54 オルビアの秘策
俺達は再び研究室へ戻ると研究室は血が飛び散って荒れ果てており、その血が傷だらけのマイトのである事は2人を見てわかった。
「マイト! 大丈夫か!?」
「……だ、大丈夫なの、マイト!?」
マリッサも傷だらけのマイトに声を掛ける。
「……アモン様……よかった。マリッサ様は助けられたのですね」
瀕死になりながらも俺達に返答をするマイト。
「あぁ、マリッサ達は助け出したぞ!」
「ごめんなさい、マイト! 心配をかけたわね! ……でもマイト、何でそんなに傷だらけなのよ!」
マリッサがマイトに問いかけるのを横目に、俺は2人の周りで横になっている数多くの被験者達が気になっていた。
「……マイト、この横になっている被験者たちは?」
「オルビアが操作をしていた者達です。アモン様が向かわれた後、オルビアはこの被験者達を私に向けてきたのです」
「……殺してしまったのか?」
「いえ……気絶させていますのでご安心ください」
オルビアは高笑いをしながら答える。
「アーっハハハハハ! 面白かったわよん? マイトったら全然殺さないんだもの。面白いから私が被験者達に攻撃をし始めると全力で身代わりになるんだから……相当笑えたわ。ふふ、殺すことがあなたの存在意義じゃなかったのかしらん?」
「……昔の話です。今はそれよりも大切な事に気付きました。……貴方には分からないでしょうけどね」
「ふん、それで傷だらけになるんだったら……私も願い下げだわッ!」
オルビアはそう言うと、瀕死のマイトに斬りかかる。
だが、俺は問答無用で介入した――
「……アブソリュート・シールド」
俺はそう呟くと、オルビアの四方に空気の壁を展開する。
――カツンッ!
オルビアは俺が展開した壁に阻まれる。
「……え、何……当たらない!? ……それに、何よ。動けないじゃない……!?」
俺はゆっくりと2人に歩み寄る。
「ごめん、マイト。2人は因縁があるようだけど……俺はエアリア達を酷い目にあわせたオルビアが許せないんだ」
「……アモンさん」
エアリアの声が背後から聞こえる。
「アモン様……一体何があったのですか?」
「……エアリアが命を失いかけたんだ」
「……っ!」
オルビアは俺に視線を向ける。
「……これは貴方の力なの!? 一体何を――」
「――ウェーブ・キャノン」
俺は答えることなくオルビアの四方に展開した空気の壁を取り払い、死なない程度に圧縮した空気の球をオルビアに放つ。
空気の球がオルビアに当たると圧縮された空気は瞬く間に解放され――
――ドゴオオォォォンッ!!!!!!!!
拡散した空気の勢いでオルビアは研究所の壁にものすごい勢いで叩きつけられる。
「……ガハァッ!!」
研究室の壁にはクレーターが出来る程に窪み、壁に埋まりながら呟くオリビア。
「……な、何……よ……この力は……」
「お前が今まで街の人たちに行ってきた事や、エアリア達に行った事に比べたらまだ可愛い方だ。……さぁ選べ。ここで死ぬか。この街から手を引くか」
「何……よ。それ……うぅっ……」
オルビアはクレーターから這い出て、地面に膝を付く。
「はぁ……はぁ……ふ、ふふ……ふふふふ、それなら私も使わないでおこうと思っていたアレ……使っちゃおうかしら」
「何を――」
俺はオルビアに問いかけようとしたその刹那――
――ムクッ
エアリアが連れてきたアロイ達や他に室内にいたすべての被験者達が立ち上がる。
「……何だ、一体何をしたオルビア!」
更に、大きな地鳴りが建物内に響き渡り――
――バターンッ!
部屋の外からも多くの兵士や子供、女性、老人などあらゆる街の人が武器を持って押し寄せてきた。
街の人の目が赤く光っており、理性を感じられない表情をしている。
「……ふふ、簡単よ。私が操れる人をすべてを狂人化させただけ……もう私でも制御が効かないわ。この子達は私の最後の指令【侵入者の排除】にのみ従う狂戦士。もう私の指示も、誰の指示にも従う事はないわ!」
「……くっ! そんな手も残していたのかっ!」
「アーハハハハ! 貴方に街の人たちが殺せるかしら? ……ふふ、死になさい!」
「……皆! 俺の近くに集まってくれ!」
俺の掛け声と共に皆はすぐ近くに駆け寄ってくる。
「……アブソリュート・シールド!」
俺はすぐさま四方に大きな空気の壁を展開し、街の人たちが俺達に危害を加えるのを防いだ。
展開した壁に群がるように街の人たちが押し寄せてくる。
「クソ、これじゃジリ貧か……どうすれば」
俺が俯きながら呟くと、エアリアが俺に提案をしてくる。
「……あの、アモンさん。一つ試したい事があります」
俺はエアリアに視線を向ける。
「……試したい事?」
「はい。……マリッサさん、前に教えた状態異常を解除する魔法を覚えていますか?」
「え!? あぁ、えっと~確か~あれは~~」
マリッサは急に問いかけられて慌てて思い出す。
「……そう! キュアリーね、覚えているわ!」
「はい! 今からそれを試してみましょう」
エアリアの話を聞いたマイトが指摘する。
「……申し訳ありません、エアリア様。マリッサ様は魔法を扱う事ができないのですが……」
「フフン! マイト、今の私は前の私とはもう違うのよ! ……やりましょう、エアリア!」
頷く、エアリアは俺に視線を向ける。
「……いかがでしょうか、アモンさん」
俺は尋ねてくるエアリアへ答える前に、怪訝な表情を浮かべるマイトに視線を向ける。
「……マイト。マリッサはさっき、魔法を使ってエアリアの命を救ってくれたんだ」
「そ、そうだったのですか……っ!?」
「うん。……エアリア、お願いできるか」
「わかりましたっ! アモンさん!」
俺は可能性を信じて2人にお願いすることにした。
すぐさま、2人は並んで地面に膝を付いて祈りのポーズをする。
「それではマリッサさん。始めましょう」
「えぇ、エアリア!」
2人は目を瞑って同じ呪文を唱え始めると瞬く間に周りが光り輝き始める。
そして先ほどと同様に、より一層強く神々しい光がマリッサからを放たれた。
「うぅ……っ!」
眩しくて片目を瞑る。
「……マリッサ様が……魔法をっ!」
呪文を唱えた終えた2人は目を開け――
『『キュアリー』』
――魔法名を叫ぶと、室内にいた狂人化した者達の一人ひとりの足元に光のサークルが形成される。
そして、何故かディアマトの足元にも光のサークルが形成されていた。
「な、なんじゃ!? 我の足元にも……!?」
そして、足元にある光のサークルから円柱に光が照射され、ディアマトや街の人たちが光に包まれた。
光が収まると、研究所にいた街の人たちは糸が切れたようにその場に倒れ始める。
「……何なのよ……あなた達は!?」
焦るオルビアに対して、エアリアが返答する。
「やはり、思った通りでした。……もう貴方が操れる人はこの街には誰1人いません」
「嘘よ! 探せば誰かはいるはず……っ!」
オルビアはすぐさま自分の行動が意味をなさない事を思い知らされる。
「……そんな、本当にこの街全体に解除魔法を使ったというの?」
「私だけでは無理だったでしょう。でも……」
エアリアはマリッサに視線を向ける。
「……マリッサさんがいたからこそ、魔法の威力を高める事ができたのです」
「そんな……そんな事って……」
オルビアは後ずさりをして、壁にもたれながら俺達に問いかける。
「……わ、私を殺してもいいの!? 私がいなくなったら、この研究所で行っている研究の進捗が遅くなるわ。また魔物を使ったマナの収集に戻ってしまうのよ!」
冷静さを失ったオルビアに俺は問いかける。
「……なんでライフォードはこんな研究を依頼しているのかも気になるところだが……それよりも、今問題なのはお前が街の人達を実験材料にしてマナを収集していた事だ!」
「わ、私は……っ! ただ、任務を早く終わらせる為に――」
――スパァンッ!
ひるんだオルビアをマイトは見逃さず、シルバーダガーによる一閃でオルビアの息の根を止めていた。
……ポトッ
マイトは、地面に落ちたオルビアの顔を見ながら呟く。
「貴方がいなくても研究は続ける事はできますよ。……もっとまっとうな方法でね」
――バタンッ
首の無くなったオルビアの体はその場に倒れ込んだ。
「……マイト!?」
「申し訳ありません、アモン様。この者を生かしておけば、またこの街と同じような状況になる街を増やしてしまいます。……それに、手を汚すのは私だけで十分です」
俺はその場で膝を付き、両手を地面に付ける。
……俺は、本当にオルビアを殺すつもりはなかった……どうにか改心させる方法は無いのかと考えていたところだったからだ……オルテシアで出会ったジュラルドのように……。
「……アモン、立ちなさい」
顔を上げてエレナに視線を向ける。
「……エレナ」
「世の中には話し合いで通じない相手もいるの……だからこそ争いは終わらないし、どこかで必ず血を流す人が出てくるわ。……今回のオルビアだってウエスタンの住人すべてを狂人化にまでした張本人なのよ。このまま野放しにしていたら、他の街でも同じような事をしていたわ。それを私達は防いだのよ」
……俺にも全ての人を救うのは出来ないのは分かっている。
だからこそ、今後は救える可能性がある者は必ず救っていこうと心に刻み込んだ。
「……そうだな。……俺達が出来る事を精一杯するしかない……よな」
「そうよ。……ほら、捕まって」
エレナが手を差し伸べてくる。
「そうにゃ! 私はアモンさんに助けて貰ってここにいるにゃ!」
「アモンさん……私は覚えています。意識を失いかけた時……アモンさんの声が聞こえたんです。初めは幻聴かと思いましたが……そこから暗黒の世界に連れて行こうとする者へ抵抗する力をくれました。……今、こうしてお話が出来ているのもアモンさんがいたからなんですよ」
キャスティとエアリアはそう言いながら手を差し伸べてくる。
そして、腰に手を置きながらディアマトも手を差し伸べながら呟く。
「そうじゃ、主様がいなかったら今頃我もあの洞窟の奥で今も闇の靄に操られておったじゃろう。……感謝しているおるのじゃ、主様!」
俺は笑顔で手を差し伸べてくる皆の手を取り立ち上がる。
マリッサやマイトはそんな俺達を静かに見守っていた。
「……ありがとう、皆」
「いいのじゃ! ……それに、エアリア達の魔法を受けてから呪いも解けたようで体が軽いのじゃ!」
ディアマトがピョンピョン飛び跳ねながら呟く。
「……えっ! それって本当なの!?」
「あぁ、ずっと翼に乗りかかっていた重い枷がはじれたからじゃろう。ほら、この通り!」
すると、ディアマトは背中から翼を生やし、一部をドラゴン化させる。
「……本当だ、ドラゴン化できるようになってる。……でも、なんで?」
俺が呟くと、エアリアが反応する。
「……おそらく、マリッサさんが関係しているんじゃないかと思います」
「……え? ……私?」
皆の視線がマリッサに集中し、驚いた顔をしてマリッサは声をあげるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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