20 勇者アリシア
俺達は執事とお嬢様と共に城を出ると、城下町に繋がる大きな橋を渡っていた。
「やったわ! 外に出られるのね!」
「お嬢様、走らないでください!」
お嬢様はお城から出られる事が嬉しい様子だ。
俺は橋を通った先に広がる街並みを眺めながら呟く。
「広い街ですね」
「えぇ、この地域全域は魔法に特化しているこのエクリエル王国が収めているんです」
そしてマイトはエクリエル王国から遥か遠くにある非常に高い岩壁を指さす。
「……そして遠くに見える地平線いっぱいに広がる岩壁の向こうには、武力に特化しているバリョッサス帝国のある領土となります」
「武力に特化している? 魔法は使わない国なんですか?」
「はい。今は平和条約を交わしていますが、昔はお互いに魔法と武力の優劣を比べる為に大きな戦争を行った過去もあるんです」
人間同士でもそんな理由で戦争をするものなんだな。
「そんな事はどうでもいいわマイト! さぁ、早く遊びに行きましょう!」
「お嬢様、目的をお忘れですか? 私たちはアモン様をアリシア様の元へご案内する為に外出が許可されているんです。あまり無暗に動き回らないでくださいね」
「わ、分かっているわよ! マイト、それじゃ早くアリシアの所へ行きましょう」
「はぁ……、それではアモン様とお連れの方達も。付いてきてくださいね」
ため息を吐きながら城下町へと向かうマイトに俺達は付いていった。
城下町に到着すると、俺達はとある酒場に到着する。
「ここは?」
「おそらくここにアリシア様はいらっしゃると思います。中に入ってみましょう」
マイトはそう言うと、店の中へと入っていく。
俺達も続くように酒場に入っていった。
「……あ、いました」
俺はマイトが手を振る先に視線を向けると、軽装を着た銀髪のシニヨンに透き通った青色の瞳のを持つ女性が座っていた。
アリシアの対面に一緒に座っていた人もいたが、後ろ姿で頭を覆い隠す服装をしていたので顔が見えない状態だった。
「あ、マイトじゃない。どうしたのよ」
「アリシア様にお会いしたい方がいまして、お連れした次第です」
俺達はアリシアの傍まで近づいていく。
「会いたい? 傍にいる見かけない子達の事?」
「はい。アモン様とそのお連れの方達です」
「初めまして、アモンと申します。あの、一つ伺いたい事がありまして――」
すると、アリシアの対面に座っていたフードで顔が見えない人が声を上げた。
「――兄さん!?」
その聞き慣れた……とても懐かしい声を聞いた俺は、すぐさま声がした方に視線を向ける。
「アイネなのか!?」
俺は我を忘れて名前を叫んでいた。
「あ、アモン様!?」
「アモンさん?」
マイトやエアリア達は俺の急な応答に驚くが、すぐさまアリシアが声を上げる。
「ちょっと待った!!! ……アモンさん、だっけ? ちょっと場所を変えましょうか」
「……お願いします」
「な、なんなのよ。一体」
状況についていけないお姫様の呟きが響く中、俺達は酒場を後にした。
すぐに俺達は人通りがない裏路地へと移動した。
「……ここでいいかしら。それでアモンさん。あなたこの子のお兄さんなの?」
アリシアはフードを被った女性を指差して質問してくる。
「あぁ……俺の妹だ」
「そう……アイネ、フードを脱いでいいわ」
フードを脱ぐと、もう二度と会う事が出来ないと思っていたアイネがそこにいた。
「……兄さん!」
「アイネ!」
俺とアイネは共に駆け寄る。
だが、フードを脱いだ事でアイネの隠していた角がむき出しの状態となる。
「ご覧の通り、彼女は魔族よ。私が監視として行動を共にしている訳だけど……」
「……つまり、アモン様は妹さんを探しにこの街へと来た。という事でしょうか?」
マイトは冷静に状況を分析する。
「あぁ、俺もアイネと同じ魔族だ。俺達は――」
それから俺は皆に俺が魔界でどう育ってきたのか、何故人間界にいるのかを説明した。
「――そして俺は人間界に飛ばされて今に至る。という事だ。魔族である事を隠していて悪かった」
俺は謝罪と共に頭を下げる。
「そ、そんな……頭を上げてください、アモンさん!」
「そうよアモン」
「そうにゃ!」
俺は驚きながら頭を上げる。
「お、怒らない……のか? 嫌悪感などは!?」
「ありませんよ! ……それに、実は私はお会いした時からアモンさんの正体に気付いていましたからね」
エアリアは思いもよらない事を言い出す。
「えっ!? そうなのか?」
「はい。エレナさんを探した時にも話ましたが、私にはマナ感知というユニークスキルがあります。このスキルによって相手のマナを視覚的に見る事ができますし、いる場所も把握する事ができるんです。だからこそ、アモンさんとお会いした時から異常なほどのマナ量だったので魔族であることは分かっていました」
「……そうだったのか。でも、それなら何で一緒に行動してくれたんだ!?」
「それは……アモンさんがとてもお優しい方だったからです!」
エアリアはニコっと微笑みながら話す。
「優しい……?」
「はい! 人間の中にも良い人もいれば悪い人もいる。それは魔族も同じで良い魔族もいれば悪い魔族もいる。……ただそれだけです。私はアモンさんが魔族だからといって避けたり、遠ざけたりは絶対にしません!」
エアリアは両手を握りしめながら力説する。
そして、エレナもエアリアに続けて話始める。
「……あたしもちょっと驚いたけど、気にならないわ。アモンはアモンって感じかしら」
「わ、私も……っ! ……アモンさんを嫌いになるにゃんてできないにゃ!!」
キャスティは魔族に故郷を滅ぼされているにも関わらず、俺を受け入れてくれた。
「ふふ、我も同意見じゃ。主様は主様じゃからの。これからも付き従うだけじゃ」
「みんな……ありがとう」
俺は胸から熱いものが込み上げてくるのを感じながらアリシアに視線を向ける。
「……でも、アリシアさん。何故妹を――アイネを処刑せずに守ってくれていたんですか?」
「……それは……私と似ていたからよ」
アリシアは俯きながら昔を思い出す様な表情をしながら語りだす。
「前の戦いでアイネは他の魔族から見て分かるほどに囮として人間界に残されたわ。そんなアイネを私達のパーティは取り囲み、私がアイネにトドメを刺そうとした時……アイネはアモンさん、あなたに助けを求めたの」
「……俺に助けを?」
「えぇ、それを聞いた私は振り上げた剣を下げたわ。そして一先ずアイネを捕らえる方向へ進ませるように他の人たちを説得したの」
「なぜ、そこまでしてくれたんですか?」
「……私にも幼い頃、離れ離れになったお兄さんがいるのよ」
「えっ!? アリシアさんにもお兄さんがいらっしゃるんですか?」
アリシアは少し寂しいような懐かしいような表情を浮かべながら話す。
「えぇ、今でもどこで何をしているか分からないけどね。……でも、ずっと探し続けているわ」
「……」
マイトさんは今にも暴走しそうなお嬢様の口を押えながらアリシアさんの言葉を静かに聴いていた。
「そんな自分と重ね合わせちゃったのよ。甘いわよね。我ながら……」
俺はアイネを守ってくれたアリシアさんに駆け寄って両手を優しく掴む。
「そんな事ありません! ……アイネを助けてくれて、本当にありがとうございます……っ!!」
「……兄さん」
俺は全力で気持ちを込めた感謝をアリシアに伝える。
「ふふ、いいのよ。それから牢獄に囚われたアイネといろいろ話をしたわ。お兄さんの事や魔界のこといっぱいね」
「本当に……一杯話したわねアリシア」
アイネも思い出しながら話す。
「……それからアイネを処刑する話も出たのだけど、私が監視をするという条件付きで処刑が免除されて今に至るって感じよ」
「……そうだったんですね」
話終えたアリシアにエアリアが呟く。
「……でも、アモンさん。あなたはこれからどうするの? 妹さんとは会えた訳だけど」
「はい。俺も先ほど話したように魔族が人間界に攻め込むのは本意ではありません。その根本的な原因を断ちたいと思っています」
俺はサタニアの顔を思い出しながら話す。
「……なるほど。要するに私たちと目的は同じという事ね。……いいわ。それじゃ早速、私の仲間を紹介しないとね」
「仲間……ですか?」
「えぇ、とっておきのね。付いて来なさい!」
そうアリシアは言うと、歩き出した。
「あ、待ってください!」
俺達はそんなアリシアの後を追いかけた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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