59 グラインボルトの刺客
俺達はすぐさまマイトが守るエルフの女性に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
腰を抜かしていたエルフの女性は俺を見上げて問いかけてくる。
「……あ、あなた達は一体……?」
「俺達は冒険者です。追われていたようだったので助太刀させて頂きました」
俺はマイトに視線を向ける。
すると、マイトは亜人族に何かを尋ねていた。
「……もう一度尋ねます。あなた方は何故、この方を追いかけていたのでしょうか?」
「フン、何度聞かれようとお前に言う筋合いはない! そこのエルフの女をこちらに引き渡せ!」
マイトの問いかけに豚型の亜人族が鼻息高く答える。
「……そうですか。それなら――」
小さく呟いたマイトは瞬時にもう片方の牛型の亜人族の背後に移動し、背後から首元に強打を放ち込み気絶させる。
続けざまに鼻息高く答えた豚型の亜人族の背後に移動しシルバーダガーを首元に食い込ませる。
「――これで、答える気になりましたでしょうか?」
首に食い込んだシルバーダガーは多少肉に食い込んでおり血が滴り落ちていた。
豚型の亜人族もマイトに一瞬に圧倒された状況を理解した後、首に走る痛みで怯え始める。
「……ブヒィっ!? ……わ、わかった! 答える……答えるから殺さないでくれ!」
俺はゆっくり豚型の亜人族に近づき尋ねる。
「……それで、何でこのエルフの女性を追いかけていたんだ?」
「……う……」
マイトがシルバーダガーを更に首へ食い込ませる。
「い、言うよ! ボスから依頼されたんだ! ラビスタットから逃亡する者がいるから追って始末しろと!」
「……ボス? ……って誰だ?」
「我が国、グラインボルトを統べる、ビーストキング・ムファザ様だ。もう賽は投げられた、後戻りはできない!」
賽……? 何を言っているかよくわからなかった。
「……つまり、お前たちはグラインボルトの刺客って事か」
「そうだよ! そいつを殺さないと俺達が殺されてしまう!」
俺は少し考えた後、提案する。
「だったら、もうグラインボルトに戻らなかったらいいんじゃないのか?」
「……え? いったい何を……」
俺はキャスティに視線を向けながら話す。
「俺の仲間にも亜人族はいるが、グラインボルトから抜け出してしっかりと生活をしているんだ。何もグラインボルトに固執する必要はないんじゃないのか?」
「……だが! このラフィーロの亜人族に対しての風当たりは酷いものなんだぞ!」
それは以前、亜人族をキメラにしていたジュラルドの言動からもラフィーロ大陸内での亜人族の扱いについては察していたし、キャスティも元々奴隷だった。
相手の言葉は少し考えさせられるものだったが――
「――だったら、関わり合いにならなければいい。金ならこれを使え」
――ジャラッ!
俺は持っている金貨を入れていた袋をマイトが拘束している亜人族の足元に投げる。
「……っ!」
――スッ
マイトは亜人族を解放すると、亜人族はすぐさま足元にある袋を開けて中を確認する。
「……なんだよこれ……金貨70枚はあるじゃねぇか……これ、くれるのか!?」
「その金を持ってどこか遠くに行くと良い」
すると、豚型の亜人族は正気が戻ったような表情になる。
「……わかった! そのエルフから手を引く。そして俺達はこの金でグラインボルトには戻らず、このラフィーロで生活をしていくとするさ」
「好きにすればいい」
「……すまねぇ!」
豚型の亜人族は先ほどマイトに気絶させられたもう片方の亜人族を背負い、街の中に消えていった。
亜人族が見えなくなった後、振り返りエルフに視線を向ける。
「……さて、と。……もうこれで大丈夫だろう」
「……あ、ありがとうございます! でも、あんな大金、よかったのですか?」
エルフ族の女性は俺達のやり取りを見て圧倒されていた。
「ん? あぁ、気にしないでください。ギルドに行けばまたお金は引き出せるので」
以前、ディアマトの討伐クエストの報酬で5000金貨を手に入れているので、金銭面の問題はしばらく考えなくてもいい状態なのだ。
「ほら、立ちなさいよ」
エレナが尻もちをついているエルフに手を差し伸べる。
「あぁ……ありが――」
座っているエルフ族の女性がエレナを見た途端に叫ぶ。
「――シンディ様!? 何故、ここに……いや、生きておられたのですか!?」
「……シンディ? 誰よそれ。私はエレナよ」
エレナは困惑した表情を浮かべ答える。
相手もエレナをよく確認すると、人違いだと気付き謝罪する。
「……も、申し訳ありません! 昔にお仕えしていた方と面影が似ておりましたので……勘違いをしておりました」
「そう。まぁいいわ。ほら、立ちなさいよ」
エレナの手に捕まり立ち上がるエルフの女性。
エルフは立ち上がりながらも、エレナをめちゃくちゃ観察していた。
「……でも、とてもよく似ていらっしゃる。本当にシンディ様ではないのですね?」
「もう、だから私はエレナ・ノーランよ。この人たちと冒険をしているの」
視線を向けられた俺は立ち上がったエルフに尋ねる。
「はい。エレナは俺達の仲間で俺はアモンって言います。あなたは?」
「……あっ! 申し遅れました。私はセバスト・ビスケルと申します。ラビスタットの国王の側近を務めておりました」
ものすごい場所に務めていた女性だった。
「王国の側近!? ……でも、そんな方が何でこのアルトエリコに?」
「……それが、とても深刻な状態でして……ラビスタットがグラインボルトに宣戦布告を行おうとしているのです」
「……宣戦布告!? まってくれ、一体何があったんだ!?」
セバストは俯きながら答える。
「……先日、ラビスタットの国王だったブルクリッド様がグラインボルトに平和条約を結ぶ為に遠征していたのですが……悲しい事にグラインボルトの暗部によって暗殺されたのです」
「何だって!」
全く穏やかじゃない状況に驚き、思わず叫んでいた。
「その知らせを聞いたブルクリッド様のご子息様であるラルク様が激怒し、王権を引き継ぎ国をあげて宣戦布告を行おうと画策し、ドワーフ族の国・ラインセルに応援要請も出しているところです。そして、側近である私だけでも国外にあるエルフの隠里に逃げるようにラルク様から命令を下されたのです」
話を聞いていた皆が言葉を失っており、第一声に俺が声を上げる。
「……そうだったんですね。……でも、俺達は離島に向かう為にフィランドの三ヶ国の協力が必要なんです。戦争をしている状態なら協力をお願いすることもできないでしょうし、俺がなんとかしてその戦争を止めたいと思います」
「……な!? そのような事ができるのですか!?」
「具体的な方法はわかりませんが、何とかなると思います」
俺の話を聞いたエレナがふぅ、と体にたまった空気を吐き出しながら話始める。
「……アモンは相変わらずね。……状況はわかったわセバスト。それで、これからあなたはどうするの?」
エレナはセバストに問いかける。
セバストは俯きながら話始める。
「……私はひとまず、ラルク様からの命令にもある通り、エルフの隠里に向かおうと思います」
「あ……それだったら、そこまで俺達が護衛しますよ。いろいろ情報も聞きたいですし」
「え……いいんですか?」
「うん。皆もいいかな?」
皆頷き返し、特に異論もないようだった。
「よし! それじゃ馬車に乗ってください。エルフの隠里まで道案内をお願いできますか?」
「わ、分かりました!」
それから俺達はセバストを馬車に乗せてエルフの隠里に案内してもらうのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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