50 助けを求める声
エレナに案内してもらっていると次第に雪が降り始め、雪が積もった上を馬車が進んでいく。
「……見えた! あそこだ!」
そこには少年が少女を守るように抱きかかえながらうずくまっており、ビクともしていない。
2人に近づいた後、俺はすぐに御者席から飛び降り、2人の元へと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
すぐに2人を抱きかかえると2人は微かに息をしていたが意識はなかった。
「…………うぅ……」
「…………お兄ちゃん……」
少女の言葉から2人は兄妹である事が分かった。
体はとても冷たく非常に危険な状態だったので、俺は2人をすぐに抱きかかえ荷台へと移動する。
「アモン、ここに寝かせて」
エレナが荷台の中央に毛布を敷く。
「ありがとうエレナ」
俺は2人を毛布の上に寝かせる。
「アモンさん、すぐにこの子達を温めないと……」
エアリアはそう言いながら両手を2人にかざして呪文を唱えるが、マナの構築の途中で砕け散る。
やはり、まだエアリアは魔法が使えない様だった。
「……こんな時にも、私は……っ!」
エアリアはかざした両手を力強く握りしめる。
俺はエアリアが握りしめる拳にそっと手を置き、エアリアに優しく声を掛ける。
「……ありがとうエアリア、その気持ちだけでも十分だよ。今は俺に任せてくれ」
俺は2人に手をかざし、2人が吸い込む空気を使い体中に回る血流を早くする。
すると、次第に2人の青白かった顔に赤みが戻ってくる。
「アモンさん、何を……?」
「空気操作の応用だよ。これで一先ず危ない状態は脱する事は出来ただろう」
俺の空気操作で2人の体温は上がったが、どうしても外気の風が冷たくすぐに凍えてしまいそうだ。
すると、キャスティが防寒着を持ってくる。
「アモンさん! 2人にこの防寒着を着せてあげるにゃ」
「ありがとうキャスティ、手伝ってくれるか?」
「わかったにゃ」
それからキャスティに手を借りて2人に防寒着を着せてあげる。
2人に着せ終わった後、皆を見渡す。
「……あと、このままじゃ俺達も凍死してしまうから皆も防寒着を着てくれ」
俺の言葉で皆が防寒具を着る。
防寒具を着終わった後、マリッサが腕組みをしながら答える。
「……でもアモン、なんでこの子達は道端に倒れていたのよ?」
「分からない。近くにあるウエスタンの子供だとは思うけどね。……でも、何で街から逃げるような事をしたんだろう?」
「アモン様、それもウエスタンに向かえば分かる事です。すぐに向かってみましょう」
「そうだねマイト。すぐに――」
――俺が出発しようと声を上げようとした時、微かに少年の目が開かれる。
「……うぅん……ここは?」
「気が付いたのかっ!? 君、大丈夫か?」
俺はすぐさま少年に問いかける。
「……そうだっ! プリネは!? プリネは無事なの!?」
すると、少年はガバッとすぐに起き上がる。
「えっと……プリネってすぐ隣にいる子の事?」
少年は俺の言葉を聞くと、隣で寝ている少女に視線を向ける。
「……あぁ、よかった……っ!」
少年は心底安心したように呟いだ後、顔を上げて俺達を見渡す。
「……あの、お兄さんは誰?」
「あぁ……俺はこの先にあるウエスタンっていう街に向かっているアモンっていう冒険者さ。君たちはそのウエスタンから出てきたのかな?」
俺は出来る限り優しく少年に尋ねる。
「……っ! お願いお兄ちゃん! お父さん達を助けて!」
すると、少年は思い出したかのように悲痛な表情を浮かべ、涙目になりながら懇願してくる。
「あぁ当然さ。ただ、助ける為にも君達の名前を聞いてもいいかな?」
「僕はアロイ・ランドニー。それで、この子が僕の妹でプリネっていうんだ」
「アロイにプリネだね。……それで、ウエスタンで何があったの?」
俺は優しくアロイに尋ねる。
アロイは俯きながら話始める。
「……街の研究員の人たちが急に家に押しかけてきて僕たち家族全員を研究室へ連れて行こうとしたんだ。……その時、お父さんが逃げる時間を作る為に研究員の人たちに襲い掛かって……その後、お母さんと一緒に街の外に出ようとしたんだけど、出口付近でもお母さんが追ってきた人たちを止める為に盾になって……その間に僕たちは街の外に逃げ出すことが出来たんだ。今頃、お父さんやお母さんは……」
「……なるほどな。でも、研究員の人達って何の研究をしているの?」
俺はアロイに続きを促す。
「僕たちの街には魔法研究所があるんだけど、いままでこんな事をしてくるような研究所じゃなかったんだよ。……少し前に大人の女性が街に来てから街に住む人たちを実験材料として使い始めたんだ」
アロイがそう呟くとマイトが少年に尋ねる。
「……アロイ様。その、大人の女性はどのような外見だったか伺ってもよろしいでしょうか?」
「確か……黒いローブに紫色の長い髪で首元にピンク色の宝石が付いたネックレスを付けていたよ」
「……」
マイトが少し考えた後、俺に視線を向ける。
「……アモン様。少し確認したい事ができました。早急にウエスタンに向かいましょう」
「うん、そのつもりだけど……その女性が誰だか思い当たる人がいるの?」
「はい。それを確かめたいと思っております」
「わかったよマイト! それじゃ状況確認する為にもすぐにウエスタンに向かおう!」
俺はマイトの提案に頷き、アロイにもうしばらく安静にしてもらうように伝えて毛布に寝かせたまま、御者席に戻る。
「キャスティ、風魔法をお願い! それとエレナ、ウエスタンの道案内をお願いできるか?」
「わかったにゃ!」
「えぇ!」
それから俺達は2人の子供を連れてウエスタンへと急いだ。
しばらく進むと、遠くに大きな街が見えた。
「見えた、あれば魔法都市ウエスタンか!」
「……うん。あれが僕たちの住んでいた街だよ」
アロイはゆっくりと体を起こして話してくれた。
「街の中央に大きな建物があるな……アロイ、あれが研究所なのか?」
「うん! あの大きな研究所に街の人たちが大勢収容されていったんだ!」
「わかった。もう少し近づいてみよう!」
それから街の近くまで馬車を移動させる。
「アモン様。ここで一旦馬車をお止めください」
「え……なんでだ、マイト?」
俺は荷台の方を振り向きながら尋ねる。
「一度私が内部を偵察してきます。ここでお待ちいただけますか?」
「分かった。あのスキルを使うんだね」
「はい」
「……ちょ、ちょっとマイト! 行くならみんなで行った方が良いんじゃないの?」
マリッサがマイトに問いかける。
「……いえ、すぐに終わりますので少々お待ちください、マリッサ様」
――シュンッ!
そう呟いた後、マイトはすぐにその場から姿を消した。
「マ、マイト!?」
マリッサが慌てふためくが、その数秒経過した後――
――シュンッ!
マイトはすぐに先ほどまでいた場所に戻ってくる。
「アモン様、お待たせ致しました。……内部を確認したところ、やはりウエスタンには私が以前所属していた組織の幹部であるオルビアという者がおりました」
「……オルビア……ってどういう人なの?」
「はい。オルビアは人を魅了し、意のままに操るスキルを持っている者です。おそらく、組織からの指令でウエスタンに潜伏しているのでしょう」
「魅了って……ウエスタンが変わったのもそのオルビアってのが原因なのかな?」
「……おそらくはそうでしょう」
「なるほど……でも、魅了ってのは厄介だね。マイト、魅了にかからない方法ってあるのか?」
「はい。それはオルビアの目を見ないことです。対峙するとしても必ずオルビアの目ではなく、鼻先に視線を向けるようにしてください」
「鼻先ね。わかったよ。皆も注意してくれ!」
皆が頷くのを確認した後、マイトに視線を戻す。
「それでマイト、街にはすぐに入れそうだった?」
「いえ、アロイ様達が脱出されてしまっているからなのか、門番の人数は多くおりました。私がもう一度内部に侵入し、騒動を起こしている隙にお入りくださいませ」
「わかったよマイト。何度も危険な橋を渡らせてしまってごめんな。……それじゃ、お願い出来るか?」
「畏まりました。マイト様。……内部から大きな爆発をさせてきますので、そちらを合図に侵入をお願い致します」
マイトは言い終わった後、思い出したかのように付け加える。
「……あと、マリッサ様は馬車に待機でお願い致します」
「って、何でよ! 私も一緒に侵入するわ!」
「今回ばかりは私も助太刀できない可能性もあります。お願い致します、マリッサ様!」
マイトの真剣な表情にマリッサはたじろぐ。
「……わ、わかったわよ。待ってればいいのね! 待っていれば!」
「よろしくお願い致します、マリッサ様。……それではアモン様、行ってまいります」
「あぁ!」
――シュンッ!
俺が返答すると、またマイトはすぐにその場から姿を消していた。
すかさず俺はエアリアに視線を向ける。
「エアリア! 俺達はウエスタンに侵入するからその間、マリッサと共にアロイとプリネの様子を見守っていて貰えるかな?」
「わ、分かりました! 私も一緒に行きたいですが……今の私では足手まといですし、マリッサさんとお2人でアロイさん達を見守っております! ……どうかご武運を!」
「うん!」
俺はキャスティとエレナ、ディアマトに視線を向ける
「それじゃ合図がきたらすぐに突入だ! 目的はアロイ達の両親の救出と、何の研究をしているのかを突き止める事だ」
「分かったにゃ!」
「えぇ!」
「わかったのじゃ!」
「お兄ちゃんに皆……っ! ……ありがとうっ」
俺は涙を流すアロイに微笑みながら、マイトの合図を待つのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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