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道具屋はじめました  作者: みーこ
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奴隷を買ってみた

その日サランは気分良く街を歩いていた。

何せ、初めて山を降りたからだ。

サランは生まれてから今日まで、山で育ての親である婆と暮らしていたが、先日その婆が亡くなったので、街で暮らそうと思って降りてきたのだ。

街で暮らすためには住む所が必要になるが、既に新居の契約は済ませており、今は必要な買い物をしていた。


この国サンドラ王国は、大陸の南一帯を収める大国で、南は海に面し、北はラーナス山脈に遮られている。ラーナス山脈の更に奥には魔の森と呼ばれ、誰も生きて戻った者はいないと言われる。西には魔族の国ゲヘナ、東は亜人の国トヘロスがある。







サランが屋台の串焼きを頬張りながら街を散策していると、突然怒号が聞こえてきた。




「ボヤボヤするな!さっさと歩け!!」




声の方を振り向いてみれば、両手首を縄で縛られた数人の男女がいた。子供から老人、男女、様々な人々が歩かされていた。

奴隷だ。

その中の男を鞭を持った大男が、怒鳴りちらしている。

目を付けられた男は足を引きずって歩いているが、やはり脚が悪いため、奴隷集団から一人遅れていた。

必死になって歩いても、その差は開くばかり。

イライラした大男は、痺れを切らして、男に対して鞭を振るった。


「ガハッ」


思いっきり顔に当たった鞭の勢いで、バランスを崩した男は後ろに倒れこんだ。勢いよく吹っ飛ばされてしまったのだろう、男が倒れこんだ先にはサランがいた。

余りの痛さに呻くばかりで起き上がれそうもない。

サランはビックリして男を見つめながら立ち尽くした。



「あぁ、お嬢ちゃん、すまねぇな。そんな所に突っ立っていると、その綺麗な服が汚れちまうよ」


「………」


「悪りぃこと言わねぇから、さっさとあっち行きな」



大男に声を掛けられても、男を見つめたまま立ち去ろうとはしない。その内、痛みで呻いていた男も、痛みを堪えながら、何やら変な空気が流れている事を感じて顔を上げた。




サランと男の目が合った。




男はサランの美しさに頭がボーっとした。

艶々と流れる黒髪に、青く、でも角度によっては金色に光るような不思議な瞳。桜色に濡れたように光る唇。豊かな胸は、その細いウエストを際立たせ、腰から脚に流れる曲線は、男の劣情を起こさずにはいられないだろう。

そんなサランに見惚れていると、今すぐ吸い付きたくなるような唇が動いた。




「この人って奴隷的なの?」


「ああそうさ。今から競りにかけられるんだ」


「じぁ、今私が買うわ!」


「ガハハハ!やめとけ、やめとけ。コイツは見ての通り、右膝が砕けてまともにぁ歩けねぇし、左腕は全く動かない。それに見てみな!」


徐に男の前髪を引っ掴んで顔を晒せば、右の額から頬にかけて縦に走る三本の傷があり、そこにある筈の右目が潰れて無かった。



「なぁ分かっただろう?お嬢ちゃんが手に負えるもんじゃねぇんだよ。ま、奴隷が欲しかったら、もっとマシな奴隷を買いな」


男は大男の言葉を聞いて絶望した。全て大男の言う通りなのだから。男の価値なんて全く無く、このままいけば、魔獣のエサぐらいしか使い道が無い。身体が不自由な奴隷なんて何の価値も無いのだから。


だけど男はそんな絶望感の中でも、目の前の少女が自分を一度は買ってくれると言ってくれただけでも、少しのすくいになった。

こんな身体になってから、初めて掛けてくれた優しさだったから。


男は自分が出来る精一杯の感謝を込めて微笑んだ。

しかし次の言葉を聞いて驚愕した。




「分かってるわ。でも私に彼を売って頂戴!」




サランの言葉を聞いていた周りの人達が、思わず息を飲んだ。そこに静寂が訪れる。



「だからお嬢ちゃん、コイツ…」


「分かっているって言ったでしょ!で、いくら払えばいいの?」


「銀貨1枚だが…」


「そう。今持ち合わせがないから、これでも大丈夫かしら?」


そういって何かを大男へ投げた。



「おい、これって魔石じぁねぇか!それもこの大きさなら、へたすりゃ金貨1枚するかもしれねえ」


「じゃ、交渉成立って事で、彼は今から私のものでいいわね!」


「お、おう。これだけ貰えりゃ文句はねぇよ。おい、お前、この嬢ちゃんに感謝しろよ!!」




大男は、そう言って他の奴隷を引き連れて歩いて行った。


残された男にサランは話し掛ける。




「さぁ今からあなたは私のものよ。まずは私の家へ行きましょう。歩けるかしら?」


「はい。ご主人様」



そう答えた男にサランは手を出す。

男はその手がどういう意味か分からず、思わず凝視してしまった。

少しだけ笑い声を上げながら、サランは言う。


「この手に掴まって」



男は、奴隷に対して立ち上がらせる為に手を差し出す主人の話なんて聞いたことがなかった。

思わずその優しさに目が潤む。

恐る恐る白く柔らかい手を重ね、ゆっくり引っ張り上げてもらう。



「さぁ、家までちょっとだけ距離があるけど付いてきてね。辛くなったらすぐに言うのよ」


「はい。ありがとうございます。ご主人様」




そして二人は家へと向かったのだった






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