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52 エアリアの意地

――少し、時は(さかのぼ)る。


アモンさん達が出発した後、私はアロイ君をもう一度寝かしつける事にした。

そして、手持ち無沙汰にしているマリッサさんに視線を向ける。


「……そういえば、マリッサさんと二人っきりでお話するのは初めてかもですね」

「そうかしら? ……まぁ、でもいい機会ね。ただ待つのも暇だし、エアリアとお話をしていたいわ!」

「はい!」


私はニコっと笑みを浮かべるとマリッサさんも同様に笑みを浮かべる。


「……そういえばマリッサさん。お城では魔法の稽古をおじいちゃんから教わっていたと聞きましたが、どれぐらい扱う事ができるんですか?」

「それが全然なのよ。マナが全く使えなかったからマナを構築することができなくて……」


腹部を押さえながら話すマリッサさんだったが、私の魔力探知のスキルによってこの旅を初めてからマリッサさんのマナ量が増えている事は知っている。

恐らく(あざ)からマナが出始めているからだろう。


「マリッサさん、お腹の痣の容体はどうなっているんですか?」

「えぇ、問題ないわ! ……ちょ~っとだけ痛むけど、もう慣れたわ。きついのが来ても、うずくまったりなんかもうしないんだから!」


ニシシと笑うマリッサさん。

私は試しにマリッサさんに尋ねてみる事にした。


「……あの、試しに何か魔法を使ってみてはいかがでしょうか? もしかしたらマナ、使えるかもしれませんよ?」

「試すだけ無駄だと思うけどね。……えっと、確か」


マリッサさんは両手を何もない方向に差し出し、うろ覚えながらおじいちゃんから教わった呪文を唱える。

すると、次第にマリッサさんの両手に水球が形成され始める。


「あれ……集まってくるわ……以前はこの段階ですぐに地面に落ちちゃっていたのよ!」

「……いい感じですね! マナの構築が終わったら手から放つことに意識を集中してみてください!」

「わ、わかったわ!」


すると、マリッサさんは両手で構築した水球を遠くに放ち、雪面にぶつかった水球は勢いよく周りの雪を溶かした。


「……使えた……! エアリア! 私、魔法使えたわ!」


予想以上に喜ぶマリッサさんを見てるとこちらも自然と笑顔になる。


「よかったですね! でも、マナが漏れているのは事実なので、使い過ぎはよくないかもですね」


私はこの旅の目的がマリッサさんのマナが漏れるのを食い止める事を思い出しつつ、マリッサさんに釘を打っておく。


「大丈夫よ! そんなにすぐになくなってしまうものじゃないでしょうし……それよりも、エアリア! もっといろいろ魔法を教えてよ!」

「わ、わかりました。今、私は魔法が使えないですけど、教える事はできますからね!」


あまりにも真っすぐな視線を向けてくるマリッサさんのお願いを私は断る事はできず、なにより私にまだ出来る事があると思えた事が素直に嬉しく思った。


「それじゃ、まず回復魔法を教えておきましょう。本来であれば、私が担う役目なのですが、この調子ですし……マリッサさんにも回復魔法を使えるようにしておいた方がいいと思います」

「回復魔法かぁ……っ! いいわね! マイトに沢山使ってやろうかしら!」

「……あの、相手が特にケガなどしていない時に回復魔法をしてもマリッサさんのマナを消費してしまうだけなのであまりお勧めしないですよ?」

「あはは、言ってみただけよ! それじゃエアリア、早速回復魔法ってやつを教えてよ」

「わかりました!」


それから以前にクロエさんから教えて貰った魔法なども含めた私が使えるすべての回復魔法をマリッサさんに教え込ませた。

マリッサさんはとても勉強熱心で、次々と回復魔法を覚えていった。


「……すごいですね。なんといいますか。呑み込みがとても早くて関心してしまいました」

「あはは、まぁね。私、興味がある事は没頭しちゃうのよ。ボルティガから剣の稽古をして貰っている時も熱中しちゃって時間があっという間に過ぎちゃっていたのよね!」


マリッサさんは得意げに話す。


「ふふ、とても良い事だと思いますよ。でも、これで仲間の誰かが怪我をした時にはマリッサさんにお願いすることができるかもしれません」

「そうね! 怪我した時は私に任せなさい!」

「……あと、さっきもお伝えしましたが、あくまで緊急時のみです。ただでさえ、マリッサさんはマナが漏れて命の危機に面している訳ですから」

「わかっているわよエアリア。でも、早くアモン達帰ってこないかしら、回復魔法を自慢してやるんだから」

「……もう、ですから――」


私が再度マリッサさんにマナの使用は控えるように伝えようとした時、寝込ませていたアロイ君とプリネちゃんが目を覚ました。


「――あ、目が覚めちゃいましたか? すみません、騒がしくしてしまって……」

「……忘れ物、しちゃった」


アロイ君は俯きながら話始める。


「……忘れ物……ですか?」

「なによ、その忘れ物って」

「……付いてきて」


すると、アロイ君は妹のプリネちゃんの手をつなぎながら立ち上がり、馬車の荷台から降りていく。


「ちょ、ちょっと。どこ行くのよ、あんたたち!」

「……こっちだよ」


アロイ君はマリッサさんの問いかけに返答することなく、プリネちゃんと一緒にウエスタン入り口の方へと駆け出していった。


「……もう、急に起きたと思ったら……なんなのよ、あの子達は!」

「マリッサさん、言っている場合じゃないです! 追いかけないと、あの子達が危ないですよ!」

「あぁ……またマイトに怒られちゃいそう……だけど、見捨てる事もできないもんね。行きましょう、エアリア!」

「えぇ!」


それから私達はアロイ君とプリネちゃんに付いていく事にした。




先にウエスタンの街に入っていった2人に少し遅れて私たちもウエスタンの入り口へ到着する。


「この兵……気絶しているわね」


マリッサさんが入り口で倒れていた門兵を見ながら呟く。


「おそらく、アモンさん達が気絶させたんだと思います。……って、あぁ、アロイ君達を見失っちゃいますよ。急ぎましょう!」


私はマリッサさんの手を引き、アロイ君達がいる方へと駆け出す。


「わ、わかっているわ! ったく、あの子達はどこに向かうつもりなのよ!」


2人を追いかけていると、広いドーム状の鉄格子で囲われた柵の中に向かっていく。

そこは中央にある爆炎が立ち込める魔法研究所から大きなゲートで繋がっている建物だった。


「……え? ちょっと、2人とも。そこに入っちゃダメです!」


私は2人に向かって叫ぶが、私の声は届いていないのか柵の中に入っていく。


「何よあそこは!? ……見るからに怪しそうな場所じゃない!」

「えぇ、早く連れ出しましょう」


私はそう言いながらとマリッサさんと2人が入っていった柵の中へ入っていく。

すると――


――ガチャーンッ!

先ほど通った入り口が鉄格子で塞がれて出る事ができなくなっていた。


「……えっ!?」

「い、いきなり何よ! って、このままじゃ出れないじゃない!?」


――パタンッ!

すると、先ほどまで元気に走っていたアロイ君達がその場に倒れていた。


「アロイ君!?」


私はすぐに2人に駆け寄って抱きかかえようとしたその時――


――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

目の前の大きなゲートが開かれた。


「キシャァァァァァッ!」


ゲートの中から奇声を上げながら巨大な魔物が多数こちらに向かってきていた。


「……そんな……なんでここに魔物が」

「エアリア! すぐに離れなさい! 」

「……っ!」


マリッサさんの声で私は我に返り、2人を抱えて後方へ下がる。

だが、入り口は閉ざされていて開く気配はない。


「……マリッサさん、どうしましょう……っ!?」

「逃げられないんだったら――」


マリッサさんはそう言うと、腰に下げていた鞘から剣を取り出す。


「――戦うしかないわ! エアリア、2人を任せたわ。ここは私が!」

「そんな、あの数を1人でなんて……」

「そんなの、やってみなくちゃ分からないわよ!」


マリッサさんはそう言うと、魔物の群れに駆け出していく。

私も援護しようと呪文を唱えるが、マナの構築中に妨害されてしまってうまく構築することができない。


「……今使えなくて、いつ使うっていうの!!」


私はその場に膝を付き、誰に言うでもなく自分自身に言いつけた。

顔を上げると、マリッサさんは魔物達と懸命に戦っていた。


「マリッサさん! 負けないでください!」


今、私が駆け寄っても足手まといにしかならない……今はただ応援する事しかできなかった。




それからしばらくマリッサさんは応戦をするが、多勢に無勢で明らかに押されている。


「マリッサさん……っ!」


すると、マリッサさんを迂回した魔物が私たち目掛けて襲い掛かってくる。


「キシャァァッ!」


私は子供の2人を抱きかかえ、目を瞑る。

……もう、ダメだ!


――バシュッ!

魔物の断末魔が鳴り叫く。

私は目を開けると、マリッサさんが先ほどまで戦っていた魔物を蹴散らし、私達の元へ駆け寄ってくれていた。


「あ、ありがとうございます!」

「はぁ……はぁ……エアリア、まだ希望を捨てちゃダメよ! 諦めないで!」

「マリッサさん……すみま――」


私が謝罪をしようとする刹那、先ほどまでマリッサが戦っていた魔物がマリッサの死角から近づき鋭い爪を勢いよくマリッサさんに振りかざそうとしていた。


「――っ!? マリッサさん、危ない!」

「……えっ!?」


私はすぐさまマリッサさんを全力でその場から離脱させる。

しかし、結果的に私がマリッサさんのいた場所に留まる状態となり――


―― ズシュゥゥッ!

魔物が伸ばしていた鋭い爪は私の体を貫いていた。


「うぐぅ……っ!」


熱い……貫かれた箇所が焼けるように熱かった。


「エ、エアリアっ!!!!!」


マリッサさんはすぐに私を貫いた魔物を退治してくれたが、私はそれどころではなかった。

私はその場に倒れ込み、マリッサさんに抱きかかえられる。


「嫌だ、エアリア! 死なないで!」

「……ごめんなさい、マリッサさん。最後まで……守れなくて」


私は最後の力を振り絞ってマリッサさんに謝罪を伝えた。

次第に瞼も重くなり、視界は暗くなっていく。


「ダメよ! 逝っちゃダメ!」


マリッサさんが悲痛な叫びを繰り返すが、徐々に声が遠くなっていく。




「エアリア!!」


(かす)む意識の中で(かす)かにアモンさんの声が聞こえてきた。

どうやら幻聴も聞こえてきたみたいだ。


あぁ……もう少し、アモンさん達と一緒に旅を続けたかった……な……。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

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