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正義と悪ともう一つ

作者: 家具屋

私は正義の味方に憧れています。


でもほんものの正義の味方はどこにもいません。


どうしていないんだろう?


かっこいいのに。


……。


今思うと馬鹿らしいことだ


いるはずがない。


いたとしてもそれは偽善の塊と呼ぶのだろう。


正義なんてない。










「私は悪者である」


 すごく、怖かった。


「…私は悪者である?」


 夜道に現れた黒い影は私には理解できないことを言っていた。

 当然日本語なのはわかっている。そういう意味ではない。

 ただでさえ足が震えている中、よくわからないことを言われ私はパニックになっていた。


「どどどどうした。大丈夫か」


 黒い影は慌てふためいていた。私は逃げようとしても足が思うように動かずに転んでしまう。近づいてくる影に涙目で視線をぶつけることしかできなかった。


「仕方ない、手を貸してやろう」


 黒い手が私に伸びてきて、咄嗟に振り払ってしまった。何かされるのではないかと気が気でなかった。


「まったく、やれやれだ。たとえ偽善であっても受け取っておくのが善ではないのか? いや、それもまた偽善であるか」


 逃げなきゃ……いけない! 四つん這いになってハイハイで動くのがやっとだった。無様な姿を見せながら私は少しずつ距離を離す。黒い影は追ってこない。


「そうだ。逃げろ逃げろ! 悪者には逃げるか立ち向かうかのどちらかしかない」


「待てぇー!!」


 もう一つの黒い影が私の前に現れた。私の後ろから飛び越える形で現れたその影はよく見ると白い服を着ていた。


「私は正義の味方だ! 悪者め! やっつけてやる!」


 私は不意の登場に驚いてしまい、動きを止め呆然としていた。私は夢を見ているのだろうか? それとも映画の撮影? 違う。夢でも映画でもない。現実……だ。


「出たな! 正義の味方! 悪者は正義の味方と戦わなければならない!」


 さながら特撮のような演技と殺陣で二人は殴り合いを始める。暗くてよく見えないけれども、彼らは普通に喧嘩をしているようであった。私は動くことも忘れてその喧嘩を観戦していた。


「なかなかやるな、悪者! ただし、正義は必ず勝つ!」


「甘いな、正義の味方。悪者は悪者なりの正義を貫いている。つまり私の正義も君の正義同様に必ず勝つのだ!」


 私は冷静になって話を聞いたときに悪者の言ったセリフを思い返していた。今更ながら思うといろいろおかしかった点が多い。


「ふっ、一理あるな悪者。だが悪者の正義は此方からは悪なのだ! 悪は滅びる! 勝つことはない!」


 哲学の授業でも受けているのだろうか。これは誰かが私に向けたメッセージなのではないか。いや、やっぱり映画のワンシーン? 考える度に意味がわからなくなる。冷静になるにつれて逆に混乱する自分の思考。今の状況、正義と悪。私はただ見ているしかなかった。


「そんな主観的に良し悪しを決めるべきではない! 実力が同じである以上、私たちは話し合うべきだと提案する」


「何を言う! 悪者が話すことは悪いことに違いない! 悪は滅びるべきなのだ!」


 悪者は戦うのはキリがないから話し合いで決めるべきだと言っている。でも正義の味方は悪者は悪いことしか言わないから実力行使。なんだか悪者の方が不憫な気もしてきた。


「頭の固い正義の味方だ。お互いの正義は譲れないものだ。言え! お前の正義とは何だ!」


「私の正義は困った人を助けることだ! それならお前の正義は何だ!」


「私の正義は人を困らせることだ! 困る人がいなければ正義の味方の出番はない。これは正義の味方のための正義なのである!」


 正義の味方のために悪いことをする悪者がいる。もう意味がわからない。私はこの場を去るべきなのではないか、いや傍観者として見続けるべきではないかと考え始めていた。さっきまではいち早くここから去りたいということだけしか考えられなかったのに、どうしてこのような考えに至ったかは私にもわからない。


「たとえお前がいなくても困っている人はいる! 正義の味方にお前という存在は必要ない!」


「私は悪者と名乗っている。悪者とはなんだ。悪いことをする人だ。悪いことをする人など私以外としても、どこにでもいる存在だ。つまり正義の味方は悪者がいなければ成り立たない存在である。お前の存在は私無しでは成り立たない! 悪が滅びると正義も滅びる!」


「な、なにぃー!」


 正義の味方は崩れ落ちた。


 私はよくわからないまま、正義の味方が悪者に論破される瞬間を見てしまったのだ。もう意味がわからないから早く帰りたい。この人たちと関わりたくないという感情しか湧いてこなかった。


「君!」


「は、はえ!?」


 悪者は私を指さした。あまりの驚きに奇声を上げてしまった。


「君はどう思う。悪者という存在は正義のために必要なのだと思わないか!?」


 どういうことなんだろう? 私は率直な意見を述べることにした。


「悪者がいなくなったら普通にいいと思いますけど」


「な、なにぃー!」


 悪者は崩れ落ちた。


 私はよくわからないまま、悪者が第三者に論破される瞬間を見てしまった……いや当事者になってしまったのだ。やっぱり早く帰りたい。

 今度は崩れ落ちていた正義の味方が私に尋ねた。


「正義の味方はいなくていいと言うのか君は……」


「別にいてもいいと思いますけど、特にやることはないんじゃないですかね?」


「正義の味方が正義を貫くこともできぬというのか……」


「困っている人がいないならそうなんじゃないんですかね?」


 率直に答えた。


「そう……なのか……ぐっ……」


 正義の味方は倒れてしまった。


「正義の味方が必要ない以上、悪者も必要ないということか……ぐっ……」


 悪者は倒れてしまった。


 私は少し考えてこの状況を何とかしようとして、面白い提案を思いついた。


「別に悪者もいてもいいんじゃないですか? 悪いことは正義の味方がいてもいなくても関係ないですし、やったらやったで悪者の正義もでき、かつ正義の味方の需要も生まれて一石二鳥だと思います」


「なるほど! 君は天才か! それなら私は悪いことをする! いやするべきなのだ!」


「ありがとう! 悪者が悪いことをするなら私の正義も人々に魅せることができるというものだ!」

 夜道、キャッキャと騒ぎながら談笑する彼らを背に、私は家へと帰宅するのであった。





 私は思った。


 正義はある。


 でも。


 正義の味方は別にいてもいなくてもいい。


 悪者はいない方がいいかもしれない。


 その微妙な違いが悪と正義の違いなのだろう。


 悪は何もないところから生まれてくる


 正義は悪がないと生まれてこない。




 そして第三者は……正義でも悪でもない。





 なにもの?


酔った勢いで書いた拙いものです。コメントか評価くれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] …このエッセイくらいに、世の中が単純だったら良いですねぇ。 実際は『それぞれの正義』のぶつかり合いが戦争ですからね、難しいです。 現実の正義と悪は絶対的ではなく、相対的なモノ。 故に絶対的…
[一言] 悪という概念は法がなければ生まれないと思いますが。
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