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43 ジュラルド侯爵の晩餐

少し太っている体に貴族服を着た金髪の中年男性は席から立ち上がり、マリッサへ声を掛けていた。

マリッサは声を掛けられた者に視線を向ける。


「……誰よ、あなたは?」

「マリッサ様! ……こちらの方はマリッサ様のお誕生日パーティに来賓(らいひん)されていたジュラルド侯爵(こうしゃく)様ですよ。挨拶をなさっていたではありませんか!」

「そう言われてみれば……いたような……ま、いいわ! でも、この格好でも私って分かるのね」


マリッサは自身の鎧姿を見回しながら答える。


「ドレス姿でなくてもマリッサ姫の顔を見たらすぐにわかりましたぞ! ……でも、なぜマリッサ姫ともなる方が何故オルテシアにいるのですかな?」

「はい。それには深い理由がありまして――」


それからマイトが俺の代わりに事情をジュラルドに説明してくれた。


「――という事がありまして、今オルテシアにいるという訳です」

「そのような事が……では、この街には教会でお仲間の呪いを解く為に来たのですな」

「はい。その前に食事を行う為にこの店に寄ったのです」

「そうでしたか。これも何かの縁……よかったら私の家で晩餐会(ばんさんかい)をさせていただけないでしょうか?」


マイトは俺の方に視線を向けてくる。


「アモン様、このように(おっしゃ)っておりますが如何(いかが)いたしましょうか?」

「そうだね。見た目も優しそうな人だし、招待してくれるのならお言葉に甘えてもいいんじゃないかな?」

「おぉ、ありがとうございます。是非、お越しいただければ絶品の料理をおもてなしさせて頂きます」

「絶品の料理ですか、ありがとうございます! ……キャスティも問題ないよね?」


俺はお腹を空かせていたキャスティに視線を向けて確認を取る。


「問題ないにゃ! 美味しい料理ならむしろ楽しみにゃ!」


すると、ジュラルドがキャスティの方を見て呟く。


「ほほぉ、亜人族も連れていらっしゃるのですか……しかも武装をしているとは、これは珍しいですな」


ジュラルドはキャスティの身なりをまじまじと眺めながら話す。


「……な、何にゃ?」

「おっと、これは失礼しました。それではマリッサ姫と皆様も我が屋敷へと案内致しましょう!」

「よろしく頼むわね!」


マリッサはそう言うと、ジュラルドに付いていく。


「アモン様、もし何かあった時は私がマリッサ様をお守り致しますのでご安心ください」

「そこは心配していないよ。それに優しそうな人っぽいし、俺は大丈夫だと思うけどね」


俺もマイトと軽く会話をしたのち、マリッサ達を追いかけて店を出る事にした。

ジュラルドの屋敷に向かうまでにジュラルドはオルテシアの事についていろいろ教えてくれた。


「この街は陸地の魔物は外壁で守られ、空からの魔物は教会の教皇様が強力な結界を上空に張られているからとても安全な街なのだよ。その為、私のように多くの貴族が安全を求めてオルテシアに移り住む者が多い」

「そうみたいですね。周りの建物がほとんど高価な建物ばかりで、とても素敵な街並みです」


俺は美しい街並みを見渡しながら答える。


「あぁ、だからこそ、外部からの侵入者を防ぐ為に関門での慎重なチェックを突破したものではない限り、この街には立ち入る事ができないのだ」

「確かに……関門の門番から細かいチェックをされましたね」


俺は関門で細かいチェックをされたことを思い出しながら答える。


「ガハハ、そうであろう! だからこそ、街の中に入ってきているお主達が安全だという何よりの証拠と言えるのだ。まぁ、マリッサ姫を連れている時点で問題のある者ではない事はわかっておるがな」


ジュラルドはニシシと笑顔を浮かべながら答える。

俺もジュラルドの笑顔に釣られながら笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます。それと、先程おっしゃっていた教会の教皇様が呪いを解く事ができる方なのでしょうか?」

「おそらくそうであろう。晩餐が終わった後、教会にも案内するとしよう」

「何からなにまですみません。お願いできますか?」

「ガハハ、任せなさい!」


豪快に笑うジュラルドに連れられて俺達はジュラルドの屋敷へと向かった。




案内された場所はものすごい大きな豪邸だった。

屋敷の前には広い敷地が広がっており、俺は敷地内に繋がる大きな門を見ながら呟く。


「……すごい豪邸ですね」

「まだまだ私は小さい方だよ。もっと上には上がいる。そんなことより……さ、中へ入ってください」


ジュラルドは大きな門を開くと、中へと俺達を誘導する。

門をくぐった後、緑が広がる敷地内を歩き続けると、門からも見えていた大きな屋敷が目の前に広がる。


「お帰りなさいませ。ジュラルド侯爵(こうしゃく)様」


屋敷の入り口には何人ものメイドが列をなしており、一人の漆黒の長い髪をしたリーダー格のメイドが挨拶をしてきた。


「あぁ、グレイス。すまないが客人を呼んできたのだ。料理の準備が終わるまで、この者達を客間へ案内して頂けるか?」

「畏まりましたジュラルド侯爵様。……皆様、私はグレイス・シャリオットと申します。この屋敷のメイド長を務めているものです」

「これはご丁寧に……初めまして、俺はアモンと申します」

「アモン様ですね。それでは皆様も、こちらへどうぞ」


俺は軽くグレイスと挨拶を交わすとグレイスは屋敷内へと俺達を招きいれる。

グレイスの後を付いていこうとした時、キャスティは列をなしていた1人のメイドをみて表情を変える。


「……えっ!? ロザリーちゃん!?」


キャスティは立ち止まってメイドの1人に話しかける。


「……っ!? もしかして、キャスティ……ちゃん?」


キャスティが話しかけたメイドは頭から犬耳が生えており、どうやら亜人族のようだった。


「おや? お知り合いかな?」


ジュラルドは2人のやり取りを見て尋ねる。


「そ、そうにゃ! 私の故郷の国で友達だった子にゃ! なんでここにいるのにゃ?」

「ハハ、そうでしたか。積もる話もあるでしょう。……グレイス、ロザリーも一緒に部屋へ案内して差し上げなさい」

「畏まりました。ではロザリー、あなたも一緒に付いてきなさい」

「は、はい! グレイス様」


俺はキャスティにいろいろ確認を取りたかったが、一先ず客間へと案内してもらう事にした。




豪勢な室内に入った後、グレイスによって客間へと案内された。


「こちらが客間となります。お食事の用意ができましたらお呼びに参りますので、今しばらくおまちください。……ロザリー、あなたはその間、アモン様達のお世話をお願いしますね」

「か、畏まりましたグレイス様!」


ロザリーにそう伝えるグレイスは客室から出て行った。

シーンと静まり返る部屋で初めに声を出したのはキャスティだった。


「ロザリーちゃん! 生きていたんだね!」


キャスティはロザリーに勢いよく抱き着く。


「わわっ! キャスティちゃんっ!!」


俺は2人に近づいて問いかける。


「えっと、キャスティ……この子は?」

「ロザリーちゃんにゃ! 私がメルトリアにいたご主人様に買われる前に離れ離れになった子にゃ! ……まさかこんなところで会えるなんて」

「……ってことは、ロザリーはこの屋敷に買われたって事?」


俺はロザリーに視線を向けて尋ねる。


「……はい。アモン様のおっしゃる通りです」

「よかったにゃ! ……でも、他の皆はどうしたのにゃ?」


すると、ロザリーは俯きながらゆっくりと話始める。


「私も含めて多くの同胞がこの屋敷に買われ、その一部が私のようにメイドとして雇われているのです」

「……一部ってどういう事にゃ?」

「それは……」


ロザリーはそれ以上、何もいう事は無かった。


「……なるほど。この屋敷では、他者に言えないような行いをしている。という事ですね」


マイトが黙るロザリーに向かって問いかけた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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