42 神聖都市オルテシア
俺達は宿屋で1日休んだ後、昨日情報屋から聞いた神聖都市オルテシアに向けて出発をする事となった。
宿屋の前に馬車を置き、荷台にはメルトリアで用意をした物資を詰め込み準備万全である。
「それじゃ出発するけど、エアリア……オルテシアへの道案内お願いできるかな?」
「わかりました、アモンさん!」
エアリアはそう言うと、俺が座っていた御者席に座り込む。
「私が案内しますね!」
隣に座り込むエアリアはニッコリと笑顔を俺に向ける。
「お願いするよ。……皆も、準備いいかな?」
俺は荷台にいる皆に視線を向ける。
ディアマトは毛布が敷かれている場所に横たわっており、マイト達は振り返る俺に視線を向けてきた。
「問題ありません、アモン様」
「そうね! ……それで、どれぐらいでそのオルテシアって街に着くのかしら?」
マリッサの問いにエアリアは答える。
「そうですね。馬車であれば2,3日したら到着すると思います」
「えっ!? ……結構時間かかるわね」
「マリッサ様、都市間を移動するのですから仕方ありませんよ」
「……そういうものなのね」
すると、エレナが提案する。
「……思ったんだけど、馬車って馬に移動してもらうから、馬の移動速度を上げたらその分早くなるのよね?」
「その通りだけど、それがどうしたのエレナ?」
俺はエレナに尋ねる。
「私やキャスティは風魔法を使って体に風の層をまとって移動速度を上げる事ができるんだけど……その風の層を馬にも出来たら速度も上げられると思ったのよ」
「……なるほど。やってみる価値はありそうだね。でも、その分マナの負担は術者にかかるけど、大丈夫?」
「えぇ、まかせ――」
「それなら私がやるにゃ!」
すると、エレナを遮ってキャスティが志願する。
「……そう?」
エレナがキャスティに視線を向けて尋ねる。
「はいにゃ! エレナさんは千里眼で周辺の警戒をお願いしたいにゃ。私は呪文なく魔法を扱えるから風の層を馬に張るのはまかせてにゃ!」
「……そこまで言うならお願いするわね」
すると、キャスティはすぐさま馬車を引く馬に風の層をまとわせる。
「それじゃ、出発しよう!」
俺は手綱を力強く掴むと、馬は俺達を引っ張って走り出した。
――ビュンッ!
すると、想定以上の加速をし始めた馬に俺達一同は荷台の壁に打ち付けられてしまう。
「痛った! ちょっと早過ぎよ!」
ムクリと体を起こし、頭を撫でながらマリッサが叫ぶ。
街の皆も同様に勢いよく加速し始めた馬車を驚きながら避けていく。
「……予想以上だわ」
「あはは……早いですね」
「う、うん……でも! これなら早くオルテシアに付きそうだ!」
俺は改めて手綱を掴みなおし、メルトリアを後にする。
広い高原に出ると、エアリアの示す方角へと俺達は高速の馬車に乗って移動をしていった。
森に囲まれた道に差し掛かり、怪しい雰囲気が漂わせながら道を突き進んでいると――
「キシャァァ!」
――突如、道の先に大きなキノコの魔物の群れが飛び出してくる。
駆けていた馬は徐々に速度を下げていき、魔物の群れの前で止まる。
「……魔物か、エレナお願い出来るかな」
「まかせ――」
エレナが答えきる前に、マリッサが割り込んでくる。
「私も戦いたいわ!」
マリッサが、自ら戦いに志願する。
「マリッサ様! 相手は複数体です。油断できない相手ですよ」
「大丈夫よマイト! 私だってボルティガから剣の稽古を何度も受けているもの。それにこの前連れ去られそうになった時も剣で応戦したわ。……マイトは途中でいなくなっちゃったけどね!」
「……確かに、マイトが誘拐犯を追いかけて行った後、マリッサは相手を圧倒していたような……マイト、俺はマリッサが戦いたいのならそれでいいと思うけど?」
「アモン様……わかりました。ですが、あまり無理はしないようにしてくださいね!」
「分かっているわよマイト! ――それじゃ行くわよエレナ!」
「えぇ!」
2人は声を合わせると、勢いよく馬車から飛び出していった。
「……そういえば、キャスティは戦わないの?」
俺は思い出したかのようにキャスティの方へ視線を向ける。
「わ、私は休憩にゃ……長時間風魔法を使うのって疲れるにゃ……」
キャスティは常に馬に風の層をまとわせていた事もあり、既に疲弊をしていた。
「あ……そっか! ごめん……ゆっくり休んでおいて」
俺は申し訳なく思いつつ、エレナ達に視線を移した。
2人は魔物達と向き合っていた。
「マリッサ、あなた魔法って使えたっけ?」
「自慢じゃないけど全然使えないわ!」
「胸を張っていう事なの? ……まぁいいわ! 私が牽制するから、隙を突いて魔物を仕留めなさい!」
「わかったわ!」
するとエレナは自身に風の層をまとうと高速で相手に近づき、短剣で一度に複数体の魔物に斬りつける。
「ギャァァア」
密集していたキノコの魔物は四方にばらけると、その1体にマリッサが斬りこむ。
「トドメよ!」
――ズシャァァッ!
魔物を一刀両断するマリッサはさすがの一言で、誘拐犯と戦った時の事を思いださせる。
「マリッサさんすごいです!」
隣のエアリアも素直に驚いており、俺もマリッサに視線を向ける。
以前とは違い、剣は新調した物で防具も聖騎士のような鎧で髪は純白の布で括ってある。
「……やっぱり武器防具がしっかりしていると見違えるな」
だが、急にマリッサは腹部を押さえこむ。
「痛っ!」
動きを止めたマリッサに魔物はすぐさま飛び掛かる。
「マリッサ!?」
エレナは声を掛けるが数体を相手にしていた為、すぐに動くことが出来ず……マリッサは腹部を押さえて動こうとしない。
そんなマリッサに向けて飛び掛かったキノコの魔物は鋭い触手を突き刺そうと伸ばす。
「マリッサ!!」
俺はマリッサの前に空気の壁を展開しようとしたその刹那――
「はぁ……だから無理はダメだと申したのです」
――そこには瞬時に移動したマイトがシルバーダガーで触手を切り落とし、すぐさま一閃で魔物を絶命させていた。
「……うぅ……だ、ダイジョブよ。こんな痛み……すぐに慣れるわ!」
腹部を押さえるマリッサを見て嫌でも思い出す……この旅はマリッサを助ける為の旅だったのだと。
「ほら、立ってください」
マイトはマリッサの手を掴み、立ち上がらせる。
すると、他の魔物を一掃したエレナがマイト達に近づく。
「大丈夫マリッサ?」
「えぇ、ちょっと激しい痛みが来ただけよ。この痛みもすぐに慣れるから大丈夫よ」
「慣れるって……」
俺も御者席から降りてマリッサに近づく。
「……もしかして、ずっと腹部の痛みは続いていたの?」
マリッサは痛がる素振りをしていなかったので、俺はてっきり痛みは引いたものだとばかり思っていた。
「そ、そうだけど……でも! 我慢できる痛みだわ! ……大丈夫よ!」
必死に懇願してくるマリッサの表情を見ると、俺は何も言えなくなってしまう。
「……わかった。でも、本当に無理はしないで、ダメだと思った時はすぐに引いてくれ」
「えぇ、そうするわ」
俺は返事を聞くとマイトに視線を向ける。
「マイト、マリッサを守ってくれてありがとう。……さっきのって以前言っていたスキルを使って移動したの?」
「はい。スキルを応用すれば回避とは逆にすぐさま相手に接近することも出来るのです」
「なるほど……マイトのスキルがあれば安心だと思うけど、もしもの時の為に俺もすぐにマリッサを守れるように注意しておくよ」
「ありがとうございます、アモン様」
ひとまず魔物の群れは一層した俺達は馬車に乗り込み、オルテシアに向けて再び進み始めた。
それから何度か魔物と遭遇したが、マリッサは見学に徹してもらいエレナや俺、マイトが魔物の処理に対応した。
そして半日もしないうちにオルテシアの外観が見える場所まで移動する。
「エアリア! あればオルテシアか?」
「えぇ! そうです。あの外壁、間違いありません!」
「……あら、思った以上に早く着いたじゃない」
オルテシアの外観を見ながらマリッサが呟く。
「この速度では当然でしょうね」
エレナがそう言いながらキャスティの方を見る。
「もう限界にゃ~! 早く宿屋に入って休みたいにゃ~!」
キャスティはマナ切れ間近で今にも倒れてしまいそうな表情をしている。
……何はともあれ、俺達は想定の何倍の速さでオルテシアに到着していた。
「はは、早く入って宿屋を探そうか!」
俺はくたびれるキャスティを横目に見つつ関門へと差し掛かる。
「そこの者達、止まれ!!」
関門を守る門番が俺達に立ちはだかる。
「メルトリアから来ました。中に入ってもいいでしょうか?」
「待て……荷台の中を確かめさせてもらう」
それから門番の厳重な荷物チェックが始まる。
「食料と、衣服や回復薬か……うむ。問題のあるものは持っていないようだな」
「当然ですよ」
俺が答えると、次は身体チェックが始まる。
「……ちなみに変なところを触ったら殺すから」
「わ、わかっておる!」
エレナは無駄に門番を怯えさせていた。
ほどなくして身体チェックも無事に終わり、俺達は通行料を払いオルテンシアの中へと入っていった。
「へぇ……壁の中は栄えているんだね」
街の中は綺麗な建物ばかりで美しいの一言に尽きる街並みだった。
「そうですよね! 貴族の方が大勢住み着いていらっしゃいますから、とても高価な建物ばかりが立ち並んでいるんですよ!」
「そうみたいだね。それじゃ、宿屋を探して馬車を置かせてもらおうか」
「はい!」
俺達はそれから宿屋へ向かい、ひとまず1部屋を借りると馬車を置かせてもらった。
部屋に入ると、俺はディアマトをベットに寝かせる。
「……ちょっと待っててね、ディアマト」
「もう疲れたにゃ~!」
――パフンッ!
すると、空いたベットにキャスティもダイブして柔らかそうな布団に包まれていた。
「そっか~、今から晩飯でも食べに行こうと思ったけど、キャスティはお留守番か……それなら仕方ないなぁ」
俺はベットにダイブしたキャスティに勿体ぶりながら話す。
すると、すぐにガバっと起きるキャスティ。
「ご飯! お腹も減ったにゃ! 私も行くにゃ!」
「ははっ、それじゃ早く行こうかキャスティ」
俺達は宿屋から出ると少し歩き、店が並ぶ通りに出る。
「……ん~、あの店にしようか」
俺は目についた料理店を指差すと、皆も頷き店の中へと入っていった。
マリッサが物珍しそうに店内を見渡していると、とある客の1人がマリッサに声を掛けてきた。
「……もしかして、マリッサ姫ではありませんか!?」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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