表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

代行!呪い、かけます

『代行!呪い、かけます』



私たちは、呪いを専売特許にしている怪しい商売だ。


というか、詐欺に近い。


呪い、という響きに釣られた客をだしにして、


呪いをかける的な儀式っぽい何かをする。


そしてお金をもらう。


お客様は晴れた表情をしてお帰りになる。


でも実際には何もしていない。



「ちょろいよね」


「こんな儲かるとはな」



悪ふざけが得意な悪友の2人と適当に始めたアルバイトのような商売。


普通にアルバイトするより儲かっていた。


私含む3人とも、呪い儀式ごっこを数回やったらすぐに辞めるつもりだったが意外にも客の評判がよく


数か月経った今も続いていた。



ある日、客がきた。


髪が腰まで伸びていて、色白でほっそりとした薄汚い女性だった。



「呪い、ですか?」



私が聞くと



「はい」



静かな声で女性は言った。



(どうやらコミュニケーションはとれるらしいな)



もめ事を起こさないために、簡単なやりとりすらできない客の呪いの頼み事はお断りしていた。


唯一のルールだ。


女性からの依頼は、あの男性がむかつくから呪いをかけてくれ、ひどい目にあわせてくれという


なんともありきたりな依頼だった。



「わかりました、ではこちらへ…」



契約のための名前を一筆書いてもらってから


奥の部屋に通して、魔法陣の中央にある椅子に座らせる。


あとは悪友が白いバサバサする祈祷師が持ってそうなやつで動き回ったり、


奇声を上げて客の周りを走り回ったり、写真に釘うったり塩まいたりした。


怪しまれないコツは全力でやることと、自分を騙す気分でやることらしい。


いつも、この呪い儀式ごっこをみるたび、私は笑いをこらえるのに必死だ。



「ありがとうございました」



儀式が終わり、1万円以下のお金を払ってもらって終わりだ。


金額は一律。リーズナブルな呪いだ。


薄汚い女性はすんなりと帰って行った。


顔は見えなかったが、これですっきりしただろう。




それから一週間後、


私がポストを開けると、何かあった。



「うわ!!」



虫だ。虫がポストに入っていた。


うねうねしたミミズからカブト虫の幼虫らしきもの、あと煮干しも入ってた。



「ありえんよねマジー」



悪友に愚痴っていると



「え、お前も?」



と言われた。



「ポストに虫入ってたのよ」


「私も私も」


「バッタだったぜこっちは」



どうやら私たち3人ともポストに虫が入っていたらしい。


きっと、エセ呪いがばれて、お客様の恨みを買ったんだろう。とんだいたずらだが



「別に虫慣れてるしな」


「ね」



いたずらが好きな私たちは、虫なんて幼少期から触っているため、耐性があった。



「虫は無視!」


「はいつまらん罪でおごりな」



その日はつまらない会話をして過ごした。


ところが、次の日も次の日も



「うわ…またか」



またポストに虫が入っていた。


さすがに一週間も続いているとうんざりしてくる。



「一週間か」



私たち3人は相談して、犯人を突き止めることにした。




翌日、朝方に張り込んでいると



「おい、星をみつけましたぜ」



すぐに犯人は見つかった。


私の家のポストにごそごそと何かを入れている女性。



「この間の客じゃん」



薄汚い髪の長い女性だった。



「問い詰める?」


「いや、泳がせてみよう」


「楽しんでるでしょあんたら」



探偵ごっこを楽しみ私たちはその女性を尾行した。


すると、どうだ。



「あいつ…他の家にも同じことやってる」



私たちの家だけでなく、通りすがる家のポストすべてに虫を入れていた。


虫の入れられた数は30軒以上だ。



「うわぁ」


「どうする?」


「やべーやつじゃん」



自分たちのニセ呪い事業で起こったことだから、自分たちでケリをつけようと思ってはいたが、


どうやら無差別虫テロだったらしい。


手に負えないため、写真をとってすぐに警察に相談することにした。



「あのー、実は私たち、嫌がらせをされてまして…」



警察の人は意外にも親身になって話を聞いてくれた。



「実は、あなたたち以外にも同じことでご相談にこられた人が何人もいるんです」



と警官は言った。


だろうな、と思った。


話し合いの結果、警察が次の日に厳重注意をしにいって様子を見る、という結論になった。



しかし、ひねくれた私たちは、警察が本当に厳重注意をしてくれるのかを疑っていたので


明日も張り込みをすることになった。


探偵気分が抜けきってないのである。


尾行のせいかのため、薄汚い女性の住所は知っていた。


翌日。



「きましたぜ!」



早朝に張り込んですぐ、警官はやってきた。



「あんぱんと牛乳が無駄になったな」



たわいもない会話をしながら遠くから見張る。


薄汚い女性が住んでいるアパートのドアをノックする。


しかし、誰も出てこない様子。



「何か電話してない?」



警察官は電話をした後、驚く行動をした。


なんと女性の部屋のドアを蹴りはじめたのだ。


私たち3人は突然の行動にキョトンとする。



2分後、サイレンの音が近づいてきて、パトカーと救急車がやってきた。


パトカーから出てきた重々しい道具でドアを破る。


そして部屋の中に数人の警察官が入って行った。


ここらで周りの野次馬が集まってきた。



「ちょ、おい!」



私は気になって友人の制止を振り切って、見張りの警察官の一人に声をかけた。



「な、なにかあったんですか?」



警察官は厳しい顔をして



「知らないほうが幸せだ。早く帰りなさい」



と一蹴されて帰らされた。


私たちは渋々帰った。




次の日、真相を知った。


事件があったらしい。


アパートで見つかったのは女性の変死体。


情報提供を求めるニュースが流れていた。


そのため調べたら、ある程度の事件の情報が公開されていた。


犠牲者の名前は、約2週間前に私たちの元へやってきた薄汚い女性と同じ名前。



そして、この死体は、死後一か月以上経過していたということだった。



時間が――合わない。



2週間前に私たちの元へやってきた女性。1か月間に死んだ女性。

公開された写真から見る身体的特徴も一致している。



私たちの元へやってきたあの時、女性は、本当に生きていたのか?

それとも…死?。

考えただけでゾッとする。



「やべえよ」



その後、私たち3人はこの代行呪いの商売をやめた。


数年たった今でも、この事件の犯人は見つかっていない。


真相は誰も知らないし、知りたくもなかったので、忘れることにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ