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おしゃれに心揺れる少女の話


名もなきスピンオフ第2段です。「弾」の方が正しいのかもしれませんが、あえて段落の「段」でお願いします。

時系列はバラバラですのでご注意を。






 私たちの氏族では、役立つかどうか、ということが小さな頃に決められてしまう。

 そして、役に立たないのであれば、口減らしとして、氏族から追い出される。

 それが大草原で生きる者の、普通。


 私が4歳のとき、ナルカン氏族からモイムさまが嫁入りなさった。

 その時、私は、モイムさまの美しい姿を一生忘れないだろう、と思った。

 見たこともない、真っ白な、美しい布でつくられた衣装。

 何色もの色川石の飾り。

 嫁入りに力を入れるということは、なんとなく知ってはいたけど、それが形になるとこんなにも素敵なのだと。

 しかし、母や姉に言わせると、あの美しさは別格だという。

 母や姉でさえ、あんなに美しい白い布は見たこともないし、あんなにたくさんの色川石での飾付けも初めて見たらしい。

 私にとっては、全てが初めてだったので、比べようもなかったが・・・。

 ナルカン氏族というのは、なんだかとてもすごい氏族のようだ。


 母が言うには、ナルカン氏族のことはよく分からないらしい。

 少し前に、チルカン氏族と争って、これをあっさりと打ち破り、屈服させたらしい。

 でも、その、さらに前には、大森林の部族とも何かもめていて、そのときは、手も足も出ずにやられて、たくさんの羊を奪われたという。

 ナルカン氏族は強いのか、弱いのか、すごいのか、すごくないのか、よく分かんないね、と姉が言った。

 そうかもしれない。

 でも。

 ナルカン氏族はすごいと思う。

 だって、モイムさまの美しさは、母も姉も、見たこともないような美しさだったのだから。

 ナルカン氏族は強いと思う。

 だって、チルカン氏族をあっさり打ち破って、屈服させたんだもの。

 そう考えたら。

 本当に強いのは、大森林なのではないかしら・・・。




 ある日、夜がなんだか騒がしいと思ったら、翌朝、氏族の馬や羊が逃げていなくなっていた。

 大草原で暮らす私たちにとって、羊とは食糧そのものだ。

 このままでは、冬を乗り切れないかもしれない。

 いつもよりも多くの子どもたちを口減らしで氏族から出さなければならない。

 大人たちは話し合い、そして、チルカン氏族の話題が出た。

 一年前、似たような状況になったチルカン氏族は、その頃、大森林と争って敗れたばかりのナルカン氏族に攻め込み、羊を奪おうとしたという。

 以前、聞いたことはあったが、そういう話だったのか、と納得した。二つの話は別々のもののように語られていたのだが、実はつながっていたのだ。

 自分たちも、どこかの氏族に攻め込むのか。

 それとも、辺境都市へいつもよりも多く、ひょっとすると、今の子どもたちのほとんどを口減らしで氏族から出してしまうのか。

 大人たちの話は、私の運命につながる。

 氏族に残ることができるか、それとも口減らしで氏族から出されてしまうか。

 正直なところ、私はあんまり氏族の役に立たない。

 羊の世話も、見張りもうまくできないし、羊毛の処理も遅くて、作業の足手まといだ。

 たくさん口減らしが行われるのであれば、私は間違いなく、氏族から出されてしまうと思う。

 ・・・辺境都市では、ひどい目に遭うと聞いている。

 私は自分の体をぎゅっと抱きしめた。


「ナルカン氏族へ。族長のドウラにいさま、そして、ニイムおばあさまに使者を出しませんか」

 その言葉を、かわいらしいお声で響かせたのは、昨年、あの美しい布の衣装で嫁入りされた、モイムさまだった。「ナルカン氏族なら、食糧の支援ができると思います」

「それは本当なのか?」

「戦いに敗れたチルカン氏族は、ドウラにいさまに娘を差し出し、恭順を誓いました。ドウラにいさまは攻め込んだチルカン氏族を許し、食糧を支援したのです。攻め込んだチルカン氏族でさえ、助けたのです。もちろん、何らかの借りはつくることになるでしょうが、攻め込んだりするのではなく、使者を送って助けを求めれば、支援は受けられるはずです」

 モイムさまのそのお言葉で、大人たちの雰囲気はがらりと変わった。

 反対派も少しはいたのだが、反対するだけで、解決策は何も示さなかった。

 だから、ナルカン氏族への使者は大急ぎで旅立った。


 結果として、私は大森林へと行くことになった。

 氏族はナルカン氏族からの食糧支援を受け、羊の貸付も受けることができたのだが、氏族同盟に加わることを約束させられ、さらに、口減らしの子どもたちは、ナルカン氏族を通じて、大森林へと送られることが決まったという。

 辺境都市ではなく、大森林とはいえ、口減らしの子どもたちが送られるところだ。

 大したちがいがあるはずもない。

 私には氏族が求める才能がなかった。

 それだけのことだった。

 氏族は生き延びたが、私は氏族を追い出された。

 大人たちは、これでモイムさまは、子どもを産めなかったとしても、ナルカン氏族に戻されるようなことはないだろうと言っていた。

 あんなにキレイな衣装を着て、モイムさま自身が何かの役に立たなくても、ナルカン氏族が強いから、食料を分けてくれるから、という理由で、モイムさまは守られているのだ。

 氏族を追い出される私にしてみれば、なんだかちょっと納得できない。

 でも、それが大草原。

 そうとしか言えない。




 ナルカン氏族までの旅路は、おなかがすいたなあ、という記憶しかない。

 口減らしの子どもたちが、私と男の子が五人で、合計六人。

 女の子は私だけ。

 他の女の子は、まだまだ「使い道」がある、らしい。

 氏族の大人たちはそんなことを言っていた。

 一番やせて、一番不器用で、一番弱いのが、私。

 氏族の役に立たない私。

 なんだか、自分が本当にいらない人間なんじゃないかと思えてくる。


 ナルカン氏族まで私たちを連れていく大人は一人だけ。

 その人が、私たち、特に私に向ける目は、まるでゴミでも見ているかのような感じがする。

「辺境都市まで行けたら、ちょっとはうまいもんでも食えたかもしれねえってのに・・・」

 氏族に捨てられ、追い出される私たちに聞こえているのに、大人って、自分が美味しいものを食べられるかどうかの方が大切みたい。

 そういう大人の姿を見ると、なんだか、氏族のことなんて、どうでもよくなってくる。


 ナルカン氏族のテントにたどり着いたら、私たちを連れてきた大人は、そのまま折り返してすぐに帰って行った。

 大森林までは来ないらしい。

 ナルカン氏族での食事もとらず、すぐに帰る。失礼な人だな、と思う。

 ナルカン氏族では、スープを飲ませてもらった。うすい色なのに、なんだか美味しい。体の奥から力が湧いてくるような、不思議な温かさ。なんだろう? どうやらイモのスープらしい。

 これを飲まずに帰ったあの人。

 ふふ。なんだか嬉しい。

 こんなに美味しいって、知らなかったんだね。

 どうぞ、お気を付けてお帰りくださいな。


 氏族から送られてきた女の子が私一人だということで、族長のドウラさまのお姉さまだというライムさまが、私を身綺麗にしてくれた。身体をふき、髪を結んでくださる。

 私は驚いた。

「どうしたの? 目がびっくりするくらい大きくまん丸に開いてるわ?」

 ライムさまから、私の目がそんな風に見えたらしい。

 びっくりしたのは、ライムさまの服。

 あのとき、モイムさまが着ていた、あの美しい白い服よりも、もっと白くて、つやつやで。

 思わず、手を伸ばして触ってしまった。

「っ! ・・・ご、ごめんなさいっ!」

 やってしまった!?

 叱られる!?

「あら。ふふ・・・。やっぱり女の子だと、これが気になる? いい布でしょう?」

 ライムさまは怒ったりしなかった。

 ・・・助かった、のかな?

 ライムさまはにこにこと笑っている。

「・・・あの?」

「なあに?」

「この布、モイムさまが嫁入りで着ていたものと似ています。でも、あれよりも、もっといいものに見えるんです・・・」

 そんなはずはないのに。

 そんなものがこの世にあるはずがないのに。

「ああ、あれを見たのね。モイムが嫁入りで着ていたのは、「荒目布」というの。大森林で作られた布よ。それで、こっちは「本地布」っていうの。もちろん、大森林で作られた布よ。「荒目布」よりも、縦糸の数が多くて、品質が高いの」

 ・・・この世にあるはずのないものが、ここには存在していた。

「大森林にはね、これよりもまだきれいな「極目布」というものがあるみたい。見たことないけどね」

 さらにその上までっっっっ????

 大森林って、いったい何っっっっっ?????

「あらあら、今度はお口が大きくあいてるわ」

 ライムさまはそう言って、私の頭を優しくなでてくださった。




 ナルカン氏族のテントに、大森林からの迎えが来た。

 ライムさまがとっても嬉しそうな顔をしていると思ったら、あれは私の夫なの、と笑って言う。

 ライムさまの旦那さまは大森林の方らしい。

 オーバさま、という。

 ナルカン氏族の族長であるドウラさまが、絶対に失礼のないように、と私たちに言い聞かせていた。ナルカン氏族は大森林との争いに負けたというから、気を遣うのだろう。

 うちの氏族以外にも、口減らしの子どもを差し出した氏族がいくつかあったようで、オーバさまが連れていく子どもの数は13人だった。女の子は私を含めて4人。あとの9人は男の子。

 オーバさまはナルカン氏族のテントに一泊して、翌朝、私たちを連れて出発した。

 たくさんの馬が一緒で、自分で馬に乗れる男の子は、馬に乗るように言われ、乗れない子たちは、ナルカン氏族の人たちが乗る馬に、一緒に乗せてもらっている。

 私はもう1人の女の子と一緒に、オーバさまの馬に乗せていただいた。

 ライムさまから私のことを頼まれた、とオーバさまは言っていたけど。

 ・・・ひょっとして、私はライムさまに気に入られたんだろうか?

 まあ、ナルカン氏族のテントで暮らす訳ではないし。ライムさまに気に入られても、ね・・・。

 そんなことよりも。

 オーバさまの服。

 これもライムさまのものと同じ布だ。

 同じ馬に乗せられて、まるで抱きかかえられているかのような位置に座っているので、私の頭、髪、首筋、背中に、たくましいオーバさまの体とともに、とても柔らかく感触のいい美しい布がずっと触れている。

 どうやら、大森林というところには、大草原の氏族たちでは目にすることがない布がたくさんあるみたい。

 それだけではなくて。

 ナルカン氏族のテントまでの旅とちがい、まず馬上にあるということはもちろん、夜営の時には、オーバさまが、「見張りは任せて、子どもは安心して寝なさい」と言ってくださる。それに、何より、毎夕、温かくて美味しい食事は出るし・・・。

 ・・・今まで聞いてきた口減らしの子どもたちが受けるひどい話は、嘘だったのかしら・・・?


 三日で、大森林にたどり着いて、ナルカン氏族の人たちは馬をおりて、歩いて帰っていった。この馬たちは、ナルカン氏族の馬じゃなかったみたい。じゃあ、誰の? 大森林の馬ってことかな?

 虹池と呼ばれたところで、たくさんの馬に囲まれて、ちょっと怖かったけど、馬と一緒に寝たら、なんだかとっても温かくて。

 もちろん、この日もとっても美味しい夕食付き。

 ナルカン氏族のうすいスープなんかよりも、たくさん具は入っているし、果物も分けてもらえるし、いったい、これはどういうことなんだろう? 果物なんて生まれて初めて食べたんだよ?

 果物を分けてもらえたのは、ナルカン氏族の人たちがいなくなったから、らしい。

 オーバさまの話では、果物をナルカン氏族の人たちにも分けてしまうと、大森林までの付き添いの仕事がナルカン氏族の中で奪い合いになるかもしれないから、らしい。

 ・・・確かに、そうかもしれないと思うくらいに、黄色の実のこの果物は、甘酸っぱくて、とても美味しかった。

 こんな美味しいものは生まれてから初めて食べたと思う。あ、果物そのものが初めてだったか。

 そう思ったのは、私だけじゃないみたい。

「本当に、ひどい目にあうのかな・・・?」

 私と一緒にオーバさまの馬に乗っていた女の子、テラカン氏族のセンリがそう言った。

 私には何も答えられなかった。きっと、センリも私と同じように、口減らしの子どもがひどい目に遭う話を聞かされて育ったに違いない。


 次の日から森に入った。

 安全のために、と三列になって、それぞれが一本のロープで左の手首を結んだ。その三本のロープは全てオーバさまの左の手首につながっている。

 逃げられないようにするため、というようにも思えるのだが、正直なところ、毎日、お腹いっぱい食べられるのに、逃げようと思う子がいるとは思わない。

「ぼくたち、逃げたりしません」

 男の子が一人、チルカン氏族のザックがそう言ったのだが、オーバさまは笑って、丁寧に説明してくれた。

「そうじゃない。進んで行けば分かるけれど、この森は、木が大きくて多いから、人が近くにいても、迷子になってしまうんだ。だから、安全に大森林の中のアコンの村にたどり着くために、このロープは絶対に必要なんだ」

 私たちはこの後、すぐにその言葉の意味を理解した。

「こういう森を樹海という」

「樹海・・・」

 ザックはオーバさまの言葉を繰り返した。

 本当に、一番前でオーバさまのすぐ後ろにいた私が振り返ると、一番後ろの男の子は、どこにいるのかまったく分からなかった。

 こんな場所もあるのだ、と。

 ここからは、二度と出られないのだ、と。

 少し、怖くなった。

 でも、逃げられないし、逃げる訳にはいかない。

 結局、オーバさまについて歩くしかない。

 森の中の三日間も、夕食は豪華で、私たちはオーバさまと一緒に、いろいろと話しながら、夜を過ごすようになっていた。




 大森林のアコンの村にたどり着いた私たちは、オーバさまが手に結んだロープを外してくれている間、全員そろって、上を見上げた。

 だって、びっくりするほど、太くて大きな木があったんだもの。

 しかも、その木には、いろいろとスペースがつくられていて、家として利用されているという。

 驚かないはずがない。

 しかも。

 なんと、オーバさまは、村の長だった?

 なんで長が私たちの出迎え役なの?

 ・・・こんなに優しい村の長って、この世にいるの?

 そんな風に最初は思っていました。


 歓迎された私たちは、まず、上から水が流れ落ちてくるところで、体を洗った。

 滝、というらしい。

 そういう場所と豊富な水に驚いたのだが、それ以上に驚いたのは・・・。

 着替えが・・・。

 あの・・・。

 モイムさまと同じ・・・布。

 どうして、口減らしで連れてこられた私に、モイムさまの嫁入り衣装と同じ布を使った服を?

 いったい、これはどういうことなんだろう?

 ・・・そういえば、今日ここに来た私たち以外の、この村に住んでいる人は、みんなこの布の服を着ていたような?

「すごく、きれいな、服・・・」

 センリがつぶやく。

「ちがうわ、センリ! そんなものじゃない。これ、大草原の嫁入り衣装よりも、もっともっとすごい布でつくられた、もっともっとすごい服なの! こんなの、大草原で着てる人なんてほとんどいないの! 私たち、嫁入り衣装より、もっとすごい服に着替えたの!」

「そ、そうね・・・」

 センリが少し私から身体を引いた。「・・・びっくりした」

「そう、びっくりするよね!」

 このことに驚かないなんておかしいもの。

 なんで私は、こんなにすごい服を着ているんだろう?

「あたしがびっくりしたのは服のことじゃないんだけどなあ・・・」

 センリの最後のつぶやきはよく聞こえなかった。


 もう驚くこともないだろう、なんて、私は甘かった。

 着替えた後に食べた、これまで以上に美味しい夕食にさらに驚き、ここにたどり着いたことをみんなで喜んだ。特にお肉・・・。

 でもでも。

 もっと驚いたのは・・・。

 クマラさまと、アイラさまの服・・・。

 私の目はそこに釘付け。

 目を動かすことができないくらい、美しい布。

 あれは、ライムさまがおっしゃっていた「極目布」に違いない。

 本当に、存在していた、奇跡の布。

 でも、お二人はオーバさまのお后さまと婚約者さまで・・・。

 ライムさまのときのように、うっかり触ってしまってはいけないと、私は自分の左手で自分の右手を押さえ込むように握りつぶしていた。

 美しい。

 あまりにも美しい。

 いったい、あれは、どういう布なんだろう?

 もはや、光輝いて見える。私には。


 そんな私の肩をセンリが叩いた。

「あれ、すごい・・・」

 センリが指す方を見ると、村のみなさんが・・・戦ってる????

 氏族で、大人たちが訓練している姿をぼんやりと見ていたことがある。

 でも、子どもの私にも。

 ここで戦っている姿は、氏族の大人たちがやっていたことと、大きくちがうって、分かる。

 あれは、本気の戦いだ。

 強く打ち付ける音、激しくぶつかる音、そして、骨の折れる音。

 ここでの戦いには、訓練だという手加減など、ない。

 あり得ない。

 しかも・・・。

「光ってる・・・」

 その光に包まれた人は、倒れていても、すぐに立ち上がるし、腕が変な方に折れ曲がっていたのに、まっすぐに戻っているし。

「あれは、神聖魔法よ」

 そう教えてくださったのは、エイムさま。


 エイムさまの服は、ライムさまと同じ「本地布」だ。なんだか、これくらいでは驚かなくなってきたみたい。私の目、おかしくなってきたのかな?

「あら、大草原に行っていたオーバが戻るのは久しぶりだから、クマラとアイラが挑戦するみたいね」

 そう言われて、私はエイムさまの視線をたどる。

 クマラさま、アイラさまが、オーバさまと二対一で向かい合っていた。

 そして、そのまま、戦いが始まる。

 クマラさま、アイラさまが、次々とオーバさまに攻撃を加える。

 オーバさまは、受け流したり、受け止めたり、かわしたりと、ひらり、ひらり。

 クマラさまも、ひらり、ひらり。

 アイラさまも、ひらり、ひらり。

 お二人の光輝くような「極目布」の服が、美しく、踊るように揺れる。

 美しいを通り越して、もはや神々しく、神聖不可侵な、輝きの舞。

 見惚れていた私は・・・。

「あああっっっ!!」

 思わず叫んでしまった。

「大丈夫よ。アイラたちが怪我をしても、オーバなら・・・ほら、ね」

 オーバさまの両腕から溢れ出た光が、クマラさま、アイラさまを同時に癒す。

 お二人の怪我の心配はいらないらしい。

 ・・・私が叫んだのは、オーバさまに打ち倒されたお二人の服が、地面に触れて汚れたからだったんだけど。

 それはエイムさまには言えない、よ、ね・・・。

 それにしても、オーバさまは、優しいだけでなく、とってもお強い方なんだな、と。

 それも少しは理解できた。




 次の日の朝、女神さまへのお祈りを捧げるのだ、と早くに起こされた。

 よく分からないがこの村では、女神さまはとても重要な存在らしい。

 あくびを噛み殺して、私はセンリの横に座る。

 お祈りの仕方を簡単に説明してもらって、ふと、前を見ると・・・。

 巫女であるジルさまと、ウルさまが姿を見せた。

 私は思わず立ち上がってしまった。

 センリがあわてて私の手を引き、座らせようとしたのだが、私は座ることができなかった。


 モイムさまの「荒目布」の服も。


 ライムさま、エイムさま、オーバさまの、「本地布」の服も。


 アイラさまとクマラさまの「極目布」の服でさえもかすんでしまうような、圧倒的な、美。


 私なんかでは、もはや表現できない、超越した美。


 知らず知らずのうちに、私は涙を流していたらしい。

 ジルさまとウルさまが着ていらっしゃる、お祈りのための巫女の服は。

 人間に作れるようなものではないと思う。

 美しい。

 ただひたすらに美しい。

 私はセンリとザックに力ずくで座らされても、視線をジルさまとウルさまから外すことができなかった。

 いったいこの村は、どれだけ美しいのだろうか・・・。




 私は運動がとても苦手だ。走るのは本当に辛い。

 この村では女神に祈りを捧げた後は、たくさん身体を動かすし、戦闘訓練も激しい。ひたすら走る、走る、走る。できる範囲でいいよ、とは言われたけど。そんな訳にはいかない。

 仕事も、小さな子どもだからといって、甘える訳にはいかない。水やりだって、イモの収穫だって、どんなことだって全力だ。

 オーバさまは優しくて、強くて、そして、実は厳しい長なのだ。

 子どもだからといって、甘えてばかりはいられない。

 私は。

 ここでの生活を失うわけには!

 絶対に失う訳にはいかないのだ!

 いつか、私も。

 あの服を着るために!




 私は、この年、集められた口減らしの子どもたちの中で、もっとも信心深い女神の信徒となった。




続きは不定期なのですみません。

続編再開までのおつまみ程度にお楽しみください。


次回「自慢話にあきれる青年の話」です。

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