家に着いた
その家は街の外れまでは言わないが、それなりに遠い場所にあった。だがメインストリート沿いなので、それなりに人は歩いている。
こんな場所に家を持てるなんて、ご主人様はとてつもなくお金持ちなんだな。
鍵を取り出し、扉を開けたら、中には何も無かった。チョットばかり拍子抜けしてしまった。だが、これからここでご主人様のお手伝いをするのかと思えば、身の引き締まる思いがする。
俺はこのご恩に報いる為に、自分の全てを捧げようと思った。
ご主人様が振り返り、何やら楽しそうに話し出した。
「そうそう!まだお互いの名前も知らなかったわね。私の名前はサラン。北の方からこの街に来たばかりなの。だからまだここには何も揃ってないの。だけど心配しないでね。あなたを悪いようにはしないから。これからあなたには私がやる仕事の手伝いをして貰うわ。私は色々な道具を作って販売する道具屋をここで初めるつもりなの。だからあなたは、そうね、暫くは私の作る道具について勉強して貰うけど、色々知識が増えるに従って、あなたも作れるようになるから、きっと楽しいわよ。勉強はそれなりに難しいけど、私がシゴいてあげるからね」
「まずは簡単にこんな所かしら?じぁ、つぎはあなたの番よ」
私はおずおずと跪いて、自分が今思っている事を話した。
「私の名前はリュカと申します。南にある港町出身です。それよりまずはお礼を述べさせて下さい。私をあそこからお救い下さいまして、感謝してもしきれません。ご主人様に助けて頂かなければ、私は魔獣のエサになっていたでしょう。身体も満足に動かす事の出来ない私は、どれだけご主人様のお役に立てるか分かりませんが、命を掛けてお仕えさせて頂きますので、よろしくお願い致します」
「ふふふ。礼儀正しいのね。さぁ、立って頂戴。私は親切だけであなたを買った訳じゃないのよ。私なりに打算があるの。だから私に買われた事を感謝するのは、後からする話しを聞いてからにしてね。まずは、あなたのその身体を綺麗にしないとね。ふふふ…。覚悟してね!」
何だかご主人様の話しを聞いていたら、この後に何があるのか不安になって来た。ただ身体を綺麗にするだけなんだから、何も覚悟なんて必要じゃないのに…。風呂に入るか、布で拭くかだろ?他に何かあるのか?
「実はリュカに話しておきたい事があるの。私はこの家以外にも、もう一つの家があるの。そっちが本宅かな?ただそこは近くて遠い所にあり、人には秘密にしなくちゃダメなんだ。だからリュカにもこの秘密を守って欲しいけど、出来る?」
「はい。大丈夫です」
「なら、この魔術契約書にサインして頂戴。この契約を結べば、契約を破りそうになった時に神罰が下されるんだけど、守って欲しいのは、私のプロフィールと本宅の情報よ。この話を聞いてもサイン出来る?」
「はい。出来ます。ご主人様に助けられたこの身は、ご主人様に捧げております。ご主人様の仰る事に否やは無いです」
「分かりました。では、ここにサインしてね」
私がサインすると、その契約書は、一瞬光ってそのまま燃えてしまった。初めて魔術契約書にサインしたけど、話しに聞いていた通りで何だか感動した。
「じゃ、準備が整ったから、今から本宅に行きます。私の後についてきて頂戴」
ご主人様が何やら小声でボソボソと呟いたと思ったら、目の前の壁しか無かった場所に扉が出現した。ま、まさか、ご主人様は高位の魔術師なのか?俺も冒険者やっていたから判るが、こんな魔術は見たことも聞いた事も無い。
扉を開けると、そこは花と緑豊かな自然に囲まれた、街と全く違う風景が現れた。
「さぁ、私の家、マギの家へようこそ!」
俺はご主人様について草原を歩いて行く。空は青く、花々は咲き乱れ、心地良い風が吹いてくる。正面には大きな屋敷が建っていて、この自然溢れる場所に、違和感は感じさせない。
一体ここはどこの国なんだろうか?今は秋だったはずだ。
俺は実はとんでもない人に拾われたんじゃないだろうか?
若干不安になりながら、気付けば屋敷に到着していた。
すると自然に扉が開いて、中から白髪混じりの男性と、二人のメイドが出てきた。
白髪混じりの男性は、きっちり黒の燕尾服を着ている。
メイドは二人とも同じ顔だから双子かな?でも表情が全く無いからチョット怖い。
「サラン様、お帰りなさいませ」
「ただいま。セルジオ。変わりはなかったかしら?」
「はい。ございません」
「セルジオ。今日から私の仕事の手伝いをする事になったリュカよ。色々分からない事があると思うから、教えてあげてね」
「リュカです。よろしくお願い致します」
「ほぉ、これはこれは…」
「ふふふ。わかっちゃった?」
「流石はサラン様です。この短期間にこれほどの逸材を見つけてくるとは。このセルジオ、感服致しました」
「でしょでしょ!もうね、私の運の良さに自分が怖いくらいよ!」
「ささ、ここでの立ち話も何ですから、お部屋へまいりましょう」
「そうね。リュカも疲れているし、まずは休ませてあげないとね」
「リュカ、中へ入りましょう」
サランに連れられて屋敷に向かったが、俺はさっきの二人の会話が気になって仕方がなかった。逸材?何の事だ?俺には何かあるのか?
沢山の疑問を抱えながら、俺は屋敷に入っていった。