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51 ウエスタン潜入作戦

俺達はすぐに乗り込めるように、街の入り口から見えない位置に馬車を止める。


「一先ずここで待機だ。ここからだとすぐに乗り込めるだろう」


ウエスタンの街の入り口の方を覗き込むと、門兵はざっと5,6名は控えていた。


「……確かに厳重だね。後はマイトの合図を待つだけだ」


そうしているうちに地鳴りがしてウエスタン内部から大きな爆発音が鳴り響いた。


「合図だ! エアリア、マリッサ。俺達が戻るまでここで安静にしておいてくれよ」

「わかったわ。アモン、すぐに終わらせて戻ってきなさいよね!」

「……アモンさん、気を付けていってらっしゃいませ」

「お兄ちゃん! 気を付けてね!」」


待機組とやり取りをしていると、門番をしていた兵士の数人が街の中へと走り出していき、門兵は1人だけになっていた。


「よし! 今の内にウエスタンに入り込もう!!」


俺はエレナやキャスティ、ディアマトに目くばせをした後、ウエスタン入り口まで駆けだした。

門に向かう道中でエレナ達に念のため忠告をしておくことにした。


「いいか、敵兵は基本的には気絶させる程度に(とど)める事。オルビアに操られている可能性があるんだ。殺す必要はないよ」

「そうね。わかっているわ、アモン」

「わかったにゃ!」

「任せるのじゃ!」

「おし、それじゃ乗り込もう!」


すると、キャスティがすぐさま風の層を身にまとって誰よりも早く門兵へと接近する。


「眠ってるにゃ!」


――バコンッ!

キャスティは大きな剣の峰打(みねう)ちを相手の体に食らわせると門兵は地面に叩きつけられ気絶する。


「……あの、気絶させるのも穏便にお願いね」

「あはは……やりすぎたにゃ」


俺はあどけなく笑うキャスティを横目に、街の中央にある爆炎が立ち込める魔法研究所に視線を向ける。


「あれば魔法研究所か……先を急ごう、皆!」


魔法研究所へ向かう道中、ウエスタンの街並みは静まり返っており、あまり人が出歩いておらず家に閉じこもっている人がほとんどだった。


「寂しい街だね。……オリビアの意向で実験材料にされるのを恐れているんだろうな」

「……そうでしょうね。オルテシアやメルトリアにあった活気が全くないわ」


俺に追従するエレナも悲惨な街並みに顔を歪ませていた。


「主様、魔法研究所の入り口じゃ!」


すると、ディアマトが魔法研究所の入り口らしき場所を指し示す。


「よしっ! あの中から研究所内部に入っていこう」


入り口に差し掛かろうとした時――


――ズザザァッ!

魔法研究所の入り口近くに潜んでいた伏兵に俺達は取り囲まれてしまう。


「待ちなさいっ! 我らが研究所に何用かな?」


取り囲んできた兵士の中で一段と階級の高そうな統率者が一歩前に出てくる。


「とある少年からこの研究所に両親が連れて行かれたという情報を入手したんだ。その調査する為に来た! ……通してもらうぞ!」

「……そういうことですか……なら、なおさら通すわけにはいきませんね。あなた達、やっておしまい!」


統率者の号令と共に俺達を取り囲んでいた兵士が一斉に迫ってくる刹那――


「火傷が嫌なら下がっておれ!」


――ディアマトが研究所の入り口目掛けて、口から業火の放つ。


「「「うわぁ!」」」


入り口付近にいた兵士は業火を避けるように左右へ退避(たいひ)する。

標的を失った業火は研究所の入り口に直撃し、高熱により壁は溶け落ち通れる状態となる。


「主様! 今のうちに先に進むのじゃ!」

「……わかった! 早く行こう!」


俺とエレナやキャスティは開かれた入り口へと駆け出す。

だが、ディアマトはその場から動こうとしない。


「……ディアマト?」

「主様……我はここで奴らを足止めするのじゃ」

「何でにゃ! 一緒に行った方がいいにゃ!」


キャスティがディアマトに向かって叫ぶ。


「共に行ったとしても内部とこの者達と挟み撃ちになるのが関の山……ここで足止めをするのが得策じゃろう」


ディアマトは戦況を観察した結果、今の行動を選んでいるんだ。


「アモン、ここはディアマトに任せましょう」

「……わかった。でも、まだ体調は万全じゃないんだ! あまり無理はしないでよ、ディアマト」

「わかっておる。また後で会おう、主様」


敵を背に微笑むディアマトを残し、俺達は研究所内部へと駆け出した。




警戒態勢になっているのか内部に入った後、通路を塞ぐように敵兵が俺達を出迎える。


「ここから先へは進ませない!」

「……ぐッ! なんだよ、この数は」


予想以上の数に俺は軽くひるんでしまう。


「アモン、ここは私に任せなさい」


エレナが一歩前に出る。


「……こ、殺さない方向でお願いね?」

「安心しなさいよ。ドルフから教えて貰った魔法が役に立つ時が来たわ」


すると、エレナはその場で呪文を唱え始め、エレナの周りに黒いオーラが漂い始める。


『シャフネス』


エレナが術名を唱えると、エレナを取り囲んでいた黒いオーラが前方の兵士たちに一斉にまとわり始める。

すると、兵士は次々と武器を地面に落とし、倒れていく。


「おぉ……っ! ……えっとエレナ、これ……殺しちゃったの?」

「違うわよっ! 闇魔法によって気絶してもらったの。……あとは通れるように」


続けざまにエレナは風魔法を使って通路に倒れ込んだ兵士たちを通路の左右に移動させる。


「ふぅ……。闇魔法はちょっと消耗が激しいからあまり多用はできないけど、これで通れるようになったわね」

「……す、すごいにゃ、エレナさん!!」

「ふふ、まぁね」

「よし、それじゃ先へ進もう!」


俺達はエレナが作ってくれた道を通って奥へと進んでいった。


――バンッ!

しばらく進み、扉を開けると大きな実験室に到着する。


「な、なんだ君たちは!」


室内に入ると機械を操作していた白髪老人の研究員が俺達の方を見て問いかけてくる。


「……うっ!」


俺は返答を返すよりも、視界に広がる光景に気持ち悪さを感じてしまう。

なざなら、部屋の中には多くの街人が椅子に拘束されており、頭に機械のようなものを付けられて白目をむいていたからだ。


「……なんだよ、この人たちは!?」

「これか? 簡単なことだよ。私たちはマナをエネルギーとした主砲兵器を作っているところなのだ。その研究を続けている過程でマナが大量に必要となってくる。そのエネルギー供給源としてこの者達を使っているのだよ」

「なぜ……なぜこんな研究をしているんだっ!?」


すると、白髪老人はほくそ笑みながら答える。


「しょうがないであろう……王国からの依頼なのだから」

「……王国!? エクリエル王国か!?」


――コツ、コツ、コツ

すると、部屋の奥から甲高い足音が鳴り響く。


「……ふふ、また子ネズミが入って来ているようねん」

「誰だっ!?」


すると、暗闇から姿を現したのは、黒いローブに紫色の髪、そして首にはピンク色のネックレス。

間違いない……こいつがマイトが言っていたオルビアという女性だ。


「……っ! 皆、気を付けて」


俺はオルビアの目は見ないようにエレナ達にも目くばせをする。


「私はオリビアよ。今日はやたらと来客が多いわね。この研究所に何の用かしらん?」

「……この街から逃げ出してきた子供から両親を研究所に連れ去られたって聞いて駆け付けたんだよ!」

「ふぅん……あの逃げ出した子供たちの事ね」


オルビアは思い出したかのように呟く。


「……この悪質な研究はお前が原因か!?」


俺はそんなオルビアに問いかけた。


「あら、心外だわ。私はあくまで協力しているだ・け・よ。ちょ~っとばかし進捗が遅かったから、私が早く実験を進ませる為に街人を使おうというアイデアを提案しただけなのよん」

「……じゃ、やっぱりこの研究の依頼者は……」

「そう。この研究の依頼者はエクリエル王国のライフォード王からの依頼なのよん。……そういえば、あなた達も国王が考えている計画の為に、あの離島に向かっているんじゃなかったのかしら? ……何でこんなところで道草を食っているのよん」


オルビアの話す内容に俺は軽く頭が混乱してしまう。


「待て待て……なぜ、ライフォードがこんな実験を依頼しているんだ。……それに何故、お前が俺達の事を知っている!?」

「ふふ、私がいちいち伝えるまでもの無いわ……いずれ分かる事だしね。それよりも――」


――ズバァンッ!

次の瞬間、オルビアがいた箇所にマイトのシルバーダガーによる斬撃が放たれる。

だが、オルビアは寸前のところでかわす。


「あら、せっかちね。(いさぎよ)く捕まったままでいれば……いいものをッ!」


オルビアはそう言うと、足に仕込んでいた忍び刃で強烈な蹴り斬撃をマイトに放つ。


――ズザァァァッ!

オルビアの攻撃を受け止めたマイトは引きずられてオルビアと少し距離が空く。


「……そうはいきません。何故あなたがこの街に?」

「ふふ、私はただボスの命令に従って研究に協力しているだ・け・よ? 組織を裏切ったあなたにはもう関係のない事じゃな~い」

「……見過ごすことはできません。多くの街人を実験に使うなんて……」

「ふん、この街の人がどうなろうと私にはこれっぽっちも関係ないもの。実験が終われば私も早く任務終了をボスに報告が出来る。……この何が悪いって言うのよん」

「……その為に、多くの研究員の方を意のままに操っている、という事ですか」

「その方が楽だからしょうがないでしょ? 使える者はぜ~んぶ使うのが私なの」


――スタスタスタ

オルビアはマイトと間合いを取りながら呑気に歩きながら話し出す。


「うふふ……でも、呑気にここで話していてもいいのかしら、あなた達?」

「……どういう事でしょうか?」

「あなた達がこの街まで連れてきた子供……有効活用させて貰っているわ」


オルビアは俺の方に視線を向けながら話す。


「……何を言っているんだ?」


俺はオルビアに問いかけると、オルビアはニヤリと笑う。


「ふふ、私は一度魅了した子はいつでも操作する事ができるの。今頃、あなたのお仲間の人たちはどうなっていると思う?」

「……エアリア達に何をした」


俺は怒りを込めた言葉をオルビアにぶつける。


「あら、そんなに怒らなくてもいいじゃな~い。この研究所の実験では主砲の検証をする為に大型の魔物を数多く確保しているの。……ただ、その場所へ子供たちを使ってお仲間達を誘導させただけなのよん?」

「……っ!」


この女、とんでもない事をサラッと言いのけたぞ。


「……い、いないわアモンっ!? 念のために馬車がある場所を千里眼で確認したけど……どうやらその女の言う通り、既にエアリア達は魔物のいる場所へ誘導されているのよ!」


エレナは焦った表情を浮かべて俺に知らせてくる。


「……ま、マジか!?」

「ど、どうするにゃ!?」

「エレナ……どこに誘導されたのか探せるか!?」

「……やってみる!」


俺達のやり取りを聞いていたマイトはオルビアを睨みつける。


「……貴方と言う人は、相変わらずのようですね」

「ふふん、誉め言葉として受け取っておくわ。さぁ、どうするのん? 私とこのままやり合う? それとも……」


すると、エレナが再び話し出す。


「……見つけたっ! なんて大きな魔物を確保しているのよ……。アモン、今マリッサが応戦しているわ。……でも、大きい上に数が多くて、このままじゃ……っ!」


エレナの証言を聞いてマイトは俺の方に視線を向ける。


「アモン様! この方は私がお相手致します。その間にマリッサ様達をお守りください!」

「ふふ、逃がすと思う?」


オルビアはそう言いながら指をパチンと鳴らすと、部屋の扉付近の地面から鉄格子が飛び出し扉を塞ごうとする刹那――


――ガコォンッ!

鉄格子は動きを止めていた。


「……させませんよ、オルビア」


マイトは瞬時に動かしていた動力を止めていた。


「……あぁそうね、あなたのスキルも相当厄介な物だったわ。……でも、これならどうっ!?」


すると、オルビアは俺達に瞬時に肉薄してくる。


――ガキィンッ!

だが、マイトが瞬時に移動してオルビアの攻撃をシルバーダガーで防ぐ。


「あぁもうっ! 本当に厄介なスキルね!」


マイトはオルビアと鍔迫(すばぜ)り合いをしながら俺に問いかける。


「アモン様! 私に構わず向かってください!」

「分かったマイト! ここは任せるよ!」


俺はマイトにそう伝えると、エレナ達と上がりかけていた鉄格子を避けて実験室から出た。

施設内の廊下を掛けながらエレナに視線を向ける。


「エレナ! エアリア達の元へ案内してくれ」

「わかったわ!」


すると、通路先から一段と武装した兵が押し寄せてくる。


「……く、相手をしている暇はないってのに!」


俺はエレナに視線を向けたが千里眼を使っている上に、また消耗の激しい闇魔法を使ってくれとは言えなかった。


――ザッ!

すると、キャスティが前に出る。


「アモンさん、ここは私に任せて先に向かうにゃ!」

「キャスティ! ……でも1人であの大勢を相手なんて無茶だ!」

「……時間稼ぎなら出来るにゃ! 早く、エアリアさん達の元へ行くにゃ!」


キャスティは決死の覚悟をした表情で俺に訴えかける。


「……っ! わかった、ここはキャスティに任せる!」

「……行きましょう、アモン! こっちよ!」


俺はキャスティと別れてエレナと共にエアリア達の場所へと急いだ。

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アモンのキャラデザイン
エアリアのキャラデザイン
エレナのキャラデザイン
キャスティのキャラデザイン
ディアマトのキャラデザイン
マリッサのキャラデザイン
マイトのキャラデザイン
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