた。
「さすがエレナ、対処が早いな。さっきの確か……ドルフが使っていた技だよな」
「そうよ。飛行している敵に有効な闇魔法なのよ」
すると、隣の御者席に座っていたセバストが驚きながらエレナに尋ねる。
「エレナさんは闇魔法をお使いになるんですね! エルフで闇属性の耐性持ちなんてめずらしいですね」
「え? えぇ、そうみたいね」
「……ただ、ご存じだとは思いますが、エルフ族で闇魔法を多用すると、ダークエルフに堕ちてしまう可能性があるのでご注意くださいね」
セバストが全く初耳の情報を呟き、俺は思わず聞き返す。
「……ちょっとまってくれ。……ダークエルフ? エレナ、ドルフはそんな事言っていたか?」
エレナは顔を左右に振る。
「いいえ、私も初めて聞いたわ。……セバスト、どういう事なの?」
「おや、ご存じでなかったのですか? ……ラビスタットでは周知されている情報でしたが、ラフィーロでは広まっていなかったようですね」
俺はエレナと顔を見合わせ、エアリアにも視線を向けるが顔を左右に振る。
「……そうみたいだね。それで、ダークエルフになるとどうなるんだ?」
「ダークエルフになると、狂暴化してしまい理性が効かなくなってしまうんです。それで罪を犯してしまったり他者を殺めてしまったりと事件に発展しやすいのです」
「そうだったのか……。一度ダークエルフになってしまうと元に戻る事は出来るの?」
「いえ、一度ダークエルフに堕ちてしまった者は戻る事はできません」
「なるほど……。だとするとエレナ、闇魔法を多用するのも考え物だね」
「…………そうね。気を付けるわ」
エレナは思い当たる点があるのか、少し考えてから返答を返す。
「それじゃ先に進むからエレナは荷台に戻ってくれ」
「わかったわ」
それからエレナは荷台に戻り、俺達は森へと馬車を進めさせた。
しばらく進むと森が見えてくる。
「そろそろ森に入るけど……確か、あの森の中って人が住んでそうな所って見当たらなかった気がするんだけど……」
「すぐに見つかる場所に里を構えていたら隠里ではありませんからね。入るには少し手順が必要なのです」
「……そうだったんだね。隠里ってだけに簡単には見つからないって訳だ」
「仰る通りです。森に入った後、私が隠れ里の入り口まで案内致しましょう」
「わかったよ。それじゃ急いで森に向かおうか」
それから程なくして俺達は森に到着し、来る時にきた小道を馬車で突き進んでいく。
「……そういえば、来る時にも気になっていたんだけど、この森って魔物と全然遭遇しないんだよね」
「それは隠里のエルフ達が結界を張っているからだと思います」
「結界だって?」
俺は離島に張られていた結界を連想してしまう。
「……結界っていっても、俺達がこの森を通る時は特に何も感じてなかったんだけど?」
「それはアモンさん達が無害な存在だという証拠です。張られている結界は、悪意を持ったものにしか働かないのです。その為、悪意のない者には全く効果がありません」
「へぇ……すごい高レベルな結界を張っているんですね。エルフって結界を張る知識が豊富なんですか?」
「はい。アモンさん達の目的地でもある、あの離島に張られている結界も中和する術を持っていますからね」
「……すごいですね。俺も前にあの離島の結界を中和して中に入ろうとしたんですけど、結界の中から黒龍の攻撃を防ぎきれずに撤退したんです」
俺の発言にセバストは驚きの表情を浮かべる。
「……えっ!? どこから結界に接近したのですか? ……それに、あの結界を1人で中和したと言うのですか?」
セバストは軽く混乱していたので、簡潔に説明することにした。
「えっと、荷台にいるディアマトは元々はドラゴンで空から離島に向かおうとしていたんだよ」
「ふむ、我の事じゃな」
荷台にいるディアマトはニヤリと笑う。
「……えっ!? 貴方はドラゴンなのですか!?」
セバストはディアマトに視線を向けて驚いていた。
「そうじゃ! でも安心せい、何も危害は加えないからの」
「……なるほど、角を生やしていたのはドラゴンだったからなのですね」
セバストが理解した事を確認した後、俺は話を続ける。
「……それでディアマトによって結界まで移動した後、そこで俺の空気操作っていうスキルで結界のマナを分解し、中和することが出来たんだ。……でも、その後の黒龍の攻撃を防ぐ事が出来なかったんだ」
「ふむふむ……少し空気操作の詳細を教えて頂けますか?」
「わかったよ。俺のスキルは――」
それから俺はセバストに空気を使って応用が出来る事、マナを構築・分解できる事など俺の扱えるスキルを一通り説明した。
「――って感じでいろいろ応用が出来てとても便利なんだ」
「素敵なスキルをお持ちのようですね。でも、離島からの攻撃は防ぐ事ができなかったのですか?」
「うん。俺の空気の壁を貫通してきたんだよ」
「……貫通、ですか?」
「そう。ディアマトと同じドラゴン種の黒龍による攻撃らしいんだけど、闇属性のマナをまとった攻撃だったのか、空気の壁を貫通してきたんだよ」
「……なるほど、相手の攻撃には闇属性のマナがまとっていたのですね。……それならおそらく対処法としは、アモンさんが使われる空気の壁にマナをまとわせることで貫通を防ぐ事が出来ると思いますよ」
セバストはあっさりと対処法を提示してきた。
「……え! マナをまとわせることで防ぐ事ができるのか?」
「あくまで可能性の話です。マナ同士をぶつけると相殺する作用があります。おそらく、相手の攻撃にまとっていた闇属性のマナがアモンさんの空気の壁を相殺してしまったのでしょう。それを防ぐ為に、空気の壁にもう一つのマナの層をまとわせることで、空気の壁の消失を防ぐのです」
「……なるほど、わかった! ……あ、でも相殺するのなら、相手の貫通してきた攻撃を受けてディアマトとエアリアが闇属性の呪いにかかってしまったんだけど……その理由は分かる?」
「はい。相殺すると言っても完全に両方が消えてなくなる。というモノではなく、相手の闇属性のマナ量が多かったのでしょう。相手はアモンさんの空気の壁を消滅しても残る程の膨大な闇属性のマナをまとわせていた可能性が高いでしょう」
俺は博識なセバストに心底関心をしながら返答する。
「なるほどなるほど……わかったよっ! それなら次からは空気の壁には出来る限り大量のマナをまとわせて展開するようにしてみるよ。教えてくれてありがとう、セバスト!」」
俺は精一杯の感謝をセバストに伝える。
「いえいえ、助けて貰ったのは私の方ですから。これぐらいお安い御用ですよ」
笑顔を浮かべていたセバストが、ふと何かに気付く。
「……あ、すみません。ここで馬車を止めて頂けますか?」
「わ、わかった!」
俺はすぐに手綱で馬を停止させる。
「よしっと……セバスト、どうかしたのか?」
「私たちの隠里はもう少しの場所にあるのですが、馬車が通れるだけの道が無いため、この先は歩いて向かいます」
「わかった。それじゃ馬車は一旦ここに置いておこう」
俺は皆に馬車から降りてもらい、すぐに馬車を近くにある大きな木の隅に固定する。
「ここから歩いてむかうのね……」
馬車から降りたマリッサがボソッと呟く。
「マリッサ様、もう少しで着きますので辛抱してください」
「わかったわよ! それじゃセバスト、案内お願いね!」
マリッサは腰に手を当てながらセバストに問いかける。
「はい。それでは隠里はこちらです。付いてきてください」
俺達はセバストに案内されるまま森の中へと入っていくのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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