第九話 夜のピクニック①
その夜も、世界の終末のような晩餐がはじまろうとしていた。
ところが、給仕を終えたミレーが退出しようと扉の前まで下がったところで、廊下側から扉を叩く音が響いた。
「わたくしです。よろしいでしょうか?」
きこえてきたのは、ルトヴィアス付きの侍官の声だ。
「どうぞ」
ルトヴィアスに入室を許された侍官は、扉をあけ、恭しく一礼した後、足早にルトヴィアスに近付いた。
ルトヴィアスが皇国に行く前にも、彼に直接仕えていたその侍官は、柔和な顔つきの初老の男性で、いつもいるのかいないのか分からないほど静かにルトヴィアスに付き従っている。優秀な侍官の彼にも、ルトヴィアスは猫をかぶったままのようだと、アデラインはルトヴィアスの態度から推測した。
侍官はルトヴィアスの耳元で何かしらの報告をしているようだ。
アデラインには何も聞こえなかったが、時折頷くルトヴィアスの様子から、どうやら何か急ぎの用事が出来たらしい。
「すみませんアデライン。今日はこれで失礼します」
ルトヴィアスはさも残念だというふうに美しい顔を歪ませ、席を立った。
「あ、はい。おやすみなさいませ」
アデラインが見送りのために立ち上がろうとすると、ルトヴィアスはそれを制した。
「座っていてください。おやすみなさい。アデライン」
優しく微笑むと、ルトヴィアスは侍官を伴って部屋から出ていった。
――………さすがだわ。
どこからどう見ても、婚約者を気遣う優しい貴公子だ。
普段のルトヴィアスは、食べ終わると挨拶も何もなしに席を立つ。そして礼儀作法に則り立ち上がって見送るアデラインには目もくれずに、さっさと部屋から出ていってしまうのだ。
『おやすみ』なんて挨拶を交わしたのは初めてだった。
「本当に…殿下は素敵な方ですわねえ。私のような者にもお心遣いをしてくださって…」
ルトヴィアスが出ていった扉を見つめて、ミレーがほぉ、と甘いため息をついた。
ルトヴィアスはさすがにぬかりない。どうやら召使いたちも総じて彼の猫に騙されているらしい。
「お心遣いって…どんな?」
アデラインは何気なく尋ねたつもりだったが、ミレーは目に見えて狼狽した。
「そっ、それは…あの…た、大したことではございません!」
怪しい。怪しすぎる。
――…まさか…。
夫が妻の侍女に手を出すという話をよく聞くが…。
「へ、変な意味でのお心遣いではございませんよ!?お嬢様!!」
アデラインの考えていることが分かったらしく、ミレーは慌てて首を振る。
「ご安心くださいませ、お嬢様!殿下が最も大事にしているのはお嬢様です。お嬢様とのお時間を大切にされたいと、お嬢様がお茶を飲まれる時やお食事の時には必ず呼ぶようにと、念押しされております」
「…そう…」
アデラインは喜べない。ミレーを押さえられては、こっそりお茶を楽しむことも出来ないではないか。
「皆話していますわ。この分だと早くお世継ぎの顔が見れそうだと」
口に含んでいた檸檬水を、アデラインは思わず吹き出した。
「まあ!お嬢様!大丈夫ですか?」
「そ、そんな事言われてるの?」
「ええ、3年前のことがありますし、殿下とお嬢様はうまくいかないのではと…実はそんな噂かあったのですが、でも心配いらないようだと…さぁ、これで拭いてください」
「…」
なるほど。つまりルトヴィアスは、3年前の醜聞とアデラインとの不仲説を払拭するために、毎日アデラインの部屋に通っているというわけだ。
確かに、王太子になろうという人がいつまでも過去の醜聞を引き摺るわけにはいかないだろう。
――…そのせいで私の葡萄パンが…。
アデラインは肩を落とした。
いつまでこの状態が続くのだろう。
結婚後に子供が生まれるか、彼が側室を迎えるか、それまでの辛抱だとは思うが…。
けれど少なくともこの食事は、久しぶりにゆっくりと味わうことが出来そうだ。
アデラインは降って沸いた幸運に、ほくほくとしながら、葡萄パンを頬張り、舌に広がる甘さを楽しんだ。
緊張が強いられない食事の、何と素晴らしいこと。
ふと、円卓に並べられた大皿に目がいった。
皇国などでは一皿に一人分の料理がのせられて食卓に並べられるらしいが、ルードサクシードでは、大皿に食卓に座る人数分と客人の分の料理が盛られ、それを食卓で取り分けて食べるのが普通だ。大昔、少ない食料を一族で分けあって食べた名残だろう。
その大皿の全てが、一口ずつ手がつけてある。そのことにアデラインは眉をひそめた。不自然だったからだ。
席に座る一番高位の者が料理に手をつけてから、続いて下位の者が食べる作法はあるが、だからと言って全ての皿に手をつける必要はない。
普通、自分が好む料理を多めに取るものだ。
ルトヴィアスのようにあんな短時間で、全てに手をつけるとなると、まさに一口ずつしかルトヴィアスは食べていないことになる。ルトヴィアスの食べ方は明らかに不自然だった。
――…それに…。
ざっと見たところ、成人男性の胃袋を満たすほどの量を、ルトヴィアスが食べたようには見えない。
「…殿下はお忙しいの?」
「そのようですよ。産業を国に支援して欲しい土地の者が次々と押し掛けたり、昨日は領主に不満をもつ者が直談判に訪れて騒ぎになったそうでございます。結局殿下がお出ましになって騒ぎを静めたとか」
「…そう」
「勿論希望者全員と会うわけではないようですが、毎日殿下宛の上申書が山のように届くそうです」
「…」
面会か、急ぎの書類かはわからないが、けれどそれらが終わる頃には、調理場の釜戸の火は落ちている。そうなれば、ルトヴィアスは空腹のまま眠ることになるかもしれない。
「……ねえ、ミレー」
「はいお嬢様」
「これ、少し包んでくれない?」
廊下の角から、アデラインはそっと先を覗き見た。
突き当たりにルトヴィアスの部屋があり、何人かの近衛騎士が見張りに立っている。
手に持った籠を見て、アデラインはどうしたものかと肩を落とした。
中にはミレーが用意してくれた食べ物が入っている。
果実水、チーズに林檎、鶏の香草焼きは葉野菜と一緒にライ麦パンに挟んでくれた。
忙しいルトヴィアスの為に、葡萄パンを少し包むだけのつもりだった。けれどルトヴィアスに持って行きたいとアデラインから聞いたミレーが、短い時間で色々と詰め合わせてくれたのだ。夜でさえなければ、このまま晴れた花畑にでも出かけられそうだ。
けれど籠を渡されたアデラインは、ルトヴィアスの部屋の扉にさえ辿り着けないでいる。忙しいミレーの手を煩わせてはいけないと、一人で来たことを、アデラインは早くも後悔していた。籠を両手にその場にしゃがみこむ。 ルトヴィアスの婚約者であり宰相の娘であるアデラインなら、特に咎められずルトヴィアスの部屋にいれてもらえるはずだ。問題はアデラインが『宰相の娘』に見えるかどうかだ。アデラインは自分の姿を見下ろした。地味な衣装。地味な髪型。地味な顔。近衛騎士に護衛してもらった経験は何度かあるが、顔を覚えてもらっている自信がない。数少ない顔見知りの騎士は、残念ながら見あたらなかった。
侍女を連れているならともかく、アデライン1人が『宰相の娘だから通せ』と言っても、通してはもらえないように思われた。悪くすれば不審人物として捕まるかもしれない。 その可能性に身震いしてアデラインは立ち上がる。
正直、ルトヴィアスに会うには勇気が必要だ。それに、侍官が夜食の準備をしているかもしれない。差し出がましい真似をして、またルトヴィアスに睨まれたら…。よくよく考えれば、例え空腹でもルトヴィアスがアデラインの差し入れを、果たして受けとるだろうか。
――…目の前で捨てられるかも…。
本来ルトヴィアスが口に出来る食べ物は、料理に使われる水や野菜まで規則により厳格に定められ、更に毒味が行われる。旅先であるため本来の規則ほど厳しく管理されてはいないが、とはいえ食事管理されることを当たり前に生きてきただろうルトヴィアスが、無防備にも受け取ってくれるとは思えなかった。
アデラインは自分の部屋に戻る為に数歩廊下を戻り、止まった。
――…でも…ミレーがせっかく用意してくれたし…。
それにもしルトヴィアスが空腹だったとしたら、と空腹の人間を放置することに良心が咎め、アデラインは廊下をまた逆に数歩。でもでも、とまたまた逆に数歩。
実はこれを何度となく繰り返している。
「何をしている?」
見張りの騎士に渡すように頼もうかと、思案を始めたアデラインのその背後に、声はかけられた。驚きで飛び出しかけた悲鳴と心臓をかろうじて飲み込んで、アデラインは振り返る。そこには紺の制服を着た赤髪の若い騎士が立っていた。
「ここはルトヴィアス王子殿下のお部屋の近くだ。用がないなら立ち去りなさい」
騎士はやはりアデラインが誰かわからないようだ。その硬質な態度にアデラインはますます及び腰になった。
「あ、あの…」
籠を握り締める手に、じんわり汗が滲む。俯き、我知らず一歩下がる。
「あの…」
「それは何だ?」
騎士が籠に手を伸ばす。アデラインはとっさに体を捻って籠を抱えこんだ。
「こ、これは、殿下に…」
「殿下に?」
騎士は眉をひそめた。
「畏れ多くも殿下に差し入れか?侍女の身分をわきまえろ」
アデラインを侍女だと思いこんでいるらしい。無理からぬことだが、誤解されたままでは困る。アデラインは必死で食い下がった。
「私は、マ、マルセリオ家の…」
「どこの家の者でも同じだ。さぁ早く立ち去れ」
「まぁ待てよ。あれだけ凛々しい方だ。憧れるのも無理ないさ」
騎士の後ろから、また別の騎士が顔を出した。やはり若い黒髪の騎士の優しげな様子に、アデラインはホッと安心しかけた。だが…。
「だからと言って殿下に会わせてやるわけにはいかないな。どれ、それは俺が食べてやるよ」
再び伸びてきた手に籠をとられまいと、アデラインは更に籠を抱えこんだ。
「ダ、だめです!これは…」
「もったいぶるなって」
「あっ」
手首をつかまれ、籠を無理矢理取りあげられてしまった。
「か、返して下さい!」
アデラインは必死に手を伸ばしたが、騎士の頭上高く掲げられた籠にはとても届かない。
「今なら主人に告げ口はしないでやるよ!持ち場に帰りな」
薄く笑った騎士を、アデラインは睨みつけた。
「……誇り高きルードサクシードの騎士が、情けない!」
「…何?」
騎士の表情に怒りが滲む。それにかまわず、アデラインは続けた。
「侍女が相手なら何をしてもいいと思っているのですか!?恥を知りなさい!」
「この…っ」
ギリリと、アデラインの手首を掴む騎士の手に力がこもった。痛みに顔をしかめたが、アデラインは騎士を睨みつける目を決してそらさない。女神と王族に忠実であれとされる騎士が、だからといって下位の人間を侮るのは許せなかった。騎士であるからこそ、相手の身分に関係なく礼節を重んじるべきだ。
「無礼な女だ!牢にぶちこんでやる!」
「おい待て…」
「お前はだまってろ!」
仲間の制止を振り切り、黒髪の騎士はアデラインを引きずるように廊下を進む。手首の骨が折れるほどの痛みで引っ張られ、アデラインは抵抗出来ない。
――…ど、どうしよう…っ!
本当にこのまま牢に入れられてしまうのだろうか。
ようやくアデラインが自身の心配に瞳を揺らした時、見覚えがある美しい手が横から伸びてきた。
「……っ!?」
広い胸の中に、抱きしめられるように引き寄せられた瞬間。
ルトヴィアスの長い足が、凄まじい勢いで騎士の側頭部を強打した。
「…っ」
息を飲むアデラインの前で、騎士が床に倒れ伏す。
恐る恐るアデラインが視線を上げると、ルトヴィアスは気絶して動かない騎士を静かに見下ろしていた。
その瞳は宝石のように美しく、そして無機質で冷たい。
「な…何を…っ!!ルトヴィアス殿下!?」
赤髪の騎士が、ギョッと目を剥く。名を呼ばれ、ルトヴィアスの瞳は突然氷解し、まるで早朝の散歩の後かというほどに爽やかに微笑んだ。
「ああ、すいません。私の婚約者が暴漢に襲われていると思って。まさか相手が誇り高き自国の騎士だとは露ほども思わなかったもので」
「婚約……アデライン・マルセリオ令嬢!?」
騎士は侍女だと思いこんでいたアデラインの正体を知り、青ざめて膝をついた。
「た、大変失礼いたしました!!!!」
ルトヴィアスはアデラインを腕の中から解放すると、伸びている騎士の横に無惨に散らばった食べ物を籠の中に拾い上げ、籠ごとアデラインへ差し出した。
「貴女のものでしょう?」
「あ…はい」
アデラインは籠を受け取り、中をそっと覗き、密かにため息をこぼした。
定期的に掃除された廊下とはいえ、地に落ちた物はとてもではないが未来の国王たる王子に食べさせられはしない。
ルトヴィアスは平伏しそうなほどに頭を垂れる騎士に向き直った。
「騎士団は少々規律が乱れているようですね。この件については厳正な処分を下しますが、何か言い分はありますか?」
柔らかい表情だが、ルトヴィアスの言葉には決して反論を許さない厳しさがあった。
「…ございません」
「では下命を待つように」
踵を返し歩き出したルトヴィアスに、アデラインは慌てて追いすがった。
「あ、あ、あの殿下!お待ち下さい!」
立ち止まらないルトヴィアスの横を小走りになって追いかけながらアデラインは言い募った。
「処分て…あの…」
「王太子妃になろうという女性に乱暴を働いたんです。罰をうけるのは当然でしょう?」
ルトヴィアスのその瞳に、また冷たい冬の湖が垣間見えて、アデラインは言い淀んだ。
「あの…でも…処分てどんな…」
「騎士階級の降格、または騎士号を剥奪といったところだな」
いつの間にかアデラインの後ろから父や数人の官吏、侍官がルトヴィアスに従ってついてきていた。
「お父様、まさか剥奪なんて」
「しかし殿下。あれは御自らなさることではありません。ご自重下さい。」
「そうですね。心がけが足りませんでした」
ルトヴィアスは穏やかに頷いた。
その頭には立派な猫が大あくびしている。勿論アデライン一人にだけ見える幻覚だが。
「あの、殿下!彼らは私がマルセリオの娘とは知らなかったんです。だから…」
「相手の身分によって態度が変わるのが、一番問題だと私は思いますよ。アデライン」
ルトヴィアスが立ち止まり、アデラインをまっすぐ見下ろした。
その瞳には、感情の片鱗すら見あたらない。
――…さっきと同じ…。
美しいけれど、冷たい宝石のような瞳。あまりの美しさに寒気がする。
「騎士は貴族に次ぐ特権階級です。与えられた権利には義務が発生し、その義務の行使には品格が伴っていなくてはならない。彼らにはそれが足りないようでした。貴女もさっき同じようなことを彼らに言っていたではないですか」
「それは…そうですが…」
強い視線を正面から受け止めきれずアデラインは俯いた。
視界の端には青ざめ跪いたままの赤髪の騎士。少なくとも彼は職務に忠実だった。
ゴクリと、アデラインは喉を鳴らした。
顎をあげ、ルトヴィアスの視線に、自らの視線をのせる。
「屋敷の中とは言え、供をつけなかった私にも非がございます。どうか彼らには寛大な処分を賜りますようお願い致します」
隣から父が意見した。
「アデライン、それでは他の騎士に対する示しがつかん」
「騎士団の引き締めの為に私を利用するのはやめて下さい。見せしめなら、殿下自ら罰を下された者のあの姿で十分です」
父親を見ることなく、アデラインは続けた。視線はあくまでルトヴィアスから外さない。その瞳の色の変化を一切見逃してはならないと思ったからだ。
「あれに控える者は少なくとも職務から逸脱してはおりません。ご覧になっていたのなら、殿下もそれはご存知でございましょう?跪くことさえ出来ない者共々、どうか騎士として今一度品位を高める機会をお与え下さい。」
「…」
婚約者とはいえ、婚姻前のアデラインは臣下に過ぎない。世間知らずの娘の、気まぐれの憐憫ととられるだろうか。
じりじりと、時間が過ぎた。
宰相が、ルトヴィアスの様子を窺う。
アデラインは毅然と顎をあげていたが、握り締める掌は緊張の汗で湿っていた。
ふ、と張り詰めた視線を緩めたのは、ルトヴィアスだった。
「宰相、アデラインと少し話をしたいのですが」
「…あまり時間はとれませんが…」
「少しでかまいません。この後の予定を調整してください」
「かしこまりました」
「アデライン。来てください」
「は、はい!」
歩き始めたルトヴィアスに、アデラインは慌てて続いた。
ルトヴィアスは彼の自室の扉を自らあけ、アデラインを先に入るよう促す。
「中へ」
「…はい」
先程、扉の前にさえ立てなかったルトヴィアスの部屋に、アデラインは足を踏み入れた。
室内は一級の客人用の部屋らしく、白を基調としており壁の照明や扉の取手等は金で施されていた。狭いながら調度品も豪華で新しい。おそらくルトヴィアスを迎える為に新調したのだろう。
窓際に置かれた執務机には、書簡が山になっている。到着早々、目を通さなければならない書類があったようだ。
背後で扉が閉まり、アデラインは振り向いた。後ろ手で扉を閉めたルトヴィアスが、そのまま豪奢な扉に寄りかかり腕をくむ、途端に頭上にいた猫が鼠でも見つけたかのように跳び去った。勿論アデラインの幻覚である。
「お前はいつもああなのか?」
盛大なため息。額に手をあてているのでその美しい顔は見えない。
アデラインは唾を飲み込んだ。
「あ…あの…差し出がましい真似を…」
「本当にな!」
「す、すいません!」
ルトヴィアスの剣幕に、アデラインは縮み上がった。ルトヴィアスは噛みつくような勢いでアデラインに迫り、アデラインは逃げるように後ずさる。
「もう一度言うぞ。女神と王家に命を捧げる誓いの代わりに、王は騎士に数々の特権を与えた。それを勘違いして好き勝手するバカに騎士の資格はない!」
「はっはい!おっしゃるとおりです!」
後退するアデラインを、ルトヴィアスは尚も追い詰める。
「そもそもお前の顔を覚えてないあたり誓いすら守ってないただのクズだぞあいつらは!」
「そ、それは…」
背中が壁にあたり、アデラインはもう逃げ場がないことに絶望した。
せめてもと俯き、不機嫌なルトヴィアスの表情を視界にいれまいと努める。
「それは私も悪いので…」
バンっ、とアデラインの顔のすぐ横に、ルトヴィアスが勢いよく手をついた。
「ひっ…」
アデラインは小さな悲鳴をあげた。
先ほどの騎士より、ルトヴィアスの方が数百倍恐ろしい。
しかも助けを呼んだところで今度こそ誰も助けてはくれないだろう。
続きます。
2018.8.7 セリフ言い間違え訂正しました。