57 出発前夜
それから街の宴を存分に楽しんだ後、俺は少し人通りの少ない場所に移動し腰を下ろせる台に座り休憩をしていた。
「……ここにいたのね。アモン」
すると、飲み物を持ったエレナが姿を現した。
「エレナか。ちょっと人に酔ってしまってな。休憩中なんだ」
「そう……隣いいかしら」
「あぁ」
エレナは俺の隣に座り込み、盛り上がっている集団を眺めながら呟く。
「……この街にきた時とは大違いね」
「全くだな。……皆、とても楽しそうだ。これが本来のこの街の人たちなんだろうな」
「本当ね。こういう騒がしい方が私は好きよ」
「……へぇ、意外だな。俺はてっきりエレナは騒がしいとイライラするものだと思っていたよ」
「そう見える? ……この旅だって元々はアモンとエアリアと私の3人だったじゃない? それからいろいろあって今は倍以上の7人で旅をしてる訳だけど、旅の仲間が増えていくっていうのも嫌いじゃないのよね」
「そう思って貰えると誘った俺としても嬉しいよ。それにしても……元々はアイネを助ける為に始めた旅だけど、無事なのが確認出来てホッとしたのも束の間、気づいたらマリッサを助ける旅をしているからな……我ながら不思議だよ」
「ふふ、アモンは優しすぎるのよ。目の前の人を全員助けようとしすぎ。……ま、それがいいところなんだけど」
「あはは……」
俺は頭をポリポリとかきながら乾いた笑い声を出す。
「そうだ、エアリアで思い出したんだけど……私、魔物に囲まれた血まみれのエアリアを見た途端、目の前が真っ赤になったのよね」
「……真っ赤に?」
エレナは神妙は表情をしながら答える。
「そう。単純にエアリアを傷つけた魔物に怒りは感じていたんだけど、箍が外れたみたいに感情があふれ出したの」
「なるほどね。だからめちゃくちゃ怖い顔してたんだ」
「……あら、そう見えたかしら?」
「まぁね」
「自分でも分からないぐらい表情に怒りが染み出していたんでしょうね。……その後、マリッサの魔法が放つ光に気付いたら視界も元に戻ったのよね。……なんだったのかしら?」
「エアリアが重症でいつも以上に感情が高ぶったんじゃないかな。俺はその時は冷静を保ててはいたけど、その後エアリアの元に駆けつけて息をしていない事に気付いた時は、さすがに焦ったよ」
「……たしか、マリッサの魔法で息を吹き返したのよね」
「うん。その結果、俺のスキルで治療することができるようになったんだ」
エレナは遠くにいるエアリアと一緒にいるジョッキに入った飲み物を盛大に飲んでいるマリッサをほほ笑みながら見つめる。
「……あの子がいなかったら、エアリアは助からなかったのよね。……本当によかったわ」
「そうだな。……だからこそ、何があってもマリッサを痣の苦しみから解放してあげようってより一層思えたんだ」
「そうね。その為にも、今日はゆっくり――」
エレナが言いかける中、でろんでろんのキャスティとディアマトが俺達を見つける。
「――あ! アモンさ~ん……ここにいたにゃ~!」
「……なんじゃとっ! あるじさま~!」
すると、ディアマトは駆け出してきて俺に勢いよく抱き着いてくる。
「わっ! っと……ディアマト!?」
ディアマトは顔を上げると顔を真っ赤に染め、呂律が回らない口調で答える。
「あるじさま~……暖かいのじゃ」
ディアマトは俺の胸に顔を埋めて呟く。
「あぁ~っ!! ディアマトさんだけずるいにゃ~!」
キャスティもそう言いながら俺に抱き着いてくる。
「……おいおい、どうした」
「ふふ、相当お酒を飲んでいるようね」
「あぁ……あのあまり美味しくないやつか。2人とも? 抱き着かれると動けないんだが……」
「いやじゃ~っ! ここから動きと~ない!」
「そうにゃ~っ! アモンさん……暖かいにゃ~」
2人は聞く耳をもっていないようだったので、俺は諦める事にした。
すると、マイトに手を引かれるマリッサとそれに付き添うエアリアも俺が休憩している場所へ歩いてくる。
「アモン様、ここで休まれていましたか」
「うん。マイトは?」
「私は、飲みすぎのマリッサ様を退避させにきました」
「私はもっと飲めるわ……この手を、放しなさい……マイト~」
「そうはいきません。マリッサ様」
マリッサはふらふらしながらマイトに抵抗していた。
「あはは……マリッサさん、沢山お飲みになるものでもう出来上がっちゃってます。……魔法で解毒できますが、無粋ですのでそのままにしています」
「そっか。キャスティ達もこんな感じだし、一足早く俺達は宿屋に戻るとするか」
「その方がいいですね、アモン様」
「嫌~! 私は……もっと飲むの~」
「はいはい、マリッサさん、行きましょうね~」
エアリアもマリッサの扱いに慣れているようで、マイトと共に宿屋の方へ歩き出す。
「ほら、2人とも宿屋に戻るぞ?」
「……ん。わかったのじゃ……」
「わかったにゃ~……」
俺は2人が自立して宿屋に向けて歩き出したのを確認した後、先ほどまで座っていた場所を振り返る。
「……ほら! エレナも早く来いよ」
「……えぇ」
微笑んで見守っていたエレナはスッと立ち上がり、俺達の方へ歩みだす。
宴を存分に楽しんだ俺達は、みんな揃って宿屋に戻るのだった。
宿屋に戻る道中で寝てしまったマリッサをマイトが、キャスティをエレナが、ディアマトは俺がそれぞれ背負いながら宿屋に到着する。
寝ている者をベットに寝かしつけた後、残った者を俺の部屋に集め明日の計画を立てる事になった。
「さて、研究員のおじいさんが言っていた話によると、次の目的地は港町のアルトエリコだね。おおよその場所も教えてくれているから、明日の朝から向かおうと思っているけど、問題ないかな?」
「はい! ……雪が見れなくなるはちょっと寂しく感じますが」
エアリアは苦笑しながら返答する。
「私も異論は題ありません。……ただアモン様、ご老体の研究員の方がおっしゃっていたフィランドでの争いが気になりますね」
マイトの話を聞いてエレナが話す。
「そうね。メルトリアの情報屋の話によると、エルフの国ラビスタットと亜人族の国グラインボルト、あとドワーフの国ラインセルの三国の協力がないと離島には入れないみたいだし……争っているのなら、なかなかそれも難しいんじゃないかしら。まず国同士の仲をどうにかしないといけないわね」
マイトは顎に手を添えてエレナの話を聞きた後、続いて呟く。
「……ですが、国同士の争いを私達だけでまとめ上げるのは難しいのではないでしょうか。……どこかで必ず激しい武力行使による戦争状態となり、多くの血が流れる可能性も高いでしょう」
「戦争か……そうなる前にどうにかしたいな。その為にも、俺達の出来る最善の行動をしていこう。……よし、それならより一層早くフィランドに向かって現地の状況を確認した方がいいな。今日はもう体を休めて明日に備えようか!」
皆が頷くのを確認する。
「それじゃ、私たちも寝ましょう、エアリア」
「そうですね。エレナさん! おやすみなさい、アモンさん。マイトさん」
「おやすみ、アモン。マイトも」
俺は2人に返事を返す。
「あぁ、お休み2人とも」
「お休みなさいませ、エアリア様、エレナ様」
マイトが丁寧にお辞儀をすると2人は部屋から退出する。
2人を見送った後、マイトに視線を向ける。
「それじゃ、俺達も寝る準備を始めるか」
「畏まりました」
マイトと短いやり取りをした後、俺達は寝る準備を行い明日に備えて寝るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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