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道具屋はじめました  作者: みーこ
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食事を食べよう

俺は風呂上がりに頭からすっぽりと被るタイプの上着と、ダブダブズボンのパジャマを着させられた。ご主人様はレースが綺麗な淡い水色のネグリジェだった。流石に着替えは別々の部屋だった。


セルジオの案内で食堂に向かう。両開きの扉を双子が開けると、大きなダイニングテーブルがあった。案内に従って席に着くと、次々に料理が運ばれてきた。


「本当はもっとコッテリしたものも食べたりするけど、今は胃も油に慣れてないから、あっさりした消化に良いものにしてみたの。物足りないかもしれないけど、我慢してね」


「いえいえ。こんな豪華な食事を頂けるなんて夢のようです。ありがたく頂かせて貰います。」


「好きなだけ食べてね。沢山のハーブを使ってるから、味に変化があって楽しめるわよ」


「では遠慮なく頂きます」



料理はどれも美味しかった。野菜と魚、キノコを中心としたヘルシーなもので、ドレッシング以外、油は使われていなかった。魚も火で炙ってあり、塩味だけのシンプルな味付けが素材の美味さを引き立てている。サラダは人参を摩り下ろしたものに、酢と油、塩などで味付けされ、色んな野菜を取ることが出来る。スープはカボチャのポタージュだ。クリーミーでほんのりと甘く、ブイヨンがよく効いているから、本当に美味しい。身体も温まる。


勢い良く食べていたら、ご主人様が話し始めた。




「さて、今日からこの屋敷で暮らしながら少しずつ勉強して貰うんだけど、その前にリュカに確認しておきたい事があるの。これは大事な事だから良く聞いていてね。


まず、あなたの身体の事だけど、さっきお風呂場で確認させて貰ったわ。

右足は膝が砕けたまま固まってしまって曲がらなくなっていて、筋肉に変な力が掛かっているから、痛みが出ているのでしょう。

左腕は骨折では無いけど、神経がやられてるみたいね。感覚が全然無いみたいに感じたわ。

それと右眼ね。これは魔獣の爪にやられたのかしら?その時に眼球ごと引っかかれて、えぐり取られたようね。これが一番重症と見たわ」


「よくあの短時間でそこまで判りましたね。全てその通りです。私は仲間達と冒険者をしていましたが、ある時、北の森近くで、その辺にいるはずのない魔獣に遭遇したのです。全員で戦いましたが、魔獣の余りの強さに勝ち目が無いと悟り退却をしようとした時、仲間の一人に裏切られて、魔獣の前に突き飛ばされたのです。その間に仲間達は逃げ出しました。私は必死に魔獣に抵抗しましたが、魔獣の爪がまず私の左肩に突き刺さり、そのまま倒されたのです。直ぐに起き上がって逃げようとしたのですが、魔獣の方が早く私に辿り着き、右膝を踏まれて砕かれました。それでも逃げようとして我武者羅に剣を振り回したら、剣が魔獣の腕を切り裂いて、怒った魔獣の振り下ろした爪ヌより右眼を抉られました。その衝撃で後ろの崖から川に転落してしまい、そのまま流されたのです」


ここで一息ついた。

今思い出しても身体に震えが来てしまう。

でも、もう過ぎた事だ。

昔の仲間達の事もその後どうなったのか知らないけれど、裏切られた事は、今でも深い悲しみとなって心に棘が刺さったようになっている。

しかし、ご主人様に俺の事を知って貰いたかった。

今の俺は助け出してくれたご主人様には、包み隠さず聞いてもらわなければならない。

隠し事があってはならないと感じた。



「気付いたら、一週間が経っていました。私は川に流されているところを、山の樵に助けられたのです。あの樵には感謝しても仕切れません。それから少しずつ傷もいえ、歩けるようになって街に戻りました。私は仲間達を探したのです。冒険者ギルドに問い合わせる為に寄った時、直ぐに身柄を拘束されました。一体何が起きているのか判らず、聞いて見たところ、私達のパーティーは、ある村に出没するオークの討伐に向かう所だったのですが、その前に魔獣と会ってしまいました。逃げた仲間達はその後、村へは向かわず逃げてしまったので、村にオークが押し寄せて、村には多くの死者を出していました。受注した依頼を止めた契約違反と、村への損害賠償が発生しており、私は莫大な借金を負ってしまったのです。しかしアジトにしていた宿屋は既に引き払われており、私が貯めていたお金も全て持ち去られた後だったので、そのまま直ぐに奴隷として拘束され、競りにかけられる事になりました。ここまで約一ヶ月での話です。以上が私に起きた話です」



「そんな事があったの…。辛い思いをしたのね。でもね、私はあなたに会えて良かったわよ。リュカが生きていてくれた事だけで、とても嬉しいわ。普通なら死んでいてもおかしくない状況で、助かっただけ奇跡的な事ですもの」



ここでご主人様は一度目を瞑り、それから真っ直ぐに俺の目を見て話し出した。



「前にも少し話したけど、リュカを買ったのには理由があるの。あなたは気付いてないと思うけど、あなたには眠っている力があるの。それは膨大な魔力よ。ただまだ眠ったままなの。それを仕事に生かして貰うつもりであなたを買い取ったの。だからそこまで感謝される必要なんてないのよね。私なりに計算尽くな事なのだから」


「それともう一つ。私はあなたの身体を治す事が出来るのよ」



「!!!!!」



「ほ、本当ですか?俺、この身体、元に戻るんですか!」



「ええ。そうよ。しかしそれには直ぐにという訳にはいかないの。まず、体力の回復が一番。次に魔力の解放が二番。そして次のはあなたに決心して貰わなければならない事があるの。それはとても大事な決断なのよ」



「お願いします。何でもします。だからこの身体を直して下さい!お願いします!!」



「………そうね。リュカの立場ならそうなるよね。今日は来たばかりだから、その話はまた明日にしましょう。まずは食事を食べ終えて、ぐっすり眠るのが今のリュカには必要よ。明日は起こさないからゆっくり休んで頂戴ね」



「分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」




それから食事を終え、これから自分が暮らす事になる部屋へ案内された。

俺の部屋は日当たりの良い二階の角部屋で、柔らかな淡いグリーンの内装に、大きなベッド、机と椅子、クローゼットが完備されている。




さっきの話を聞いて、興奮したのか中々ねつけなかったが、窓から入る涼しい風を感じていたら、いつのまにか微睡みの中に入っていった。

怪我を負ってから初めてグッスリと安心して寝る事ができた。

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