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53 マリッサの特性

俺達はキャスティと別れた後、エレナに案内されて広いドーム状の鉄格子で囲われた場所へと出る。

すると、すぐに視線に入ったのは大量の血を流すエアリアだった。


「エアリア!!」


非常に危ない状況なのは遠目でもわかる程、エアリアは大量の出血をしていた。

だが、それよりもエアリアを抱きかかえるマリッサも魔物からの集中攻撃を受けようとしている状況だった。


「……このままじゃ2人がっ! アブソリュート・シールドっ!!」


俺はすぐさまマリッサ達の四方に空気の壁を展開し、寸前のところで魔物達の攻撃からマリッサ達を守る。

エレナはそんな俺を横目にすぐさま自身に風の層をまとわせる。


「……アモン、エアリア達をお願い」

「あぁ。わか――」


返答をしながらエレナに視線を向けると、驚くぐらい怒りに満ちた表情で魔物達を睨んでいて俺は軽くビビってしまう。


「――頼んだ、エレナ!」


俺の言葉を聞いたエレナは瞬く間に魔物達に斬りこんでいった。

そんなエレナを横目に、俺はマリッサ達がいる場所へ駆けだした。





マリッサに駆け寄った後、俺はすぐさま問いかける。


「マリッサ! 大丈夫かっ!?」


クルっと俺の方に振り返ったマリッサの顔面は大量の涙で濡れており、目が赤く(にじ)んでいた。


「……アモンっ……どうしよう……エアリアが……私を庇って……っ!」


マリッサは俯き、大量の涙をエアリアの血まみれの衣服に落とす。

しゃがみこんだ俺はマリッサが抱きかかえるエアリアに視線を向けると、腹部から大量の血が流れ出ており予想以上に重症のようだった。


「……これは酷いっ……すぐに治療をしないと!!」


すぐに俺は空気操作で治療を行おうとしていたが――


「……っ!」


――既にエアリアは空気を体内に取り入れていなかった。




「そ、そんな……」

「アモン……どうしたの?」


俺は目の前がグラつきながらマリッサに答える。


「…………もう、エアリアが息をしていないだ」

「……えっ!? そんなっ!!」


俺は自分の不甲斐なさで歯を食いしばりながら地面を勢いよく殴りつけた。


「……クソっ! ……俺は、空気を取り込んでいない相手を治療する事ができないんだ。……俺に回復魔法が使えたらっ!」


すると、マリッサは何か思い出したように呟く。


「…………あ……そうよっ!!!! 回復魔法なら!」


マリッサはそう言うと俺を横に押しどかし、エアリアの腹部に両手を添える。


「わわっ! ……マリッサ? 一体何を!?」

「いいからアモンは離れて見てて! ……エアリア、絶対に死なせないんだから!!」


マリッサはそう言うと、目を瞑り呪文を唱え始める。

すると、瞬く間にマリッサの周りが神々しく光り輝き始め――


『リヴァイブ』


――マリッサが術名を呟くと、マリッサが放っていた神々しい光がエアリアを包み込む。

ドーム状の鉄格子内全体を光で埋め尽くし、魔物達を一掃したエレナも駆け寄ってくる。


「……アモン、これは何事!」

「それが……エアリアがもう息をしていないって話したら、マリッサの魔法を使い始めて……」

「えっ!? エアリアは大丈夫なの!! ……って、マリッサの魔法!? そもそもマリッサが魔法を使えた事に驚きなんだけど……」


エレナは俺と同様に起きている状況を整理しきれていないようだった。

すると、エアリアを包み込んだ神々しい光はより一層輝き始める。


「……うぅっ!」

「……今度は何よ!?」


俺とエレナは眩しくてその場で目を瞑る。




程なくして、エアリアを包み込んでいた光も収まる。


「……ふぅ」


マリッサは一呼吸して自身を落ち着かせているようだ。


「……エアリア!」


俺はすぐにエアリアを呼びかける。


「……すぅ……すぅ……」


返答を返すまでは至らなかったが、ゆっくりとエアリアが呼吸をしている事は確認が出来た。


「……息をしている! ……よし、これなら!!」


俺はすぐさまエアリアが吸い込んだ空気を使って、治りきっていない患部の修復を加速させた。

治療に専念している傍ら、エレナがマリッサに問いかける。


「それにしてもマリッサ。あなた魔法を使えたのね」

「……えぇ。アモン達が潜入している間にエアリアから教えてもらったのよ」

「そうだったの……でも、助かったわ。マリッサのお陰でエアリアが助かったもの」

「……本当に教えて貰っていて良かったわ。……もし、教えて貰っていなかったら……今頃……」


マリッサは俯きながら大量の涙で地面を濡らす。

俺は微笑みながら2人の会話から意識を切り離し、治療に専念することにした。




しばらくすると、エアリアの治療も終わり健やかな表情をしながら眠っていた。


「よし、こんなものかな」

「……エアリアぁ!!」


マリッサはそう言いながらエアリアは思いっきり抱きしめてエアリアの体温を感じていた。


「ちょっとマリッサ!? そんなに抱き着くとエアリアの傷に障るわよ!」

「ははっ、……まぁまぁエレナ、もう傷は俺が治したから大丈夫だよ」


俺がエレナをなだめていると、鉄格子の外からディアマトが駆けてくる。


「……主様かのっ!」

「……ディアマト! 無事だったのか!」

「なんとかの。なんじゃ、この鉄格子は」


すると、ディアマトは鉄格子に向かって口から業火を放って入り口を強制的に作る。


「あの……研究所の入り口にいた皆は殺してないよね?」

「安心せい、入り口の皆はちゃんと気絶させておるのじゃ」

「よかった……」


俺がディアマトと話していると、俺達が先ほど入ってきた入り口から風の層をまとったキャスティが駆けてくる。

俺達の場所を視認した後、ものすごい速さで近寄ってくる。


「……アモンさんっ! エアリアさんは大丈夫にゃ!?」


キャスティは意識を失っている血だらけのエアリアを見て俺に尋ねる。


「あぁ、その事だけど――」


俺はキャスティとディアマトに先ほどまで起きた事を説明した。


「――それでマリッサのお陰で息を吹き返したエアリアを俺が治療してたって訳なんだ」

「……なるほどの、あの光はマリッサの魔法じゃったか」


ディアマトは納得のいった表情を浮かべ、説明を聞いたキャスティは涙を浮かべながらエアリアに勢いよく抱き着く。


「……うぁぁんっ! よかったにゃぁぁ!!!!」


2人に抱き着かれて窮屈(きゅうくつ)そうにしていたエアリアはその衝撃で薄っすらと目を開けた。


「……あれ……私、どうして……」


エアリアは目の前に涙を浮かべるマリッサとキャスティを見て少し混乱しているようだった。


「よかった、エアリア……体は大丈夫か?」


俺はエアリアに微笑みながら問いかける。

エアリアは自身の手や腹部を確認した後、俺に視線を戻す。


「……あ、はい! 痛みもなく、大丈夫みたいです、アモンさんが治してくれたんですか?」

「いや、俺はただサポートしただけだよ。直したのは……」


俺はマリッサに視線を向ける。


「……マリッサさん?」

「えぇ! エアリアから教えて貰ったリヴァイブを使ってみたの!」

「え、リヴァイブを!?」


驚くエアリアに俺は付け加える。


「すごい魔法だったぞ。マリッサから神々しい光が放たれて、エアリアを包み込んだんだ」

「……本当に使えたんですね。……でも、そんなに光を放つ魔法ではないはずですが……あ、それよりもマリッサさん! リヴァイブは莫大なマナを消費する魔法のはずです。マリッサさん、体の具合は大丈夫なんですか?」

「私の心配なんて不要だわ! エアリアが治ったんだもの、私のマナなんていくら使おうが関係ないもの!」

「……もう、マリッサさんはご自身の体も(いたわ)わってくださいね。……でも、ありがとうございます。マリッサさん」


2人は共に笑顔になり、俺達の周りに優しい空気が包み込む。

そんな2人を見ながらエレナが俺に視線を向ける。


「……それでアモン。これからどうするの?」

「あぁ、アロイ達を使ってエアリア達にこんな目にあわせたやつを……オルビアを俺は絶対に許さない」

「そうね、私も同感だわ。マイトの元に戻りましょう」

「だな! マイトの元へ急ごう!」


俺はエレナの目を見ながら返事を返す。


「……あの、アモンさん。アロイ君達はどうしましょう?」


すると、エアリアが俺の方を見て問いかける。


「……そうだな。アロイ達もまた操られないように一緒に連れて行こうか」

「わかりました! ……あ、でもこのままじゃアロイ君達に血が付いちゃいますね」


すると、エアリアはメルトリアでした水魔法と同じ魔法を使い、自身の服に着いた血を洗い落とす。


「……あれ……エアリア? 魔法……使えるようになったの?」


俺はそんなエアリアに問いかける。


「……え……あ……本当だ!!!!! ……でも、なんで!?」


エアリア自身も今気づいたようで、俺以上に驚いていた。


「……まぁ、ひとまず理由はおいておこう。今はマイトの元へ急ぐんだ!」

「わ、わかりました! 2人は私が抱えていきますね」

「頼む! それじゃ、皆。マイトの元へ戻るぞ!」


皆との合流を果たした俺達は、オルビアを足止めしていたマイトの元へ急ぐのだった。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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