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37 勇者アリシアの実力

アリシアは俺達を横目に視線を向けると元気よく話しかけてくる。


「どうやら、間に合ったみたいね!」

「……ア、アリシア様……?」


目の前に立つアリシアを見上げながらマイトが呟く。


「もう大丈夫よマイト。後は私に任せなさい!」

「……申し訳……ありません」


アリシアは力強い返答をすると、マイトは小さく謝罪をして意識を失った。


「……マイトっ! ねぇ、マイトったら!」


マリッサは血が衣服に付着するのを気にもせず、意識を失ったマイトを抱きかかえ何度も問いかけた。

そんな中、少し遅れてアイネも駆け付けてくる。


「兄さん! 無事なの!?」

「アイネ! どうしてここに?」

「私たちはワープホール先で朝から特訓をしていたんだけど……この街に戻ってきたら街の人はいないし……不穏に感じていたら突然マイトの叫び声が聞こえたから駆け付けたのよ!」

「そうだったのか……ありがとうアイネ!」


アイネにお礼を伝えた後、俺はアリシアに視線を戻して大男の特性を伝える。


「……アリシア! 気を付けて、その男は離れていても斬撃を撃ってくる!」

「えぇ、わかったわ!」


アリシアはすぐに眼前の黒装束の大男に視線を戻す。


「……特訓から帰ってきたと思ったら……あなた達は誰なの?」


アリシアはバルディと鍔迫(つばぜ)り合いをしながら黒装束の大男に問いかける。


「アリシア……お前がアリシアか。俺はバルディ・ブロッサムだ」

「私はアリシア・キャンベルよ。……マイトに酷い事してくれたようね」

「……俺達は裏切り者であるマイト・スタインを粛清しているだけだ。……邪魔をするというのなら、お前でも容赦はしない」

「そう……だったら邪魔させて貰おうかしら!」


すると、アリシアは力強くバルディを短剣ごと薙ぎ払う。


――ズサァ!

バルディは少し後ろに飛ばされるが踏みとどまる。

そして、冷静にアリシアを見据える。


「……仕方ない。ならばお前も殺すとしよう」

「出来るもんなら、やってみなさいよ」

「――参る」


バルディはすぐにアリシアがいる方向の空間に向かって短剣を斬りつける。


――キイィンッ!

すると、アリシアはその場で剣を振り落とし相手の斬撃を弾く。


「……へぇ、面白いわね。斬撃を衝撃破で飛ばしてくるなんて」

「俺のユニークスキルさ。超振動で何物でも相手に届かせることができる。……こういうものもなっ!」


すると今度は思いっきりその場で正拳をアリシアの方角へと放つ。


――バシィンっ!

アリシアは剣で衝撃を受け止めるが、正拳の威力が高いのか少し後ろに下がる。


「……ふぅ、バカ力ね。でも、どうって事ないわ」

「ほざけっ! そのような戯言を言えるのは今だけだ」


アリシアとバルディの戦いが続く中、遅れてクロエが駆けつけてくる。


「皆さん! 大丈夫ですか!?」

「クロエさん! ……すみません、身動きが出来なくなってしまったんです」


エアリアがクロエに状況の説明を行う。


「……なるほど、おそらく干渉(かんしょう)系の能力でしょう。安心してください、今解放して差し上げます」


クロエは呪文を唱え始めると、俺達の立っている地面が光輝く。


「アンチスペル!」


――パリィンッ!

ガラスが割れたような音が鳴り響いたと思ったら俺達は身動きが出来るようになった。

俺はすぐさま手足が動くのを確認する。


「……う、動ける!」

「本当ね! これで動けるわ」

「やったにゃ! これで戦えるにゃ!」

「ほぅ……これほどの術を使いこなすとはの」


他の皆も同様に動けるようになったようだ。

すると、黒装束の細男がフード越しに頭をかきながら話し出す。


「あぁ~あ、せっかく細工したのに壊されちゃ叶わないな。……ま、もっと強力な細工をするだけだけど」


黒装束の細男はそう言うと、再び手を俺達に向けようとする。


「……グラビティダウン!」


――ビタァンッ!

すると、黒装束の細男は勢いよく地面に何かで叩きつけられる。

その拍子で黒装束のフードが脱げて顔が(あらわ)になる。


「……なっ!? なんだ……立ち上がれねぇ」


黒髪のショートで耳は長くエルフ族である細男は、上から見えない何かで押し付けられている。

その為、うつ伏せの状態から立ち上がれないようだ。


「ふぉっふぉっふぉ、させんよ若造」


ドルフは黒装束の細男に手をかざしながら歩いてくる。


「……おじいちゃん!!」


そして、ドルフと一緒に歩いてきたボルティガが黒装束の細男の背中に立つ。


――ズシュッ!

ボルティガは、うつ伏せに寝るエルフ族の細男の目の前に大剣を勢いよく突き刺す。


「ヒィッ!」

「……しばらく、動かない方が良いだろう」


ドルフはボルティガがエルフ族の細男を抑え込んだのを確認すると、術を維持しながらエアリアに話しかけてくる


「うむ、我が孫ながら不甲斐ないのう。こやつらに丸め込まれるとは」

「……ご、ごめんなさい」

「ドルフ、仕方なかったんだ。相手に奇襲されて急にマナが使えない状態になってしまったんだよ」


俺はエアリアの肩を持つように先ほどの状況をドルフに説明する。


「……なんとっ! 確かに魔導士にとってマナが使えないとなると何もできなくなるからの……。今はどうじゃ? クロエの魔法で治ったのではないか?」

「えっ? ……あっ! 本当だ! マナが使えるかも……っ!」


すると、エアリアはすぐにマイトの(そば)へ駆けだす。

……そして、マリッサが抱きかかえるマイトをすぐに治療をし始めていた。


「……エアリア」


俺はそんなエアリアを微笑ましく眺めた後、視線をアリシアに戻した。

すると、アリシアは息を全く切らしていないのも関わらず、バルディは息絶え絶えの様子だ。


「もう、気は済んだかしら? 私は貴方を殺すつもりはないし、あなたは私に傷一つ付ける事はできなかった。……それでいいじゃない」

「……くッ! ……何故だっ! なぜ、俺の攻撃がお前に当たらぬのだ!」

「そんなの簡単よ。……貴方の攻撃がどこに来るのか分かるんだもの。だからこそ、必要最低限の動作で避ける事ができるのよ」

「……なんだと!? お前は未来の事が分かるとでも言うのか!」

「ま、それに近いわね。……もう終わらせましょう――」


――アリシアはそう言い残すと姿を瞬時に消してバルディの背後に移動した。


「……ッ!」


すぐに察知したバルディは短剣を後ろに振り斬るが、残像を斬るだけでそこには既にアリシアはいなかった。


――プシャャ!

すると、バルディの両手からは鮮血が噴き出る。


「グゥッ!」


膝を地面に着くバルディ。


「……これであなたはもう武器を振る事はできないわ。――勝負ありよ」


圧倒されていた黒装束の大男は俺達にも視線を向け、一気に形勢逆転してしまった事に気付く。


「……どうやら引き時のようだ、一旦引かせてもらう。そこの大男の下にいる者を解放してくれないか」

「えぇ……。ドルフ、ボルティガ、お願いできる?」

「仕方ないのぉ」

「承知した」


ドルフは術を解いた後、ボルティガは細男から足を退(しりぞ)けて軽々と持ち上げる。

そしてそのままバルディに向かって投げ飛ばす。


――ガシッ

バルディはエルフ族の細男を受け止める。


「もう、この街には手を出さないで。……次に手を出したら、分かっているわよね?」

「……覚えておこう」


バルディはそう言い残すと、2人は靄の様にぼやけてその場から消え去ってしまう。




2人がいなくなった事を確認したアリシアは俺達に振り返る。


「これで万事解決ね!」

「アリシアさん! ありがとうございます!」


エアリアはマイトを治療しながらお礼を伝える。


「いいのよ。それにしても……マイトは何で狙われていたの?」

「あはは……えっと~……」

「……? アモンは知っているの?」

「あ~……そうだな……」


アリシア達にマイトがスパイだと伝えようか迷っていると、マリッサが代わりに答える。


「アリシア、マイトは狙われた私を守ってくれたのよ。……ただ、それだけよ」


マリッサは眠るマイトの頭を優しく撫でながら呟くのであった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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