かくれんぼおじさん
小学1年生の俺はいわゆる、鍵っ子というやつ。
学校から帰ってきて夜の9時前くらいまでいつも一人。
でも時々、お母さんが帰ってくる前に
「かぁーくれんぼしーーーましょ」
と男の人の声と玄関のドアが開く音が聞こえる。
きた、かくれんぼタイムだ。
わくわくした俺は急いでクローゼットの中に隠れた。
クローゼットの隙間から帽子を深くかぶった長袖長ズボンのおじさんの姿が見えた。
あのおじさんとは友達だ。
ある日、突然あのおじさんが家に入ってきたから、お話をした。
「おじさんはね、かくれんぼしにきたんだ」
「かくれんぼ?」
「やってくれるかな?」
俺は一人で家で待つのも退屈だったので
「いいよ!」
と言った。
「じゃあおじさんが鬼ね。かくれんぼしましょってゆっくり言うから、その間に隠れてね。おじさんが君を見つけたらおじさんの勝ち。隠れきったら君の勝ちね」
「うん!」
「かーくれんぼ………」
最初のかくれんぼはこんな感じだった気がする。
それからおじさんは家に入ってくる時があって、かくれんぼしましょというから俺は隠れてる。
隙間から見えるおじさんは、机の引き出しや棚をひらいて、俺を探してる。
ぷぷ、そんなところに俺が隠れてるわけないよ!
だってそんな小さなところに隠れることできないもん!
それからちょっとして、おじさんは帰っていった。
やった!俺の勝ちだ!
俺は喜んでクローゼットの中から出た。
こういうことがたまにある。
退屈しなくてラッキーだ。
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次の日の朝、お母さんが困っていた。
「あれ?ここにしまったんだけどね……」
何かをなくしてしまったようだ。
困ってた人を助けなきゃ!
だから、俺も一緒に探したけど見つからなかった。
「あ、そうそう、泥棒が最近このへんで出たって」
「へー、怖いわねぇ」
朝食を食べながらお父さんとお母さんが会話した。
「気を付けないとなぁ」
「うん」
「いってきまーす!」
元気よく学校に行った。
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この日の夜。
「かーくれんぼしーーーーましょ」
ガチャガチャと鍵を開ける音の後に、おじさんの声だ。
かくれんぼタイムだ!
俺は見ていたテレビを消して、わくわくして、急いでベッドの下に隠れた。
ドキドキするなあ!
隠れているとベッドの下からおじさんが見えた。
おじさんは、何か持っていた。
お母さんが料理するときに使う、白くて鋭くて危ないから触っちゃだめってやつを持ってた。
料理の途中だったのかな?
ドスドスとおじさんの足音が響き渡る。
おじさんの息も荒い。
どうやらおじさんは困っている様子だ。
そういえば、困っている人がいたら助けてあげよう
って学校で習った!
だから、俺はベッドの下から出よう
と
したが…
……なぜだか、怖くなった。
ベッドの下から出ちゃいけない気がした。
ドスドスと激しく歩き回るおじさん。なんだか怖い…。
そう思っていると、おじさんはすぐに出ていった。
ベッドの下から出た。
うわあ、部屋の中がぐちゃぐちゃだ。
おじさん毎回、散らかすのはやめてほしいなあ。
お片付け、面倒くさいなあ。
でも片づけないと怒られちゃうな…。
そう思っておかたづけをした。
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翌日、泥棒が捕まったと学校で噂になった。
あきすはん?っていうのらしい。はものを持っていて危なかったって。
「ただいまー」
学校から帰ってくると、お父さんとお母さんがいた。俺より先にいるのは珍しい。
お母さんとお父さんは、深刻な顔をしていた。
聞いてみるとうちに泥棒が入ったんだって。
誰か入ってきたか聞かれたので、
「かくれんぼおじさんが入ってきたよ」
と答えると、両親の顔が青ざめていった。
この後、初めて警察に行ったんだ。
パトカーには乗れなかったから残念。
警察から家に帰ってきたら、お母さんにぎゅっとされた。強くて痛かったな。
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次の日から、お母さんが早く帰ってくるようになった。
一人の夜じゃなくなって俺はうれしかった。
でもガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえると、またかくれんぼおじさんが来てくれると思って、
遊んでくれるかと思ってわくわくするけど、いつもドアからやってくるのはお母さんだ。
そんな無知だった俺の小さい頃のお話。
終わり