55 マリッサの痣について
マリッサは皆から注目を浴びて逆に睨んでくる。
「なによ! そんなに見ないでよね! ……エアリア、私がどう関係しているっていうのよ」
マリッサはエアリアに尋ねる。
「はい。私には魔力探知というマナを視認できるスキルがあります。旅が始まってからマリッサさんの痣から少しずつマナが漏れ始め、体に充填されていくのを感じていたんです」
「……なるほど、それでマリッサは魔法を使えるようになっていたんだね」
「そのようです。ただ……馬車で見た時のマナ量より今のマリッサさんのマナ量の方が格段に増えています。……これはおそらく上位魔法を使ったことにより、枯渇したマナをマリッサさんの痣から補充しているからだと思います」
俺は少し混乱しそうだったので、質問をする。
「えっと、マナって補充できるものだっけ?」
「あ、いえ。本来であれば個体別にマナの最大量は決まっています。そのマナを使い果たしてしまうと、疲れてしまい動くことが出来なくなってしまうんです。そして、時間をかけて元のマナ量に戻すのが本来の流れです。……ですが、マリッサさんにはその上限というものがなく、痣から無尽蔵にマナが補充されていくのです」
「それって……あの魔法を使う時に放たれる神々しい光に関係しているのか?」
「はい。おそらくマナ量が膨大にある事により魔法の威力の底上げをしているのだと思います。……ですが、いい点ばかりではありません」
「何だよ、それは?」
「……無尽蔵に使える分、痛みも生じていたはず……ライフォードさんの話を聞く限り、命の前借をしているようなものでしょう」
エアリアはそう言うと、マリッサの方を心配そうに見る。
「……その、マリッサさん。痣の痛みは大丈夫なのですか?」
「べ、別に……すこ~し痛かったけど、そんなのもう慣れたわ! だ、大丈夫よ!」
強がるマリッサに俺は釘を刺しておく。
「……とはいっても、命を前借ってのは怖いな。今後はマリッサの魔法は控えるようにしないとね」
「そうですよ、マリッサ様。もう無暗に魔法を使うのはおやめになってくださいね?」
「えぇぇ~!? 嫌よ、そんなの!!! せっかく魔法が使えるようになったのに使わないでおくなんて!」
「……はぁ、わかりました。……ですが! 使う時は必ず私に一度確認をお願い致します。状況を鑑みて使用していいかの判断を行います」
「やったっ! わかったわ、マイト! そうしましょう!」
話がひと段落したところで俺は研究所の周りを見回す。
「……話はそれまでにして、まずはこの研究室に眠っている皆をどうにかしないとね。……あとオルビアの亡骸も」
「アモン様。オルビアは私が供養を致しましょう。街の方達はおまかせしてもよろしいでしょうか?」
「わかったよマイト。それじゃエアリア……街の人の治療。お願いできるかな?」
エアリアは目を輝かせながら答える。
「はいっ!」
「あっ! それなら私も――」
「ダ メ で す」
「もう! なんでよ!」
やる気満々のエアリアとマイトに歯向かっているマリッサを横目にしつつ、俺はエレナやキャスティ、ディアマトに視線を向ける。
「俺達も手分けしてこの荒れた研究所の整理を始めようか」
「えぇ」
「わかったにゃ!」
「心得たのじゃ」
それから俺達は戦いの後始末を始めるのだった。
その後、研究所に集結した者達の負傷者たちをエアリアが治療した後、入り口付近に風魔法で浮かせながら全員を移動させていた。
俺も室内の整理が終わり研究所の入り口付近に立ち寄った時、背伸びをするエアリアに気付き問いかける。
「エアリアもひと段落したみたいだね」
「……あ! はい。終わりました! やっぱり魔法が使えると便利でいいですね!」
エアリアはニコニコしながら答える。
入り口の傍には一人ひとり壁に背を預けさせ、凍えないように数か所に焚火を設置して目覚めるまでそっとしているようだ。
「……これで街の人たちも問題ないね。……あ、アロイ!」
俺がそう呟くと、壁にもたれ掛かっているアロイ達を見つけ、すぐに駆け付ける。
「……うん、アロイ達も大丈夫そうだな」
「はい。目立った外傷もなく、今は眠っているようです」
俺は気持ちよさそうに寝ている2人を見ながら呟く。
「……そういえば、この街に来た理由ってエアリアとディアマトの呪いを解除する為だから、もうこの街にいる理由がないんだよな」
「確かに、そうでしたね。……もうすっかり忘れていました」
すると、寝ていたアロイが目を覚ます。
「……うぅ……あれ? お兄ちゃん? 僕、馬車で寝ていたはずじゃ……?」
「あぁ、もうアロイ達を苦しめていた研究所は俺達が何とかしたから……もう大丈夫さ」
アロイは少し混乱しているようだったので、俺が簡潔に状況を説明する。
「……え、本当なの!?」
「はい。もう何も怖い事はないんですよ」
エアリアも優しく答える。
すると、アロイの隣で寝ていたプリネも目を覚ました。
「……ん……お兄ちゃん?」
「起きたか、プリネ! ……聞いてよ、もう街に怖い大人の人はいなくなったんだって!」
「……えっ! 本当なの……お兄ちゃん?」
「うん!」
「……よかった!」
プリネも状況を理解したようだ。
アロイは安心したのか、他の壁にもたれ掛かっている人達を見渡す。
「……あ……お父さん、お母さん!!」
「えっ!」
俺が声を上げる前に、2人は両親の元に駆け出していた。
勢いよく抱き着く2人の衝撃でアロイ達の両親は目を覚ました。
「……うぅ……あれ、俺は……一体」
「あなた……私達、捕まったはずじゃ……?」
「このお兄ちゃんたちが悪い奴らをやっつけてくれたんだ!」
「……そ、そんなことが!?」
アロイ達の両親は混乱していたので、俺はアロイの両親に問いかける。
「その事なら俺から説明します――」
それから俺はこの街で起きていた事、もう悪夢は終わった事を伝えた。
説明を聞き終えたアロイ達の親御さんは俺達を見上げる。
「……なんとっ! どなたか存じませんが……ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
「あぁ、いえ! 気にしないでください」
エアリアは謙遜しながらアロイ達の両親は俺達に深々と頭を下げる。
それから続々と他の街の人達も起き始め、状況を説明するとアロイ達と同様に皆から感謝された。
「ふふ、こんなに感謝されるなんて思いませんでしたね。アモンさん」
「……そうだな、立ち寄って本当によかったよ。……それに、エアリアの笑顔もまた見る事ができたし」
俺はニコっと笑顔をエアリアに向ける。
「……え、私ですか?」
「うん。オルテシアからずっと悲しそうな表情ばかりで心配していたんだ。だからこそ、またエアリアの笑顔が見れて嬉しいよ」
「……そうでしたか。私もまた魔法が使えるようになって、街の人たちを助ける事ができて本当によかったと思います」
そう言いながらエアリアも笑顔になる。
笑い合う俺達の周りに優しい空気が包み込むのを感じつつ、研究所に視線を向ける。
「それじゃ、皆の所に戻るとするか」
「はい、アモンさん!」
俺は頷くエアリアと共に研究所へと歩き出したのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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