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かくれんぼの館

夏のある日の夕方のことだった。


「お姉ちゃーん。やかたにいきたいの」


「ん?今から?」


「うん!」


「いいよ、ついて行ってあげる」


「やったー」


私は弟の手をひいて、館に向かった。


私の住む地域には『かくれんぼの館』という建物がある。


保護者がいれば古くなった館全体を使ったかくれんぼができるという、子ども向けの地域サービスだ。


「今日は誰と遊ぶの?」


「んっとねー、あっちゃんといっくんとうっちゃんとー…えーちゃん!」


「お友達いっぱいだねー」


「うん!」



12個下の弟とたわいもない会話をしているうちに、かくれんぼの館に着いた。


山の木々に囲まれた館。

入り口には、檻のような大きな門があって、すぐ横に古民家がある。

そこの庭の縁側でおばさんが入り口で見張っていた。


「いらっしゃい」


不審者が入らないようにの安全のための見張りだ。


「お邪魔しまーす」


「おじゃまします」


弟は私の真似をしてぺこりと会釈をした。


「もうみんな入ってるよ」


「あら、じゃあ行ってきて」


「うん!」


弟は門をくぐりぬけ館のほうへ走って行った。



「座るかい?」


「うん」


おばさんの隣に座って、スマートフォンをいじいじした。


私も小さい頃はここでよく遊んだな。



このかくれんぼの館にはちょっとした怖い話がある。


ここで遊んできた子どもたちは、決まって『男の子のふみくんと遊んだ』というのだ。


『ふみくん』という名前の子はこの地域にはいない。


遠くから迷子かと思い大人たちが館を捜索した時もあったが、人影などなかった。


このことに大人は気味悪がったが、子どもは平然としていて、特に『ふみくん』に何かされたとかない。

不思議な存在だった。



「ふみくんって誰なんだろーね」



女子高生の私にはわからない謎だった。

でも特別知りたいとも思わないし、幽霊も信じていない。



弟を待ってスマートフォンをいじっていると、意外にも



「お姉ちゃん」



弟がすぐに帰ってきた。


「どうした?まだ五分くらいしか経ってないよ?」


「あのねーえっとねー」


弟は話しづらそうにもじもじしている様子だ。


「怒らないからお姉ちゃんに言ってみな?」


「うん…あのね、ふみくんがね。今日はすぐに帰っていってね」


出た、ふみくんだ。


「ふみくんがそう言ったの?」


「うん…怒られちゃった」


「怒られた?」


「うん…」


弟はしょんぼりしている。こりゃ遊ぶ気分じゃなさそうだ。



「じゃあ…帰ろっか。他の子は?」


「ばいばーい!!!」



ちょうどその時、他の子どもたちが門から出てきて私たちに手をふって帰路を通って行った。


1,2、3,4……私は数えた。

あっちゃんといっくんとうっちゃんとえーちゃんで4人。

よし。全員、館から出ていったな。


「お姉ちゃんかえろー」


「あ、うん」


私たちも帰ることにした。



私は帰り道に、3人で館に入って行ったのに『4人で遊んだ』という子もいた話を思い出した。


というかそう発言したのは当時4歳の私らしい。


あまりにも4人で遊んだ!4人で遊んだ!とうるさかった私を両親はよく覚えているらしかった。



自宅に着くと、まだ日が出ているのに暗くなり、怪しい雲行きになった。


「なんだかりそうだ」


弟と一緒に手を洗っていると


ザアアアアアアアアアアァと強い音が聞こえた。


雨か――。


ゲリラ豪雨というやつだろう。けたたましい雨音だ。

ゴロゴロと雷が鳴る音も聞こえる。


「怖いなあ」


早く帰っていなかったなら、この豪雨にうたれていてびしょ濡れになるところだった。

危ない危ない。


「かみなりー」


弟は興味津々に窓際から外を見ていた。



ーーーーーーーーーーーーーー



「あんた、昨日この辺に雷落ちたらしいよ」


翌日、母親が言っていた。


通りすぎた嵐の出来事なんてどうでもいいことだった。


登校中、歩いていると、道に人だかりできていた。


「かくれんぼの館が…」


通り過ぎる時、人だかりのほうからそう聞こえた。


まさか。

私は気になってかくれんぼの館のほうへ行った。



到着すると、かくれんぼの館が半壊していた。


窓のガラスは割れていて、床や地面にガラスの破片が散乱している。

雷でも落ちたのか、館の上のほうは黒くなっている。

館の右側なんて、崩れていて、建物の中がむき出しになっていた。



昨日に見た建物がまったく別の姿になっていたことに驚いたと同時に、気が付いた。


昨日、もしすぐにかくれんぼの館から帰らずかくれんぼを続けていたとしたら、

弟たちは館の中で雨宿りをするはずだ。


そしてその時に館が崩れていたら、弟や子どもたちは……。



そう思っていると館に人影がちらりと見えた。


私は走って門のそばに寄って、館の様子をうかがう。


……誰もいない。


「さようなら」


男の子の声が、空から聞こえた。


周りには私一人しかいなかったのに声が聞こえた。


「…ふみくん?」


私は小さく問いかけたが、答えは返ってくることがなかった。




後の話だが、『かくれんぼの館』は取り壊されることになって、敷地の広い空き地となった。


その空き地はまたもや、子どもたちの遊び場となっている。

ちょうどいい空間らしい。



そしてその空き地で楽しく遊んだ子どもたちは変なことを言うようになった。


空から男の子が笑い声が聞こえるね、と。


私は幽霊はいるんだと思った。

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