リーシャ、手軽な萌を補給する。
(アリエル視点)
暖かい光が部屋を覆った。それは神秘的な程で、俺は目を見開いた。
呆然としていると、リンは笑った。
その笑みすら今となっては美しく見えた。
「足、どう?」
声を掛けられてハッとする。
ずっと引き攣れるように感じていた右足の違和感が無くなっていた。
目の前のリンのことすら忘れ、立ち上がる。
痛みは、無い。
歩く。違和感もない。
ーーいっそ。無理なく歩けることに逆の違和感を抱くほど。
そこに怪我などなかったかのように、俺の足は言うことを聞いた。
どれほどリハビリしても、どれほど金を積んでも治らなかった足。
これを治せるのは、王宮の医師の中でも随一のただ1人しかいない、と言われた。
治らないはずの足だったが、今、動いている。
クスリと笑い声がした。
目の前に、笑う1人の女性がいた。
足を見て哀れそうにしていた。偉そうに身分を笠にし、脅して俺を呼び寄せた。
けれど、そうして彼女がしたのは俺の足を治すことだった。
「聞くまでもなさそうね。治ってよかったわ」
「・・・・・あんた、は」
「ん?どう?私に恩が出来たでしょう」
にこやかなリンが一層不思議だった。
脅し方によっては俺は奴隷のように動いたことだろう。例えばもう一方の足を怪我させて治してみせるとか、力を示してそれを餌にしたり。
大恩だ。どれほど望んだものかリンにはわからないのだろう。
それに、この力は危険だ。どうしてこんな力を持っているのにコネを俺から作ろうと?
いや、複雑な家庭環境らしいことを言っていた。
こんなに強い力を持ったこの娘の立場が悪いなんて、どういうことなのか。
「リン・・・・お前は、いや、あなたはどこの家の?」
「やだ、普通に喋ってよ。偉そうなのも萌えてるのに!家の事は秘密。身分を言い触らしたいわけじゃないのよ」
「待て、あなた・・・・・、お前、の家名によってはその複雑な環境だって、なんとかなるかもしれねえんだ。俺の家を知ってりゃある程度融通きくのはわかるだろ」
「まあ」
コロコロ笑うリン。
おかしそうなその笑い方が不思議だった。
「いいのよ、私も被害者だけど、あの人が全部悪いわけじゃないのも知ってるの」
「・・・・・じゃあ、なんだ?俺の事を治して何を見返りに求めるつもりだったんだ」
「ああ、ええと」
彼女は少し考えた。
おかしな事だった。見返りを求めて助けたなら、すぐに要求しておかしくない。
だが彼女は俺の足の具合を尋ねて、わざとらしく恩があると言っただけ。
ーーまるで、ただ俺の足を哀れんで助けてくれただけのようだった。
そして、それを裏付けるようにリンは言った。
「具体的なことは考えてなかったや。あなたの足が治って、ついでに素敵なツテができたらくらいの気持ちだったの」
彼女は、ほんとうに?
「見返りも、なく?」
「ううん、だって・・・・・あ、そうだわ!」
彼女は目を輝かせて手を打った。
輝かしい顔で、俺を見つめた。
「ハグしてもいいかしら!」
「・・・・・は?」
「いえ、とってもあなたがこの・・・・・いいえ、あの、そう。難しいおうちで、うちじゃ口を聞いてくれるのは弟くらいなの。その弟とも最近喋れるようになったばかりで・・・・・だから、その人肌恋しい的な?」
目をウロウロさせてしどろもどろに彼女は言った。
恥ずかしそうに。
リンは、寂しい人間なのかもしれない、と思った。貴族家庭にはよく聞くが、親の愛を受けられずに育ったのだろう。
ーーーこんな、見ず知らずの男に抱きしめて欲しいほどに。
胸が苦しくなって、俺はリンに歩み寄った。
小柄で、ありふれたブロンド。顔立ちも整ってはいるが目を引くほどではない。
けれど彼女は高潔だった。
たまたま出会った俺の足を治してみせ、その対価がただのハグだと。
「・・・・・抱き寄せろと?」
「いいの?」
少しこはずかしい雰囲気の中、彼女はするりと俺の腕の中に収まった。
「ううん、いい感じ。誰かにまともに触ったのってとっても久しぶりだわ」
ほうとため息をつく彼女は不思議と美しかった。
そんな彼女をじっと見つめていると、目が合った。
彼女はあけっけらかんと笑うと言った。
「あ。言っておきますけど、私は普通に婚約者がいるし、好きになってもむだですからね」
「・・・・・お前、モテないだろ」
はあ、とついた溜息はそれでも何故か楽しそうだった。
誰かこんな小娘にと思いながらも、抱き締めた腕をそっと閉め直し、序に締め上げておいた。
え?だってそれが許されそうなら好みの男の子ハグしません?私はする。




